第158話

「さあやってまいりました偽テンジンザvs左右の大剣、偽とは言えこれは師匠と弟子の対決であります。果たして大剣コンビの師匠越えは成し得るのか?」

「……少年、何をしている?」

 何って、実況ですけど。

 二人が戦う時は僕が実況する決まりなので。

 この部屋にも机があったので、それを実況席に見立てて、ソファーに座る。

「解説のイジッテさん、よろしくお願いします」

「はい、よろしくおねがいします」

「イージス……?」

 イジッテちゃんも僕の隣に座り、「お馴染みのやつね」くらいのテンションなので混乱するテンジンザさん。

 サジャさんはやれやれ付き合ってられん、という顔で床に横になった。

 そうでしたね、前の時はサジャさんの手下的な魔人のフォズさんvs左右の大剣でしたもんね。最終的には負け試合だったので、嫌な記憶かもしれないからそっとしとこう。まあ、実況は止めないけど。

「そしてゲストは、なんと本物のテンジンザさんです。よろしくお願いします」

「はっ?うえっ?儂もそこに加わるのか?」

「どうですかゲストのテンジンザさん。この勝負どう見ますか?」

「……有無を言わさずこのノリに参加が決定なのか……?」

 僕とイジッテちゃんは、そういう世界観を壊す発言には一切答えずにただただ質問に答えるのをじっと待つ。

 顔を凝視しながら待つ。

「……そう、だな。あの敵が本当に儂と同じ強さなら、正直まだあの二人に負けるつもりはない」

 言いながら、諦めたように座るテンジンザさん。ようこそ実況席へ。

「ほほう、つまり勝ち目は薄いと?」

「あの影が本当に儂と同じ強さなら、な」

「と言うと?」

「まあ、見ておれ。見てればわかるわい」

 不敵に笑うテンジンザさん。何やら思う所があるらしいが、さてはて。

「なるほど、ありがとうございます。さあ、いよいよ試合開始です!!」


 と、こっちで実況をしている一方で、オーサさんとタニーさんは、「あいつらまたかよ……ってテンジンザ様まで!?」という顔でこっちを見ていた。

 なので、「どうぞ戦ってください」と促す。

 試合前のくだりは終わったので。

「自分勝手だな!!」

 タニーさんからのツッコミが来ました。

「いや、別にこっちが話してる間に戦い始めても良かったんですよ? そしたらそしたで、「開始のゴングが鳴る前から強襲だー!!」とか言ったんで!」

「知るか!!」

 と、こんな会話をしている間も、偽テンジンザさんは襲い掛かってくることがない。

 その辺りは腐ってもテンジンザさん、不意打ちなどせずに真っ向勝負、と言ったところか。

 堂々と待ち構える偽テンジンザさんで目立つのは、なにより大剣だ。

 本人の大剣もかなりの大きさだが、それが黒い塊で再現されていると、何か得体のしれない巨大な黒いもの、と言う印象で不気味だ。

 それに対して大剣コンビの武器は―――おや?

「おーっと、オーサ選手はいつもの大剣ですが、タニー選手は……あれは、二刀流ですか?」

 タニーさんは、普通の剣よりも長めだか大剣とは言えない細身の両刃剣を左右の手に一つずつ持っている。

「解説のイジッテさん、これは……?」

「知らん」

 解説の仕事とは。

「ゲストのテンジンザさん、あれは…?」

「ふふふ、あれはタニーの新しいスタイルよ。あの義足は素晴らしいものだが、それでも今までのような大剣を振り回すスタイルでは少しずつ負担が蓄積されてしまう」

「ただでさえ重いですからね」

 一度持たせてもらったことがあるが、持ち上げるだけでやっとだった。アレを振り回すとなれば、踏ん張る脚にも負担がかかるだろう。

「そこで考えたのが、双剣スタイルだ。長剣を両手に持ち、腕の捌き方と回転力で怒涛の攻めを可能にした。怪我の功名だが、強いぞあれは」

「なるほど、ではタニー選手の双剣捌きも期待しましょう。いざ、試合開始です!!」

 別にそんなことをする義理は無いのに、僕の掛け声に合わせて二人が一気に偽テンジンザさんへと距離を詰める!

「さあ、近づいてきた二人に対して、大剣を水平に振り回す偽テンジンザ!おーっとしかしタニー選手はそれを屈んでかわし、頭上を通り過ぎた大剣をオーサ選手は自分の大剣で受け止める!スピードのタニー、パワーのオーサであります」

「おーっと、タニ坊が双剣で切り込みますねー」

 イジッテちゃんの解説もなかなか様になってきた。

「これは速い!!両手に持った双剣を息つく間もなく連続で振り回してます。タニー選手は素手で戦う時はフットワーク軽く立ち回るタイプだったので、双剣で動き回る方が性に合っているのかもしれません」

「……それは、左右の大剣として二人を傍に置いていた儂への皮肉かの?」

「そうですね」

「そうですね!?」

 驚愕のテンジンザさん。

 まあ実際、左右の大剣、っていう名前の格好良さ先行みたいな感じでタニーさんの可能性を殺していたのは事実なので、そこは受け入れて貰わないと。

「……ぐぬぬ、言わんとすることもわかるが、タニーは大剣でも十分に強かったし、なによりもイメージ戦略と言うものがある。中央の大剣と、それを支える左右の大剣、英雄像として美しいではないか。その片方が双剣では格好つかんだろう」

 言わんとすることはわかる。

 テンジンザさんが中央でどーんと大剣を地面に突き刺すように中心に構えて、その少し後ろに立ち3人合わせて三角形を描くように同じポーズで並ぶ左右の大剣を見たことがある。

 それは確かに格好良かった。

 だけど――――

「はい、ゲストのテンジンザさんの言い訳が終わったところでしっかり戦いを見ていきましょう」

「言い訳!!」

 からかった方が面白いので、格好良かったとかは言ってやらない。

 僕のテンジンザさんに対する態度もずいぶん変わったもんだな。最初の時はあんなに恐怖を与えられたのに。まあ、その仕返し、みたいなとこもある。

「むっ、オーサが行くぞ!!」

 テンジンザさんの言葉で視点は戦いへと戻る。

 タニーさんの剣戟を巧みに大剣でガードする偽テンジンザさんに、オーサさんが背後から大剣で斬りつける!!

「おーっと、しかしオーサ選手の大剣を左手で受け止める偽テンジンザ!!」

 本物のテンジンザさんも、腕を鉄の手甲で守っているので、その守り方は間違いではない。だけど――――

「うらぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」

 構わず振り切るオーサさんのパワーで、偽テンジンザの腕が切れて弾け飛ぶ!

「オーサ選手の一撃が偽テンジンザの腕を切り裂いたーー!!恐るべきパワーだ!」

 ここ数ヶ月、オーサさんはいろいろな雑務をこなしながらも日々欠かさず剣の訓練を続けていた。

 勝手な行動で迷惑をかけた自覚もあるのだろうけど、その負い目が確実にオーサさん自身のパワーアップに繋がったのだ。

 左手を切り落とされたことで、偽テンジンザは右からのタニーさんの猛攻を防ぐのに精いっぱいで、左からのオーサさんの攻撃を防ぐ方法が無くなった!

「くたばれ偽物!!」

 オーサさんが大上段から一気に体験を振り下ろそうとしたその瞬間―――

「逃げろっ!!!」

 寝そべっていたサジャさんが、寝たまま突然大声で警戒を促した。

「!?」

 その声に、とっさにオーサさんが後ろに飛びのくと、切れたはずの偽テンジンザの腕が復活して、今までオーサさんの居た場所を振りぬいた。

「まだだ!足元!!」

 再びのサジャさんの声に、オーサさんが下を向くと、先ほど切り落とした腕から黒く太い棘のようなものが伸びて、オーサさんを襲う!!

「くっ!」

 なんとか大剣で弾いて、距離を取るオーサさん。

 それを確認して、タニーさんも一度距離を取る。

「おっと、これはタニー選手も距離を取りましたね」

「うむ、1対1で戦うよりも、二人同時でないと厳しいとの判断だろう。あの双剣は確かに強いが、一撃で勝負を決める破壊力があるわけではない。あくまでもタニーは陽動であり、オーサの一撃で勝負を決めるつもりだったのだろうが、そのオーサが距離をとったので、自分も仕切り直したかったのだろうな」

「なるほどー、ありがとうございます解説のテンジンザさん。どうですかゲストのイジッテさん」

「……いつの間にか私 解説から外されてないか?」

「解説しないですからね。でもゲストならそのスタンスのままで良いです」

「じゃあゲストで」

「わかりました。で、どうですか?」

「がんばってる」

「ありがとうございますー」

 解説テンジンザさん、ゲストイジッテちゃん、実況僕、というスタイルになりました。

「ここで、中継先のサジャさんを呼んでみましょう。サジャさーん!」

「……わっちを巻き込むでないえ……」

 非常に怠そうな顔をしておられるけど、気にせず進める。

「先ほどの偽テンジンザ、あれはどういうことですか?」

「どうもこうもないえ。アレは魔素の塊。言うなれば粘土をこねてあの形にしているだけえ。だから、斬ったとてダメージなどないしいくらでも復活するえ」

「ズルいですねー」

「魔族だからな」

 そう言われるとそうだけども。

「では、どうやったら倒せるんですか?」

「なんでわっちがそこまで世話してやらにゃいかんえ?」

「あとでホールケーキ作ってあげます」

「魔素は大きな塊になればなるほど力を得る。つまり、粉々に切り刻むか砕くかすればほぼ無力化出来るえ」

 すぐ教えてくれた。

「ありがとうございます」

「約束忘れるなえ。夢のホール食い……!!」

 今まで何度もケーキ作ってあげたけど、ホール丸ごと食べるのは許さなかったので、よほど欲求が溜まっているらしい。かわいい。

「だそうですよー!お二人―!」

 しまった、実況の役割を忘れて、ばっちりオーサさんとタニーさんを応援してしまっている。実況は公平でなければ!

「お前以外誰も気にしてないぞそれ」

 イジッテちゃん、それは言いっこなしですよ。

「なるほどな、戦い方は決まったなタニー!」

「おうよ、オーサ!!」

 二人は離れたまま特に相談することもなく、再び同時に動き出した。

 今度は先ほどとは違い、オーサさんが先行する!

「うおりゃ!!」

 大剣で切りかかると、偽テンジンザも大剣で防ぐ。

 先ほどの腕とは違い、今度はしっかり止められる。

「解説のサジャさん、どうして今度は斬れなかったのでしょうか?」

「あ?なんでわっちが」

「クッキーも焼きます」

「魔素は密度で硬さが変わるえ。武器となる大剣は高い密度で作ってあっても不思議はないえ」

「なるほどー、ありがとうございます」

 チョロすぎて可愛いサジャさん。

「おいまて、あいつまで解説なのか。私はゲストなのに」

「ではゲストのイジッテさん、現状どう思いますか?」

「がんばってる」

「ありがとうござます。ゲストのイジッテさん」

 解説への昇格は諦めてください。

 ゲストとしてもレベルの低いコメントですけどね?

 さて実況に戻ろう。

「おーっと、今度はオーサさんの剣を受け詰めている間に、タニーさんが背後から襲う!!」

 先ほどと同じように、片手で大剣を持ちつつ、もう片方の腕でタニーさんを追い払おうと腕を振る偽テンジンザ!

「なめんなっ!!」

 上半身を後ろにそらしてその攻撃を避けたタニーさんは、その体勢のまま眼前を通り過ぎようとした腕を、両手の双剣で挟み込むようにして斬り裂く!!

 そして、天井に届くほどに高く舞ったその腕が落下してくると、目にも留まらぬ双剣の連撃で粉々に切り刻むタニーさん!!

 一つ一つが小石くらいになるまで細切れになり、地面に落下するとそれをさらに踏みつける!

「どうだ!」

 絨毯に付いた黒い沁みのようになった黒い塊は――――もう動かない!

「これは、無力化に成功だー!!ここが攻め時だぞ!!」

 実況と応援が混ざってしまうなぁ!!

「言われるまでもない!!」

 腕を失い防御手段を失った偽テンジンザにさらなる攻撃を仕掛けようとタニーさんが迫る!!

 だが―――

「うぐっ……!!」

 当然タニーさんが後ろに吹っ飛んだ!!

 なんだ!?何か攻撃を受けたのか?

 偽テンジンザを見ると――――腰の辺りから、もう一本腕が生えていた。

 あの腕に殴られたのか!?

 ……ってか…


「そんなんズルくない!?」

「魔族だからえ」


 そうだけどもさ!!


 タニーさん、無事ですか……!?

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