異常図書1408-8-1C[ネコのすべてを知れる本]

分類:図書凶器

人気推定値:86vol

状況:掲載物・原稿の焼却 制作関係者無力化

発見時の脅威:変身/赤 人体の不可逆的変形 封じ込めの必要

現在の脅威:汚染/赤 生成物の脱走


作品の概要

 2008年8月、███新書から出版された、ネコに関するペット本。

 前半部分は学術的な色が濃く、解剖図や品種と性格の傾向、生態について詳述されている。

 後半は前半の内容を踏まえて、人間とネコの同一化を進めていく。


異常の発現

 1ページ目から順番に読み進め、最後のページに書かれた

「あなたはネコのすべてを知りました。今やあなた自身、ネコと言っても過言ではありません!」

 を読むことによって異常を発現し、人体の不可逆的変形が発生する。

 被害者が嘔吐するような姿勢を取った後、頭が左右に割れて、その中から紙吹雪様のタンパク質の薄片と、被害者の体重の20分の1程度の重さのイエネコが現れる。

 被害者の体は各内臓の一部がくり抜かれたように失われ、頭部は皮膚だけになってしまう。

 ネコは被害者の記憶をある程度保持しているものと思われ、その性別は被害者と同一になるようである。


発見と対応

 発売後に通報された異状死事件の状況から発見、異常図書と断定。回収、焼却を行った。

 巻末に「イヌ、ウサギなどシリーズ続々登場予定!」とあったことから、それらを回収するべく関係者宅に踏み込んだところ、ネコと異常図書1408-8-1Cによるものと思われる特徴的な遺体を発見。全員がネコ化したものと思われる。

 ネコ化したと思われる被害者の数は██人。このうち、9人が行方不明になっており、現在捜索中。


異常発現の原因

 ネコの学術書に、同一化の指南書が組み合わさったことで、変身の魔術書としての機能を偶然に獲得したものと思われる。

 偶然の産物であるためか、非常に繊細で、少しでも内容を忘れてしまうと機能しないようである。

 人気推定値に比して被害者数が少ないのは、この性質が原因だと思われる。


現状

 回収、焼却は完了し、関係者もイエネコ化しているため、ほぼ完全な封じ込めに成功したと思われる。

 懸念されるのは、異常図書1408-8-1Cによって生成されたイエネコである。

 精密な全頭検査の結果、イエネコと特に差異は無いことがわかったので、██匹のイエネコは被害者の家族に引き渡されている。

 引き取りを拒否された、引き取り先が見つからなかったものが██匹おり、仮設飼育ケージ内に収容している。

 まず無いとは思うが、時間の経過で変身術が解除される可能性を考えると、安易に殺処分や不妊手術をするわけにもいかず、取り扱いを検討中。

 問題は行方不明の9人である。これらは検査ができておらず、ただのイエネコになったかどうか不明である。万が一、なんらかの異常性を帯びたネコになっていて、これが繁殖した場合、我々は日本列島のネコを絶滅する必要に迫られるかもしれない。

 被害者の記憶をある程度保持しているためか、名前を呼ぶと反応するので、この性質を利用して捜索中。

 死亡している可能性もあるため、ネコの死骸を発見した場合は組織片を採取する。


追記1

 2008年8月██日、████と████を確保。残り7匹。


追記2

 2008年8月██日、███を確保。残り6匹。


追記3

 2008年8月██日、█████と████を確保。█████は████の子を妊娠している可能性が高い。残り4匹。


追記4

 2008年9月█日、████を確保。残り3匹。


追記5

 2008年9月█日、████と思われる個体の確保に失敗。追跡中に死亡。残り2匹。


追記6

 2008年9月██日、異常図書1408-8-1Cによって生成されたイエネコのミトコンドリアDNAに特徴的な共通点を発見。

 回収していた死骸の組織片を調査した結果、1匹の死亡を確認。リストに残っているのが両方オスのイエネコだと思われるため、現状では、死亡したのがどちらかまでは特定する方法が無い。

 残り1匹。


追記7

 2008年10月█日、個体の捜索は打ち切り、定期的に捕獲した子ネコのDNAから汚染が生じていないかを確認する方式に変更。これは異常図書1408-8-1Cによって生成されたイエネコのうち、所在が判明しているものが全頭死亡するまで継続する。


追記8

記録1

 2009年██月、解析室で発生した異常図書事件の映像・音声記録。

(大音量で[みんな猫になりたいのさ]が流れている。音源不明)

「██さん! やめてください!」

(██、█を無視して異常図書1408-8-1Cのコピーを読み続ける)

「おい! 誰か来てくれ! 非常ボタン!」

(警報)

「そんなもの、どこに隠してたんですか! 早く離して!」

(██、ネコのようにうなり、激しく抵抗)

(█の悲鳴)

(外から解析室のドアを激しく叩く音)

(外からと思われる声)「開かない!」

「██さん! やめて! やめてください! 痛ッ!」

(██、█に覆いかぶさるようにして拘束)

「早く! 早く来てくれ!」

(外からと思われる声)「開かない!」

「開かない!? なんで!?」

 後の調査で、扉の開閉制御プログラムを██が上書きしていたことが判明。

 扉を破壊して強制開放するまでの約15分の間に██はイエネコ化。異常図書1408-8-1Cは15分で読めるものではないので、あらかじめ熟読していたものと思われる。

 これが██だけで完結している異常行動であるならば特に問題は無いが、██は仮設飼育ケージ内で収容しているイエネコの世話をしていた職員であり、行方不明になった個体の捜索にも加わっていた。

 ██以上に異常図書1408-8-1Cによって生成されたイエネコと濃厚な接触をしていた職員は他におらず、異常図書1408-8-1Cによって生成されたイエネコとの濃厚な接触がこの事件を引き起こした疑いがある。

 また、記録されている[みんな猫になりたいのさ]の音源は現在も不明であり、異常図書1408-8-1Cによって生成されたイエネコが、なんらかの異常性を帯びている疑いを強めるものである。

 ██が隠し持っていた異常図書1408-8-1Cのコピーの来歴も不明である。██の行動記録を追跡調査したが、記録されている限りではコピーを作成する機会は無かった。記録に穴が無いわけではないが、なんらかの異常性によって妖怪図書のように出現した疑いがある。

 我々は本当に封じ込めに成功しているのだろうか?


異常図書1408-8-1Cによって生成されたイエネコの全頭処分提案について

 検討中。20██年までに結論を出す。

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