第162話
「合体!!融合勇者、イジコルテンジャ!!」
まずサジャさんの髪の毛を椅子の形に変化させて、そこにテンジンザさんが座り、そのテンジンザさんの膝の上に僕がイジッテちゃんを持ったまま座る。
「これが、イジコルテンジャだ!!」
「重い!!」
下半身を一身に引き受けるサジャさんから即抗議が出た。
そりゃそうだ、僕だけならともかくテンジンザさんの巨体だもんな。
「じゃあ、風魔法でえいやっ」
軽く浮かす魔法をテンジンザさんに、
まあ、テンジンザさんの重さを浮かすだけの魔力は僕にはないけど、軽くすることくらいはできるだろう。
「軽くはなったけど、そもそもこの爺さんを乗せるのが嫌え」
「それは言いっこなしですよサジャさん……」
「ふむ、では儂が立って走るから、サジャ殿は儂の背中におぶさる形になるのはどうだ?」
テンジンザさんからまさかの提案。
「いやでも、テンジンザさんが立って走ると僕とイジッテちゃんでは全身を守れないんですよね、大きいから」
体の中心に構えてしまうと、頭の先や足先に届かないので、そこを狙われると致命的だ。
「そうか……ならば、下半身だけ守ってもらうのはどうだ?儂は上半身だけに集中すれば良くなるだけでだいぶ楽になると思うのだが?」
まあ確かにそれも一つの案だけど、頭に攻撃が当たるとそれで終わる可能性があるのが辛い。かと言って足を奪われても近づけなくなるし……。
「あーもう、ほれ、これで良いえ?」
悩んでると、サジャさんがテンジンザさんの肩の上に胡坐で座り、髪の毛の一部でテンジンザさんの頭部をガードするように囲む。
そして、椅子を少し小さくしてテンジンザさんの腰にぶら下げるような形にすることで、そこに座った僕とイジッテちゃんがテンジンザさんの下半身を守れる。
もちろん背後にもしっかり髪の毛を配置しているので、後ろからの攻撃も防げている。
「おおお、これは良い、これは良いですよサジャさん!!これは、シン・イジコルテンジャですね!!」
「そもそも何だその名前」
今更名前にツッコミを入れて来るイジッテちゃん。
「え、みんなの名前を合わせてみたんですけど、格好良くないですか?」
「格好良くはない」
「え、みんなの名前を合わせてみたんですけど、格好良くないですか?」
「……いやだから……格好良くは……」
「え、みんなの名前を合わせてみたんですけど、格好良くないですか?」
「ループ辞めろこの野郎!!久々だな!!」
「改めて、イジちゃんよくこやつとパートナーやっていられるえ……」
「私もそう思う。というか、サジャ子もな」
イジッテちゃんが右手を高く上げると、テンジンザさんの肩に乗ってるサジャさんがその腕を強く掴んで意気投合する。
……そんな不自然な体勢でもがっちり手を握りたいくらい僕への不満で意気投合します?
「もういいかの?あちらさんも待ちわびておるぞ」
テンジンザさんに促されて視線を向けると、ダサマゾが玉を自分の回りでくるくる回転させながら待っていた。
「あ、ごめん。なんで待っててくれたの?」
「待ってはいない、ただ、何かを始めたから一応何をするつもりなのか確認しようと思っていたら、あまりにバカらしくて攻撃するのを忘れていたのだ」
「お褒め頂きありがとうございます」
「……褒めてはいない」
シンプルなツッコミを頂きました。あざまーす。
「ま、でも見てなよダサマゾ。この『あまりにバカらしい』やり方が、どれだけあんたを苦しめるのか……ってさ!!」
「よしっ、行くぞ!!」
テンジンザさんが移動を始めると同時に、風魔法で素早さを上げる!!
「むっ」
慌てて玉をこちらに動かすダサマゾだが、下半身に向かってきている玉は僕とイジッテちゃんで防ぎ、上半身はテンジンザさんが手甲で弾きつつ、そこから漏れたものはサジャさんの髪が弾く。
背後からの玉は、もちろん髪がパクリと食べる!
行ける行ける、これはいけるぞ!
攻撃をしのぎながら、ダサマゾに近づいたところで僕も剣を抜く。
「テンジンザさん!」
「よし来た!! ぬうううううん!!」
テンジンザさんが僕を、ダサマゾに向けて一直線に投げる!!
パワー凄いな!!
イジッテちゃんを構えつつ、再び籠魔剣に爆発魔法で加速!
「行くぞ一閃!!」
ダサマゾの居る場所に剣を振り下ろす!
――――が、剣は空を斬る!
「えっ!?」
かわされたのではない、消えたのだ。目の前から。
「遅いな」
どこか離れた位置から声がすると思ったその時には、もうダサマゾは僕どころかテンジンザさんのさらに後ろに回っていた。
「そうりゃっ」
唯一反応していたサジャさんだけが髪の一部を発射するような攻撃をするが、それもまた避けられて、再び遠距離からの玉が迫る。
テンジンザさんが慌てて僕を回収して、再びイジコルテンジャの形で攻め込むが、近づくと一瞬で距離を離されてしまう。
「くっそ、なんだよこれ!イライラするー!」
このままでは、延々と離れた位置から削られ続けていつかは力尽きてしまう。
「嫌な戦い方だな!!」
「まあ、魔族だからえ。強い敵相手に正面から正々堂々と戦ってくれると思う方が間違いえ」
サジャさんがそう言うならそうなんだろうけど……威厳ってものはないのか。
「あいつが魔王ってんならともかく、ただの魔族にそんなもん期待するなえ」
「でもサジャさんと初めて会った時はそれなりに威厳あったよ。正々堂々戦ってくれたし」
「絶対勝てると思ってたからえ」
「……なるほど……舐められてたんですね?」
「そうえ」
なんて真っ直ぐな肯定。
ただそれは逆に言えば、ダサマゾは僕らを舐めずに確実に勝てる方法を選んできてる、ということだ。
それを崩す為には、僕らが相手の想像を超える力を出すしかない。
ただ、それは言うほど簡単な事じゃない。
となると―――
「………しゃーないですね。このまま戦っててもジリ貧です。……リスクを取りましょう」
「リスク、とは?」
「テンジンザさんが死ぬ可能性が上がります」
「儂だけ!?」
そうでしょうとも、驚くでしょうとも。
でも、実際そうなのだから仕方ない。
「だって、僕はイジッテちゃんと共にあるのでなかなか死なないですし、サジャさんはそもそも魔族だからそうそう死なないですし……でもテンジンザさんは、ダサマゾの攻撃を一発でもくらえば死んでしまう可能性があるんですよ」
「それは、確かにそうだが」
「それでも、この中で一番パワーがあるのはテンジンザさんですし、死なれて一番困るのもテンジンザさんです。なので、あまりやりたくない作戦ではあるのですが……」
そう、たとえ勝利したとて、英雄の死と引き換えに国を奪還するというのはそれこそリスクが高い。
それ自体は美談にはなるし、国内の絆を強めることは出来るだろうけど、テンジンザさんという圧倒的英雄による抑止力で周囲の国はなかなか攻め込めなかった部分が大きいので、国を立て直している途中に攻め込まれるようなことになったらかなり厳しい。
やはり、英雄が健在で国を取り戻すのが圧倒的に最善なのだ。
「なるほど、つまり儂が死ななければいいのだろう?」
「それは……まあ、そうですけど」
「ならば心配するな。儂が英雄としてどれだけの危機を乗り越えて来たと思っている? 命の危機など何度でもあった。それでも生き残るからこそ、英雄なのだよ」
その言葉には満ち溢れる自信と、自分が死ぬはずがないという確信を感じた。
それを信じて良いのか……迷う所だけれど、勝つためには信じるしかない。
英雄が、英雄であり続ける力を!
「解りました……じゃあ……」
僕はテンジンザさんとサジャさんに作戦を伝える。
作戦自体はとても簡単なものだ。
だからこそ効果があるし、だからこそ危険もある。
それでも、やるしかない!!
「―――では、行きますよ!!」
「おうよっ!!」
「了解えー」
先ほどと同じように、まずはダサマゾに向かって突進!!
そして、ある程度の距離になったら僕を投げてもらう!!
ただし、今度は敵を斬りに行くのではなく、突きに行くような形で真っすぐ剣を構えたまま突撃!
やはりダサマゾは一瞬で姿を消すが、ここで籠魔剣から爆発魔法の逆噴射!!
一度では急停止とまでは行かないので、風魔法と爆発魔法を連発する!!
「どららららららぁ!!」
爆発魔法の方が逆噴射としてスピードを落とす効果は高いが、二つの魔法の複合なので出すのに少し時間がかかる。
なので、爆発魔法と爆発魔法の間に少し効果は劣るが出しやすい風魔法を使うことで、出来る限り最速で速度を落として―――
「左!!」
テンジンザさんからの声で、右に爆発魔法を噴射して向きを変える!
見えた!居る!!
今度はそこへ向かって――――
「っっっどぅらっ!!」
爆発魔法で噴射でダッシュ!!距離を詰める!!
「むっ」
僕の先ほど良いかなり素早い移動に少し驚いたのか、再び距離を取り移動する
「もいっちょ!!」
再び爆発魔法と風魔法で急速旋回!!
っっぎぃ!キッツイなこれ!!連発は魔力消費がエグイ!
「ちっ」
けれど、その分効果はあるらしく、ダサマゾは苛ついてさっきよりさらに大きく距離を取る。
わかるわかるよそうなるよな、けどそっちには―――
「残念、わっちが居るえ♪」
実に楽しそうに、移動先で待ち構えるサジャさん!!
サジャさんも投げられていたのだ、テンジンザさんに!
髪の毛を鞭のようにしならせて広範囲に攻撃すると、さらに逃げようとするダサマゾの左腕に傷をつける。
「くっ!」
しかし攻撃が届いたのはそこまでで、さらに距離を取ろうとするダサマゾ。
けど、今度は僕がそれを追いかける!!
こうして二人で詰めていけば、確実に攻撃を当てられる確率は上がる。
ただ、この作戦の弱点は―――
「ぐわぁ!!」
テンジンザさんの叫び声が耳に届く。
一瞬だけ視線を向けて確認すると、いくつもの玉に襲われているテンジンザさんが目に入る。
そう、この作戦はテンジンザさんを守る盾役が誰もいない、ということだ。
ダサマゾは移動しながらも玉を遠隔操作できる。
僕らに対する攻撃にも使っているが、最強の盾を持つ僕、下手をすれば玉を食べられるサジャさんよりも、まず無防備なテンジンザさんを殺すことで戦力を奪うのが一番有効な戦法なのは明らかなのだ。
僕らがすべきことは、テンジンザさんが何とか耐えているうちにダサマゾを倒す!それしか勝利の道はない!
「すいませんけどテンジンザさん、しばらく生きてください!!」
「任せろ!!まだあと100年は生きるぞい!!」
それはもう人の域を超えてるやつ!!
ただまあ、テンジンザさんなら生きそうな気もするから怖い。
「んじゃまあ、とっとと決着付けますか!100年以内に!!」
僕とサジャさんは長年のコンビのように息の合った連携でダサマゾを攻め立てる。
仲間になってからは毎日一緒に居たので、サジャさんの考えてることはだいたいわかるのだ。
というか、サジャさんはなんていうか、良くも悪くも恐ろしいまでに真っすぐな人なので、僕がこう来てくれたらいいな、っていう事をやってくれる。
戦いに対する感性が似てる上に、捻らない。
それは今の僕にとってとてつもなく頼もしいパートナーだ。
「でいやっ!」
何度目かの爆発魔法で一気に距離を詰めるも、その前に玉が立ち塞がり進路を塞ごうとする。
だが―――
「ぱくり、っと」
サジャさんがそれを食べてくれたことで、ダサマゾまで一直線に最短距離!!
これは取った!!
籠魔剣がダサマゾの首を切り落とさんとその刃を突き立て――――
「―――……がっ…!」
突き立てた、と思った瞬間、僕の剣は直前で首から遠く離れていく。
いや、違う。
僕が、僕の体ごとダサマゾから離れていくのだ。
同時に、腹部に鈍い痛み。
そこには、イジッテちゃんの体がある……あるが、その体越しに黒い龍のようなものが僕の体を吹き飛ばしていた。
「飛べ、我が龍よ」
なんだよダサマゾその格好良いセリフ!!
黒い龍はイジッテちゃんごと僕の体を天高く持ち上げ、そのまま一気に反対側の壁に叩き付けられる……!!
「かはっ…!」
強く背中を売って、口から空気が漏れる。
いってぇ……!!
しかも、壁にぶつかっても止まらずに壁と挟み込むように押してくる……!
ぐうっ……!!やばい……!!
イジッテちゃんが直撃を止めてくれているとはいえ、ここまでの強い力で壁に押し付けられ続けたら、そのうち内臓が潰れる……!!
しかも壁が……王の間の壁だから頑丈過ぎて壊れる気配がない……!
これは……下手すれば死ぬ………!
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