第159話
「死ぬかと思ったー!!」
「無事ぃ!!タニー選手無事ぃぃぃ!!」
無事でした。
どうやら、とっさに二本の刀をクロスして拳を受け止めたようだ。
ただ、かなり吹っ飛んだので、直接くらっていたらどうなっていたか……。
「解説のテンジンザさん、苦戦してますね」
「うむ……正直単純な実力だけなら二人の方が上であろうな。あの偽物が儂と同じ強さだと言っておったが、儂の強さを支えておるのは単純な力ではなく、経験と勘だ。それがないあの偽物では二人に遠く及ばないと思っていたのだが……」
「実際はそうではなかったと」
「そりゃあ、あんなでたらめな戦い方は想像出来るはずがないわい」
「まあでも、本人のでたらめな強さを表現するにはあのくらいのやりたい放題が必要ってことじゃないですか?」
「ん?……ほほう、なるほど、そうかそうか、そうかもしれんなぁ」
満更でもないみたいな顔しておられる。
散々世界中から称賛を浴び続けて来たのに、まだ褒められたら嬉しいのかこの人は。褒められ慣れってしないものなんだろうか。あんま褒められないからわかんないな。
なんて、そんな会話をしてる間にもオーサさんとタニーさんは何度か攻撃を仕掛けるが、多少のダメージは与えるものの決め手がないまま時間ばかりが過ぎていく。
「あーもーなんだよこれ!!おい魔族!!本当にこの戦い方で良いんだろうな!?」
オーサさんがイライラしてサジャさんを問い詰める。
二人はまだまだサジャさんと打ち解けてないので、魔族、とか呼ぶ。
「多少は削れてるえー」
「どのくらいだよ!」
「あと100回くらいじゃないかえ?」
「死ぬわ!!」
1回1回が命がけなのに、100回も成功するはずがない。体力も持たないし。
「そもそも、お前らの狙う場所が悪いえ。腕だの足だのを斬っても、斬られる直前に魔素を薄めてダメージを軽減させられるだけえ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
「決まっとる。魔素の濃い部分を斬り刻むえ。例えば―――その大剣、とかえ?」
そうか、大剣部分は剣としての硬度を確保するために濃い魔素が必要なんだ。
「理屈はわかるけど、あんな硬いもん斬れるかよ!」
「そこは知らんえ。頑張るえ」
「肝心なとこ!!」
それきりサジャさんは黙ってしまった。
「しゃーない、それしかないんだ、とりあえずやってみようオーサ!」
イライラしてるオーサさんをたしなめるタニーさん。さすが冷静だ。
まずはタニーさんが攻め込み、それを偽テンジンザが大剣で止める。何度目だこの構図。
次に、オーサさんが、後ろから斬りつける――――と思わせて、偽テンジンザの横へ移動!大剣そのものではなく、それを持つ両腕を狙う!
「取った!」
斬れる、と確信している様子のオーサさんだけど、甲高い音を立て剣が弾かれる!
さっきまで切れていた腕が切れなくなっている。おそらく腕狙いが読まれて魔素を腕に集めたのだろう。
「くそっ!ならばっ!!」
腕に止められた剣をそのままスライドさせて、剣を持っている指を狙う!
しかし指に到達する前に、手首の辺りにもう一つの手が出てきて、その剣をキャッチされる。
「なんっだよそれ!!ズル過ぎるだろ!!」
「魔族だか……」
「わざわざ言わなくていいよっ!!」
お馴染みの流れをやろうとして止められたサジャさんがほっぺたをぷくーっと膨らませて不満を顔に出す。可愛い。
真似をしてイジッテちゃんもなぜか不満顔をする。超かわいい。
なにこの可愛いロリババアコンビ。
おおぅ……今絶対声に出してなかったのに凄い睨まれた……やっぱり心が読めるのでは……?
「何度も言うが、お前が顔に出過ぎているだけだ」
ロリババアって思ってるのが顔に出るってどういう出方なんだろうか……自分で確認できないのが憎い。
「うわぁ!!」
剣を掴まれたオーサさんが振り回され、勢いでタニーさんへと投げつけられるように衝突する。
「すまんタニー!大丈夫か!?」
「問題ない。けど……どう攻めたらいいか……」
二人が完全に攻めあぐねている。
けれど、偽テンジンザは自分から積極的に攻撃を仕掛けてこない。
余裕の表れなのか、それとも時間を掛ければかけるほど外に残っている僕らの仲間たちの状況が悪くなることを狙って、あえて時間を使っているのか……。
どちらにしろこのままじゃジリ貧だ……。
すっかり実況するのも飽きて……じゃない忘れて見入っていた僕らだったが――――隣のテンジンザさんが立ち上がった。
「仕方ない……儂がやるしかないかのぅ」
腕をブンブンと振り回してやる気満々のテンジンザさん。
その顔はどこか狂気を帯びた笑顔にも見える。
きっと、血が騒いだのだろうな。
二人があれだけ苦戦する相手を、自分ならどう倒せるのか、と。
「お待ちくださいテンジンザ様!!」
しかし、それをタニーさんが止める。
「我ら左右の大剣を信用できませんか。テンジンザ様の力は必ず最後の戦いで必要になるはずです。どうかここは我らにお任せを」
「―――策はあるのか?」
「………あります、とっておきの策が」
きっぱりと言い放ったタニーさん。……本当に?
「よかろう、ならば見せてみよ。この儂に、そなたたちは信頼に足る部下であると、見せつけてみせよ!!」
「「御意!!」」
テンジンザさんの語気に、二人の声が揃う。
それを見届けて座るテンジンザさん。
……最初から、二人に気合を入れることが目的だったのか、それとも本当に自分も戦おうとしたのか……読めないなぁこの人は。
ともかく、気合の入った二人は大きく息を吸い、呼吸を整えた。
「―――しゃーない、アレ、やるか」
「アレかーーー……ダサマゾまで温存しておきたかったなぁ」
「まあな、けど分かっただろう?こんなやつにさえ勝てないオレ達が力を温存して最終決戦に挑もうなんて考えが甘かった、ってことさ。やるぞ、全部出せ。それでやっと俺たちは、テンジンザ様の役に立てる……!!」
「っっっしゃ!!やるかぁ!!」
叫ぶとおもむろに二人は、腰の辺りにぶら下げている小さな袋から何かを取り出した。
ポーションでも入れているのかと思ったけれど、あれは……魔力飴!?
魔力飴をいくつか口の中に放り込むと、二人の体が魔力を帯びる。
そして――――
「風の魔法!!」
「土の魔法!!」
タニーさんが風、オーサさんが土の魔法を使うと、タニーさんの足……特に義足の部分に魔力が集まってき、オーサさんの土の魔法は大剣を岩で覆い今までの2倍以上の大きな岩の剣が出来上がる。
いつの間に魔法を……!!
確かに、飴の効能とは言え魔力を得られればそれを利用して魔法を使うことは理屈としては可能だけれど、二人が魔力飴で初めて魔力を得てからまだ1年も経ってない。
そんな短期間でこれだけの魔力を操れるようになったのだとしたら、相当な努力を重ねたのだろう。
――――くそっ、すげぇな!!
「行くぞ……風速の舞!!」
タニーさんが義足に力を籠めると、バキン……!と明らかに負担のかかる音がしたが、次の瞬間今までとは比べ物にならない速度で偽テンジンザへと接近する!!
「どらぁぁ!!!」
そのスピードの勢いをそのまま双剣の威力に乗せるように、回転して下から斬り上げる!!
防ごうとした偽テンジンザの大剣が、双剣に弾かれて腕ごと跳ね上がる!!
「オーサ!!」
「おうよっ!!」
その瞬間、自分の体の三倍はあろうかという巨大な岩の剣を、オーサさんが全身の筋肉を真っ赤に筋立てながら振り下ろす!!
「どっっこいせぇええ!!!」
ちょっとダサい掛け声と共に振り下ろされたその剣は、弾かれた上の位置でそれを防ごうとした偽テンジンザの大剣を真っ二つに叩き折り、そのまま全身を縦に切り裂いた!!
「どうだおらぁ!!」
見事なまでのドヤ顔を見せるオーサさんだが、勢いと重さで大剣が床にめり込み、動かせなくなってしまう。
「ぬっ、このっ!このっ!!」
そこへ、真っ二つになっても動き続ける偽テンジンザの折れた剣が迫る!!
「魔法解除して!!」
思わず声を上げてアドバイスする僕。
「えっ!?あっ、そうか!!解除!!」
魔法を解除すると岩が剥がれ落ち、いつもの剣が現れたので、それを頭上にかざすように持ち上げつつ後ろに下がると、つい今までオーサさんが居た場所を通り過ぎる。
「あっぶね!!」
「その状態でもっかい魔法使って!!」
「へっ?あ、ああ、土の魔法!!」
すると今度は頭上に持ち上げた剣が岩を纏っていく。
「そんで振り下ろして!!」
「なーーーるほど!!!」
二発目の岩の大剣は、半分になった偽テンジンザをさらに半分にする!!
「こんな戦い方もあるのか!!ありがとう少年!!」
「お礼は良いから集中してください!!」
まだ魔法を使った戦い方に慣れてないのが解るけど、もっと使いこなせるようになったらこれは魔法に頼らないテンジンザさんとは別の強さを持った存在になるだろう。
「テンジンザさん、うかうかしてられませんね?」
「うぬぬ……少年、この戦いが終わったら儂にも魔法の使い方教えてくれ」
「嫌ですよ……テンジンザさんここからさらに強くなるつもりなんですか……? 僕そんな怖いことに手を貸したくないです……」
冗談抜きで、魔法無しでも全世界最強の座に近いテンジンザさんが魔法を使えるようになったら、それはもう魔族と変わらないレベルの脅威だよ。
ジュラルだけとんでもない兵器を所有してるみたいになっちゃうぞ!!パワーバランス!!
なので却下です。
まあでも、この人なら自力で身に着けるんだろうな!そう言う人だもんな!!
「おおっ、見ろ少年、凄いぞ」
興奮してるテンジンザさんの視線の先には、双剣を構えて回転しながら偽テンジンザの体を切り刻むタニーさんの姿があった。
コマのように回ったかと思えば、ジャンプして縦に回転したり、あらゆる角度で勢いを殺さないようにひたすら回転しつつ相手を切り刻む。
「凄い……!!けど、アレですねイジッテちゃん……」
「……やめとけ」
僕の言いたいことを察したのか、早々に止めに来るイジッテちゃんだが、気にせず話を続ける。
「あの回転見てると、僕とイジッテちゃんが初めてモンスター退治に行った時のこと思い出しますね」
「あんなもんと一緒にしたらタニ助が気の毒過ぎるからやめてやれ。あと、嫌なこと思い出させるな。腹を消毒したくなる」
どうやらすっかりトラウマを植え付けてしまったようだ。
まあ、あれは僕が悪い。幼女の腹の上に嘔吐したあの事件を、僕は一生忘れないだろう。
良い思い出だ。
「脳みそ腐ってしまえこの野郎。良い思い出なわけあるか!!」
ツッコミが強いよイジッテちゃん。ごめんて、本当に反省してるって。
そんな話をしている間にも、まるで何十もの風の刃に切り刻まれているように、細切れになっていく偽テンジンザ。
しかし、細かくしきれないのか、大きな塊がいくつか集まり始めると同時に、細かくまだ生きている欠片も針のようにとがってタニーさんへと襲い掛かる。
それを切り捨てつつも本体にも攻撃を加えていくタニーさんだが、少しずつ体力が持たなくなってきているのか、少し回転が落ちると、すぐに塊が大きくなっていく。
「どっっせい!!」
そこへオーサさんが岩の大剣を、今度は剣を縦ではなく横にして、叩き潰すように振り下ろす!!
ビターン!!と凄い音をさせて潰れる偽テンジンザの塊。
「とりゃりゃりゃ!!」
床に落ちたそれを両手の双剣で次々と斬るタニーさん。
「こんにゃろ!こんにゃろ!!」
大剣を何度も地面に叩き付けて、さらに潰そうとするオーサさん。
二人の見事に息の合ったコンビプレイが繰り広げられているのだけど………なんか見た目が……そうだ、あれだ、昔文献で見た、東洋の「モチツキ」だ。あの動きにそっくりだなぁ……いや、良いんだけども!
あの動きが効果的なのは確かだろうし!!
そしてしばらく続いたその動きが――――不意に、止まった。
肩で息をする二人が見つめる先には、斬られ潰され細かくなり動かなくなった黒い魔素の残骸……
「やった、のか?」
「……たぶん……な」
二人は近づいていき、勝利宣言のハイタッチを決めると、息を切らせてその場に座り込んだ。
「あーー!しんどかった!!」
「ほんっっと、きつかったな!!」
肩を抱いて勝利を確信する二人だけど、なんだろう、なんか嫌な予感がするな。
いや、確かにもう黒い塊は動いてないんだけど、なんだか――――
そう思った次の瞬間、今まで二人が攻撃していた場所とは違う場所から、黒い剣が突然現れた!!
「危ないっ!!!」
そう声をかけるも、剣は二人に向けて振り下ろされて―――――
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