第161話
「ふん、まあ貴様は覚えてないだろうな。古の神話大戦の時代、まだ魔族の下っ端だったこのエストレスのことなど」
なるほど、その頃の話か、あなたもだいぶ長生きですね?
見た目はわりと若そうだけど……ショタではない。
二人はロリババアなのにショタジジイじゃないのか。
その場合なんて言うんだろうな……青年ジジイ……?
いや、違うな……えーと、
「ずいぶんな若作りですね」
言葉を間違えた気がする。
「普通だが?魔族の寿命からすると普通の成長具合だが?」
気にしてない風を装って怒られた。実は気にしてるみたいだ。悪いことしたな。
「全然悪いことしたと思ってないだろ……?」
やだなぁイジッテちゃん。めちゃめちゃ思ってますよー。
「で、若作りさんはその頃イジッテちゃんと戦ったの?」
「お前……」
イジッテちゃんがツッコミを放棄して呆れているけど、ダサマゾはムカつくのでこのくらいの意地悪は許して欲しい。
「戦ったと言うが、あの頃はただの盾だったからな そやつは。攻撃を全て弾かれて、己の力の足りなさに腹が立ったものよ」
「怒る必要なんてないぞ。あの頃だろうと今だろうと、私は最強の盾だからな、今のお前の攻撃も全て弾く。お前の攻撃だけじゃない、この世の全ての攻撃を、私は拒絶する。それが、この私、イージスだ」
「おおぅ、珍しく格好良いよイジッテちゃん」
「そうだろうそうだろう。珍しくは余計だけどな?」
「ふん、つまりそなたは、今、この戦いでも我が攻撃を全て跳ね返すつもりだと?」
「ん?そりゃそうだろ」
こともなげに答えるイジッテちゃん。
彼女にとってそれは当然の事。
「己に防げぬ攻撃などない、そう思っているような顔だな?」
「思ってますが何か?」
「では――――その思い上がりごと打ち砕いて差し上げよう……!!」
言うやいなやダサマゾは先ほどと同じボールを大量に出現させて、それをこちらへと飛ばしてくる!
「イジッテちゃん!!」
「任せろ!!」
上下左右四方八方から飛んでくるボールをことごとく防ぐイジッテちゃん。
しかし、その威力はすさまじく、イジッテちゃん越しに伝わってくる衝撃で、僕の足が少しずつ後ろに下がり始める。
「少しの辛抱だ、こらえろ少年!!」
全てのボールが僕たちに向いている中、テンジンザさんがダサマゾに向かっていく!
それでもボールはテンジンザさんに向かうことなく、ひたすら僕らを狙って来るので、こっちは防ぐのに専念してテンジンザさんに攻撃を任せる。
「でいやぁ!!」
テンジンザさんが大剣を振り下ろす!!
……が、ダサマゾの鎧がそれを弾く!!
「なにィ!?」
「この鎧は魔界でも指折りの硬い鉱石で作られている。その程度の攻撃ではビクともせんよ」
余裕を見せるダサマゾだが、テンジンザさんはその間も二撃、三撃と打ち続ける。
「無駄だと言っておろうが」
「儂に砕けぬものなど、この世に存在せんわぁぁぁ!!!」
大上段からの、全力振り下ろし!!
ギイン!と今までと違う音を立てたかと思うと、鎧の肩の辺りにヒビが入った!!
「ぬうっ……!」
けれど、それと引き換えにテンジンザさんの大剣が折れた……!!
「残念、砕けなかったな」
「まだまだぁ!!」
折れて宙に舞った剣をそのまま手でつかむテンジンザさん!
一応、手の部分は手甲でガードしていて、手のひらも硬めの皮で包まれているから指が切れることは無いだろうけど、それにしたって手で直接持った刃を全力で振り下ろすのは危険ですよ!
さらには、折れて半分以下になった大剣を逆の手で持ち、タニーさんも真っ青の二刀流だ。
またこれが様になっておられる。これだから天才は!!
そして――――
「ぬぅぅぅぅうん!!!」
ついに、鎧の右肩が完全に砕けた!!
「ちっ!」
さすがにマズイと思ったのか、僕の回りに集まっていた玉が一つテンジンザさんの方へと猛スピードで接近する!!
「ほい、いただきますえ」
しかし、それをサジャさんの髪が食べる!
先ほど見た光景とよく似ているが、髪の毛の中で暴れていた玉は、バリボリと噛み砕されてその動きを止めた。
「飛び回ってるのをわざわざ捕まえるのは面倒じゃが、飛んでくる場所が解っているのなら、良いエサえ?」
サジャさん……不敵な笑みが素敵です!
ってか、これ……僕ら良いチームなのでは?
勝てる、これなら勝てるぞ?
――――しかし、そんな浮かれた気持ちを一瞬で打ち砕くような寒気が背中を駆け抜ける。
「――――やれやれ、面倒だが……少し本気を出すか」
蘇る。
あいつを始めてみた時に感じた恐怖が。
落ち着け、落ち着け! あの時とは違う、テンジンザさんとサジャさんが居る。
そうそう簡単に負けるはずがない!!
「その余裕、剥ぎ取ってやるわい!!」
テンジンザさんがさらなる攻撃を仕掛けようと剣を振り下ろすが……その剣を、片手で止めるダサマゾ……!
そして、そのまま手を上にあげると……嘘だろ……あのテンジンザさんの巨体が……浮いた!?
「バカ……な!!」
おそらく、もう何十年も誰かに持ち上げられたことなんてないだろうテンジンザさんの巨体。それを、軽々と……!
あまりのことに驚きを隠せないテンジンザさんを……まるで剣だけを上に投げるような軽さで、天井まで投げ飛ばすダサマゾ!
「うがぁ…っ!」
天井に思い切り背中をぶつけて、落下してくるテンジンザさん!
するとダサマゾは、落下地点にテンジンザさんの折れた剣を、地面に突き刺す!
ヤバい!あのままだと、落ちてきたテンジンザさんに剣が刺さるぞ!!
「ちっ、世話が焼けるえ!」
なんとかサジャさんが髪の毛を広げてクッションにして受け止める!
―――が、
「ご苦労だな」
そのサジャさんの腹をダサマゾが蹴とばすと、今度は横方向に二人が吹っ飛び、同時に壁まで到達した。
なんちゅうパワーだよ。
しかも、こっちはこっちで玉の攻撃が止まらない。
同時にやってんのか?
どっちにしても、このままじゃジリ貧だ。
こっちから何か動かないと。
「イジッテちゃん、行けるかい?」
僕のその言葉だけで、全てを察するイジッテちゃん。
「タイミングは私が指示する。そしたら突っ込め」
「了解!」
イジッテちゃんが玉の動きをある程度見極めて……
「今!」
「あいっ!!」
僕は自分に風魔法をかけて空気抵抗を減らしつつ、籠魔剣の爆発魔法で一気に加速!!一瞬で玉を潜り抜けてダサマゾの前まで辿り着き、テンジンザさんが壊した肩の部分に斬りつける!!
「ふん、つまらん攻撃だ」
それを先ほどと同じように掴もうとするダサマゾ……!
「―――残念でしたっ!」
ここでもう一発爆発魔法を射出して、剣の軌道を変えて掴まれるのを避ける!!
「からのっ!」
3発目の爆発魔法でもう一度軌道を変えて、肩に一撃!!
ここ数ヶ月の特訓で、魔法を連発しても体がついていけるようになった成長どうよ!!
剣で斬り裂かれた肩からは血が噴き出す。
だが、その見た目の派手さほどにはダメージは多くないらしく、表情を変えないダサマゾ。
「―――なるほどな」
そう言いつつ、自分の肩に炎魔法をぶつけて傷口を焼いて血を止めるダサマゾ。
やはり魔族なだけあって、回復魔法は得意ではないらしい。
そもそも、魔族には回復魔法はダメージになるって話も聞いたことあるけど本当だろうか……今度サジャさんに試させてもらおう。
「試させるかえっ!」
「おおっ、サジャさん、無事でしたか」
ツッコミと同時に戻ってくるとはさすがですね。
「一撃食らわせるとはやるな少年。まあ、儂が鎧を砕いたからこそだがな!」
こっちは負けず嫌いと共に戻ってきたテンジンザさん。
お二人とも無事で何よりです。
「しかしまあ、三人がかりで肩に傷つけただけってのも情けない話ですね」
僕はともかく、テンジンザさんとサジャさんが居れば楽勝かと思ってたけど、さすがにそんな甘くないか。
「そう言うな。まだまだこれからよ。あの鎧さえ壊せれば、形勢は一気にこちらの有利に―――」
そのテンジンザさんの言葉が終わるのを待たずに、何か重いものが落ちる音がしたかと思ったら……ダサマゾが、鎧を脱いでいた。
「……はっ? どういうつもりだ?」
肩が壊れたとはいえ、まだ全身を包む鎧としては十分に機能するのに、脱ぐ理由がわからない。
「なに、こんな簡単に壊れるような鎧など、ただの重りに過ぎぬのでな。無い方がマシと思ったまでよ」
鎧の下には、黒い法衣のようなものを身に着けていたダサマゾ。
確かにだいぶ身軽になったように思えるけど……。
「さっきの手ごたえからすると、アンタの肌は人間のそれとさほど変わらなかったぞ。一撃でも攻撃をくらえばかなりダメージあるんじゃないか?」
「そうだな、くらえば……な」
不敵な笑みを浮かべたその瞬間―――
「振り向けコルス!!」
イジッテちゃんの声で慌てて振り向くと、いつの間にか背後に回っていた大量の玉が一気に押し寄せてくる!!
「くっ!」
何とか体勢を入れ替えて防ごうとするも、イジッテちゃんの届かない角度から来た玉のひとつが僕の左足を直撃する!
「いっっっっっっ……てぇ!!」
けど、倒れたらさらに危ない……!
なんとか痛みに耐えてイジッテちゃんを構え、玉を防ぐ。
テンジンザさんも一発脇腹にくらったようで、片手で抑えながらなんとか躱している。
サジャさんは……また玉を一つ食べたようだが、それ以外の玉に髪の毛をだいぶ抉られて、かなり短くなっているのがわかる。
「どうした?攻撃を食らわせれば勝てるのだろう? 食らわせてみるがいい」
くっそムカつくな余裕かましやがって。
でも……さっきの一撃で足が……!
立ってるいることは何とかできるから折れてはいないと思うけど、ヒビくらいは入ってるかもしれない。
どちらにしろ、素早い動きは封じられた。
あの玉、あまりにも厄介だ。
一発の威力が異様に高いだけでなく、空中を自由自在に動き回るから防ぐのも難しい。
イジッテちゃんが居なかったらもうとっくに死んでるぞ……いやまあ、それ自体はいつものことだけど。
「どうする少年」
「どうもこうも、守りに入ってたらいつか負けます。強引にでも本体を叩きに行くしかないですね」
「けど、普通に突っ込んでいっても反撃されるぞ。どうする?」
テンジンザさんの意見はもっともだ。
特に、防御担当の僕が足をやられたので、テンジンザさんたちを守りながら一緒に接近するというのも難し――――――……ん?
そうか、一緒にか、そうか……なるほどな?
「テンジンザさんとサジャさん……ちょっと、ご相談があるんですけど?」
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