第154話
「開くぞぉーーーー!!!!」
遠くから響く声……タニーさんだ!
声の直後、門がゆっくりと開いていく……!!
わずかに開いた瞬間に、その隙間からテンジンザさんが自らと馬の体を捻じ込むように中に入り込み、すぐさま左へと曲がる。
僕らの馬車も少し遅れて後を追うと、門のすぐ左側になにやら扉のようなものがあり、その前にガイザ兵たちが大挙しているところでテンジンザさんが無双していた。
おそらく、あの扉の向こうに門を操作するレバーがあり、ガイザ兵たちはそれを奪還しようとしているのだけど、テンジンザさんが暴れることでそれを難しくしている。
「みんな!!全力で門の制御を確保!!!」
僕が声を出すまでも無く既に動いている人たちもいたけれど、全体で最優先事項を共有するために大声を出す。
門を超えて突入してくれ兵士たちが、若干左寄りに流れて、どんどんと扉の前からガイザ兵を押し出していく。
しかし、敵の主力は正面から来るので、歪な陣形のこちらが押され始める。
王都は、門から真っすぐに城まで伸びる大通りを中心とした街づくりになっている。
正確には、まっすぐ伸びる道と、その途中に左右に伸びる道があり大通りは十字になっているのだけど、横道はあくまでも利便性を追求したものであり、横道に逸れればすぐに住宅街や安宿や怪しいお店があるので、完全に一本のメインストリートがこの街の心臓であり柱だ。
つまり、敵の戦力もここに集中している。大通りを破られたらすぐさま城に到着だ。守りを固めないはずがない。
だが、外の網の罠とこの大きな門を破られるとは思っていなかったのか、兵は多く配置されて居るが街の中には罠が仕掛けられた様子はない。
これなら、力で突き抜ければ城に届く……!
けれど、その為には陣形を整えないと……テンジンザさんとタニーさん、そしておそらくオーサさんもまだ扉の確保に手いっぱいだ。
あそこを奪い返されては、まだ数百しか街の中に入ってない僕らが完全に取り囲まれて不利になるし、かといって中心メンバーのいないこの状況で大通りの兵たちを押し切れるかと考えると厳しい。
こうなったら……
「タニーさん!!門を開けた状態で開閉レバーぶっ壊してください!!!
テンジンザさんが一瞬驚いたような顔でこちらを振り向いたが、すぐに頷いた。
「タニー!聞こえたか!?レバーを壊せ!!」
開けた状態で固定されさえすれば、レバーの有る部屋自体は取り返されても構わない。
そうすれば、テンジンザさんたちが中央に戻って来れるので、押し返せるはず……!
「了解!!!」
そんな返事が聞こえた直後、なんかすごい音が辺りに響く。
バキバキベキベキボキボキドッカンドッカン。とでも言おうか。
とにかくもうやたらめったらに暴れてる音だ。
……アレ絶対オーサさんだろ!!
タニーさんなら必要最低限にしか壊さないだろうし!
けど、タニーさんも居たよな……?と思っていると…
「イテッ!!」
とオーサさんの声。
「やり過ぎだろバカ!! あとで直す手間も考えろよ!!」
「なんだよ!!すぐ直されたら困るだろ!!だから俺は……」
「壁や机まで壊す必要がどこにあんだよ!!」
……あまりにもいつも通りですね!
ちょっと笑っちゃったよ!
ま、戦い始まってからずっと緊張してたから丁度いい感じのリラックスになったけどさ。
その後も何やら言い争いながら、それでも息ピッタリに周囲を蹴散らしつつも中心に戻ってきた左右の大剣の二人と、その後ろを笑いながらついてきたテンジンザさん。
なんつーか無敵だなこの人たちは!!
こりゃ勝てるわ!そんな気がするよ!!
実際、3人が戻ってきたことでジュラル軍は息を吹き返し、中央通りをどんどん押し進んでいく。
これは3人が戦力として優れているというだけではなく、ここに居る全ての兵士たちにとって心の支え、柱でもあるのだ。
この3人が居れば負ける訳がないと、そう思わせる力。
短時間でまざまざと見せつけられるよ!英雄の力ってもんを!
そこからは勢いが止まらなかった。
大通りに面する建物の屋根の上に待ち構える弓兵からの矢が降ってきたりもしたが、これもまた魔法部隊が風の障壁で防いでくれたので、ひたすらに正面の敵と戦うことに集中できた。
そして、あっという間に城の前に辿り着く……なんだろう、あまりにも順調すぎて少し怖いな。
城の前にもあまり兵士は居ない……さすがに罠を疑うな……。
「テンジンザさん、どう思います?」
「うむ……あまりにも簡単すぎる……城前の警備がこんなに薄いのは不自然だ」
「ですよね、ちょっと見てみます」
僕がカバンから取り出したのは、久々登場「魔法ミヤブール」である。
思えば前に使ったのは、この城に潜入してイジッテちゃんを探す為にテンジンザさんの部屋に入り込んだ時だったな。
今はその城を取り戻す為に正面から突入しようとしてるんだから不思議なもんだ。
それはそうと、魔法ミヤブールで眺めても、城の前にも、門の奥にも罠らしき物は見えない。
まあ、これは魔法を見破るアイテムだから物理的な罠だったら見えないんだけど……
「僕らが先頭行きます。行くよイジッテちゃん」
「へいへーい、っと」
物理攻撃ならイジッテちゃんが基本的には防げる。
街の前でセッタ君がやったのと同じことだけど、セッタ君亡き今、僕とイジッテちゃんがやるしかない……!!
見守っててくれよ、セッタ君……!
「いや死んで無いわよ!?」
その聞き覚えのある声のツッコミは!?
「パイクさん!?もう戻ってきたんですか!?」
「なによ、迷惑だった?」
振り向くと、パイクさんが馬車の後ろから乗り込んでくるところだった。
「いやいやまさか、けど、凄い速いじゃないですか」
「あいつから借りた馬がすんごい良い馬だったからね。ビックリするくらい速いし言うこと聞いてくれたわ」
さすがオーサさんの馬。左右の大剣の右に与えられるだけの名馬ってことか。
「なるほど、ところでやっぱりあっちも馬並みって言うくらいの凄さでした?」
「何の話?」
「下ネタの話ですけど?」
「……このタイミングでそれ言うの本気で頭おかしくない?」
「おかしいに決まってるじゃないですか」
「……そうね、あんたはそういう人間だったわよね」
「そうです。僕はそういう人間です」
「なんかむしろ安心するわ」
それはなによりです。
「ところでセッタ君はどうでした?」
「あんた話下手になったの……? 何その話題の変え方。まあいいわ、無事よ。言ったでしょ? 私達は砕けても死なないのよ。とはいえ……継ぎ接ぎを繰り返すほどに盾としては弱くなっていくでしょうけど……あいつも骨董品だしね、この戦いが終わったら引退してのんびりするといいのよ」
セッタ君が骨董品ならパンクさんもそうでは……?
と思ったが、それを口にすると本当に心臓を貫かれそうだったのでやめておいた。
さすがにこのタイミングでその死に方はバカすぎるからね!!
「おーい少年、行くのか、行かんのか?」
テンジンザさんがしびれを切らして声をかけて来た。
「ああ、はいはい、行きます。すいませんけどパイクさんも付いてきてください。これから城に突入するので。戦力は一人でも欲しいですから」
「矛使いが荒いわね。良いわよ、行くわよ」
「ほんと腐れ縁だな、お前とは」
「うるさいわよイージス」
そう言いつつ二人ともなんかちょっと楽しそうだ。ほんとは仲良しさんめ。
「じゃっ、行きますか!!」
「ん」
イジッテちゃんがそっと背中を差し出してきたので、取っ手をギュッと掴んだ後で、ちょっと優しくこちょこちょっとする。
「んひゃあ!!なんだお前こんな時に!!」
「いや、その声が聴きたくてつい。元気になるので」
「変な意味でか!?」
「変な意味ではないですけど、その方が良いですか?」
「良くは無いから今はそれでいい!」
今は、の意味をいろいろ考えてしまいそうになるのをぐっとこらえる。煩悩退散。
ゆっくりと、歩き始めると、みんなも僕の後ろをついてくる。
テンジンザさんやオーサさんタニーさんなど、主要なメンバーの周囲には、大きな盾を持った兵士を並進させて守る。
一歩一歩何が起きても対処できるように慎重に進んでいるが……何も起こらない。
いくらなんでもおかしい。
敵が一人も襲ってくることさえない。
そんなことがあるのか……?
あまりの異様さに改めて周囲を確認するが――――……なんだ?
なんだか違和感がある。あまりにも静かだ。
さっきまで聞こえていた兵士たちの怒号も断末魔も雄たけびも何も聞こえない。
おかしい、こんな、こんなことが―――――――
「いたっ」
「あっ、ごめん」
気づけば、城の正面入り口まで辿り着いていて、イジッテちゃんが扉にぶつかった。
「何事も無くここまで辿り着いたな……」
後ろから聞こえてくるテンジンザさんの声。
「いや、でもさすがにおかしいですよこんなの。あまりにも――……」
後ろを振り返り、気づくとあれだけ居た兵士たちが誰もいない。
居るのは、僕とイジッテちゃん、パイクさん、ミューさん、テンジンザさんとオーサさんタニーさん、ミルボさん、サジャさん……9人だけ……?
「これは……なんだ?」
あまりの出来事に理解が追い付かないでいると、突然城の入り口が開き、僕らの体は抵抗する間もなく強い風……いや、引力に引っ張られて、扉の向こうまで引きずられた。
そして、僕ら9人が中に入ると、すぐさま扉は閉じられた。
「な、なにが起きた!?」
そこは城の中、入ってすぐのロビーだ、それは間違いない。
間違いないのだけど……空気が淀んでいるというか……なんか気持ち悪いな!
皆が戸惑っていると、声が響いた。
『ようこそ、英雄と仲間たち。さしずめ、魔王を倒しに来た勇者御一考、という気分かな?』
「誰だ!!!」
あっ、その格好良い「誰だ!」僕が言いたかった!くそう、テンジンザさんめ!
『余の名を問うているのなら、答える義理は無いな。ただ……今はこの城の所有者であり、この城の城主であり、この国の国王……それが余だ』
つまり、倒すべき敵、ということか……。
「名乗るつもりはない、そういうことか?」
僕のその問いに、
『名乗る意味がないからな』
そう答える謎の声。
「そうか、じゃあお前の事をクソダサい魔族、略してダサマゾ、と呼ぼう。凄くダサいマゾ、という意味も込められている」
『……ふん、好きにすればいい』
挑発に乗ってこなかったか、残念。
「何が目的だ!!他の兵たちはどうした!」
変な空気になりかけたのを、テンジンザさんが引き締める。あざまーす。
『なぁに、今時大人数の戦争など面倒で叶わんと思っただけさ。見ていてすぐに分かった、あれだけの人数が居ても、中心になっているのは貴様ら9人だ。貴様らさえ倒せば他のやつらは放っておいても軍としての形を保てず瓦解する。あの王モドキと賢い幼女には、軍を指揮する能力はなさそうだからな』
……ルヴァン王とミナナさんのことまで把握されてるのか……。
『知っての通り魔族は怠惰だ。人間を殺すなどたやすいが、あれだけの人数相手にしてられん。だから、貴様らをこの中に引きずり込んだ。この城の中は空間を歪めてあり、あちこちに余の配下を配置してある。さて、ここまで来られるかな?』
「……余興のつもりか?」
『余興か……ははっ、それは良いな。魔族は怠惰だが娯楽や悦楽には目が無い。せいぜい余を楽しませながら死んでくれ。もし余のところまで辿り着いたら……その時は相手をしてやろう。そんなことにはならんと思うがな』
ふはははは、と笑い声が少しずつ小さくなっていく。
「待てよダサマゾ!!」
僕の呼びかけにも答えず、声は完全に消えた――――と思ったけど、最後に一言。
『余はマゾではない。それだけは訂正しておこう。ドSの極みである!!』
とだけ言って、完全に声が消えた。
どうしても言いたかったんだなそれだけは……まあでも、呼び名は変えないけど。
「と言うことらしいですけど、どうします?」
「どうもこうも無い、わざわざ誘い入れてくれたのなら好都合だ。ここでダサマゾを叩く」
僕の問いかけにまっすぐ前を見つめるテンジンザさん。
「そうだな、やってやろうぜダサマゾの野郎をさ!!」
「オレたちがダサマゾなんかに負けるかよ」
オーサさん、タニーさん。
「そうです!倒しましょう、ダサマゾを!」
「そうね、アタシ達ならダサマゾなんて楽勝でしょ」
ミューさん、パイクさん。
「やったろうぜダサマゾ退治!!」
「めんどくさぁ……けどま、ダサマゾなんぞにデカい顔させとくのもムカつくえ」
ミルボさんにサジャさん。
「じゃ、僕たちも行きますか、ダサマゾを倒しに!」
「おう、やってやんよダサマゾ!」
僕とイジッテちゃんも覚悟完了!
待ってろよダサマゾ……今すぐその首、打ち落としてやるぜ!!
『だからマゾではないと言っておろうが!!ダサくも無い!!』
うるせぇバーカ、名乗らないのが悪い!格好つけたつもりかもしれんけど、そんな態度はこうなると知れ!!
さあて、ぶっ飛ばしに行くから待ってろよ、ダサマゾ!!!
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