第144話
「おぬし変態の癖にちゃんと髪から良い匂いがするえ」
「それは褒められてるんですか……?」
目的も果たし、ダンジョンからの帰り道。
外に出てしまえば定置の羽で拠点まで帰れるけど、ダンジョンの中からはいけないので、外までは歩くしかない。
そんな歩きをサジャさんが面倒がって、ユウベさんと丸男みたいにおぬしの肩に乗せろと言ってきたけど、それは体格的に無理だと言ったら、じゃあ肩車をしろと言ってきた。
当然断ったが無理矢理乗られて、振り落とすのもアレだしたいして重くも無かったので、そのまま今僕はサジャさんを肩車したまま来た道を戻っています。
「しかし、さっきのアレ、どこまで本気え?」
「アレってどれの事ですか?」
「アレは、アレよ」
頭をグイっと動かさせると、目線の先にはユウベさんに担がれているミュー父こと手足を縛られ顔に袋をかぶせられたクソ外道。
右肩に丸男、左肩にクソ外道。大変だなユウベさんも。
それはそうと、顔の向きをかえられたことでフトモモが凄いこう……僕の口元にめり込んでるんですけど、それは良いんですか?
「なんえ? 照れておるのかえ? ふともも程度で照れておるのかえ? おぼこい男え~」
髪の毛をうりうりとコネてくるやめて欲しい。
でもちょっとなんか……照れちゃう。
「いてっ」
横を歩いてたいイジッテちゃんが顔は背けたままスネを蹴ってきた。
「デレデレするな」
「なんえ? やきもちかえ硬い幼女。 そんなに甘えたいなら、おぬしも甘えると良いえ?」
「うるせぇ、甘えたくなんかあるか」
「そうかえそうかえ、なら逆にわっちがこやつを甘やかしてやるえ。よしよーし。えらいえらいえー」
「いや、その……あざまーす」
照れちゃう……!!
こういうの慣れてないから照れちゃう!!
再びのすね蹴り。仕方ない。完全にデレデレしてたから仕方ない。
「で、どうなんえ? あやつの事は」
ああそうだ、その話だった。
「どうもこうも、実際そのままですよ。だいぶムカついたので、一番嫌がる事をしてやっただけです。丸男があの人をどうしようと知ったこっちゃないですね」
「自分で殺そうとは思わなかったのかえ?」
「思わなかったですね。だって、ここで僕が殺したって、娘の仲間に逆恨みされた、程度の事しか思わないでしょ。ああいう人には、自分がしたことがどんな意味を持つのか知ったうえで苦しんでもらわないと割が合わないでしょ?」
「きしゃしゃしゃしゃ、良いえ良いえ。自ら手を下すよりも、何より一番に相手に最もダメージを与える方法を選ぶ。根っからの性格の悪さが良く出ておるえ」
そんなもんだろうか。
まあ、自分の性格が良いとは思わないから別に良いけど。
「褒めているえ?」
「あんまり誉め言葉にはなってないと思いますよ?」
魔族だし性格が悪ければ悪いほど誉められる、みたいなことがあるんだろうか。ありそうだけども。
「性格で言えば、後ろのあやつもだいぶ悪そうで良いえ」
「あいつ? あいつって……」
振り向くと、ミルボさんが鬼のような顔をしていました。
「……ミルボさん? どうされました?」
「どうもこうも、自分のダーリンが目の前で他の女とイチャイチャしてて機嫌が悪くならない女が居るとでも?」
「イチャイチャは別にしてないですけど……」
「イチャイチャしている!イチャってる! イチャしてる!チャる!」
いろんな言い方で言われても。最後のチャるは縮め過ぎですし。
っていうか、どうしろと?
「じゃあ、ミルボさんも上に乗ります? サジャさんの上なら今空いてますけど」
「そんな謎のタワーみたいになれと……?」
「わっちも嫌だえ……?」
「じゃあ詰みましたね……どうにも出来ないです……」
「案が一つしかないの……?」
ミルボさんが絶望と憐みの目で見てくる。
そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。
策謀を巡らせることは出来ても、女子が恋愛的な満足感を何で得られるかなんて知りようがない人生なんだもの!!
「お前は本当に不憫だな……」
うっ、イジッテちゃんの視線が痛い。
けれど、そっと僕の右手を握ってきた。
「こういうことで良いんだよ、こういうことで」
視線は前を向いたまま、手を握ってそのまま歩くイジッテちゃん。
「……なるほど」
確かにこれはなんと言うか、得も言われぬ幸福感。
こういうことなのか……?
難しいな恋愛要素。
「あっ、ズルい!アタイも手ぇ繋ぎたい!」
左手に絡むように抱き着いてくるミルボさん。
……それは手を繋ぐのではなく、腕を組んでいるのでは?
頭上に魔族、右手に盾、左手に人間。
何これ変なの!!
どういう気持ちでいたらいいの!?!?!?
わからない、あまりに異次元な状況過ぎてわからないよ……!
「はっ、そうか……こういう時こそ脱衣ボンバー……」
「ぜってー違うから」
その後、とくに大きな問題も起きずに外に出られた。
途中モンスターが襲ってきたりもしたけど、サジャさんが睨んだら逃げて行った。
強いー、頼もしいー、便利ー。
「便利て」
サジャさんに軽くツッコまれました。
そして、羽を使って無事に拠点への期間。
「なんえ? こんな狭いところが拠点なのかえ? ゆっくりくつろげる場所はあるんじゃろうなぁ?」
不満顔のサジャさん。ふふふ、なんてワクワクするフリをしてくれるんだ。
実は中がとんでもなく広いと知った時のリアクションが楽しみだ。
「ふおおおおおおお!!ひっ、広いえ!? しかも屋根が水!! どうなってるえ!? 人間の技術も捨てたもんじゃないえ!!」
凄いビックリしてくれてる!!
僕の肩の上に立ってるドタバタするくらいに!
その肩の痛みより、なんかわからんけど僕の心の中の「どやぁ」が勝っている。
僕が作った建物でもないのにね。
「わっちの部屋はあるのかえ? 大きなふかふかベッドのある部屋が良いえ」
「いや、さすがにそんなベッドは……」
なんて話をしていると、僕らに続いて誰かが地下空間に入ってくる。
「いやぁ、肩が凝ったわい。戦いならともかく、交渉というのは窮屈でいかんわ」
入ってきたのは……テンジンザさん。
そして、僕を見つけるとニッコリ笑顔を見せたが、僕の肩の上に立っている黒い存在に目を向けると、たちまちその笑顔が凍り付き、表情が険しくなっていく。
「貴様……あの時の魔族……! なぜここへ来た!!」
「おお、久しいえ英雄殿。今日から仲間じゃ、よろしい頼むえ」
しかし当のサジャさんは、あっけらかんと笑ってそう挨拶した。
後ろから来たオーサさんや王子、ミナナさんも困惑している。
また凄いタイミングで、交渉チームが帰ってきたもんだ……うーーーーん、説明が面倒だ。
「正気か少年? 何か怪しげな魔術で洗脳されているのではないか?」
場所は拠点内の会議室のような場所。説明が終わって、開口一番そんなことを言うテンジンザさんです。
まあ、テンジンザさんからしたら大事な部下であるタニーさんの片足を奪い、オーサさんも殺されかけたし、なんなら僕ら全員殺されかけたんだから納得出来ないのも当然だろう。
というか、横のオーサさんに関してはもう本当に今すぐにでも襲い掛かろうという構えで、椅子に座っているように見えて腰が浮いている。
ちなみにここに居るのは、僕とイジッテちゃん、ミルボさんとミナナさん、王子とテンジンザさんとオーサさんだ。
丸男は、さっそくミューさんの治療に取り掛かってもらった。本当は立ち合いたいけど、まあパイクさんとセッタ君が見張ってるから余計なことはしないだろう。
ともかくまずは、この場を何とか納めなければ。
「落ち着いてください。あの場で流れを見てた人たちなら、そう言うことではないのはわかるはずです。ねぇイジッテちゃん、ミルボさん」
「いや、私もとち狂ったのかな、と思ったぞ」
「アタイも、急に何言い出したのかな、と思った」
「やはり……!」
「違う違う、落ち着いてください」
立ち上がりかけたテンジンザさんとオーサさんをジェスチャーでたしなめる。
「ってか、二人ともなんでそんなこと言うんですか……? 僕が疑われるんですけど」
「お前はいつも頭を疑われてるような言動だろう」
「ダーリンはハーレムを作ろうとしてるんだ……きっとそうだ……」
罵倒と勘違いが酷い!!
「っていうか、そもそも普段から頭を疑われてるなら、普段通りの頭で魔族を仲間にするくらいの発想が出てもむしろ自然じゃないですか?」
「……はっ、思わず納得しそうになってしまったわい」
それで納得されるのもなんかちょっと複雑ではあります。
まだハーレムがどうこう言ってるミルボさんは一旦スルーさせてください。
「実際問題、味方になってくれれば凄まじい戦力になります。そう約束してくれました」
「うむ、したぞ」
サジャさんはなんか気に入ってしまったのか、まだ僕の肩車だ。
椅子に座ってるんだけどな?
「そんな約束、信用できるとでも? 相手は魔族だぞ」
「そりゃ差別的ですよ。魔族だからって全員嘘つきで裏切り者だと? 僕ら魔族の事なんて全然詳しく知らないのに。それは、ミューさんを混血だからと迫害した純血信仰と何が違うんです?」
まあこれは詭弁だけど、それでもそれなりに説得力のある詭弁だとは思う。
魔族はすべて悪である、という考え方が絶対的に正しいのだとは誰も言えないのだし。
「それは……しかし、魔族という理由は別にしても、そやつはタニーの足を切り落とし、儂らも、なんなら少年も殺そうとしていたではないか。そんな相手を肩に乗せている少年はとても正気とは思えんぞ?」
肩に乗せてるのは別に僕としても本意ではないのですけど……振り落とすのもあれじゃないですか。
「フトモモの感触もあるしな」
「……ははは、まさかぁ」
無いとは言わんけど。
「色香か、色香に惑わされたのか少年。くっ、儂が良い女の一人でも紹介で来ておれば……!」
「テンジンザさんに紹介される女の子はなんかヤです。ってか、僕が色香で判断を間違えると思われているのなら残念ですね」
「いや、少年の事を信頼していない訳ではないのだ。今まで何度も助けられたし、少年がいなければ今こうしてジュラル奪還の為に動き出すことも難しかっただろう」
そうだろうか、僕の力なんて微々たるもので、別に僕が居なかったら別の誰かが似たようなことをしただろうし、なんだったらもっと早くジュラルを取り返せていたかもしれないとさえ思わなくも無いのだけど……それでも、そう評価してくれてるのは、ありがたいし、その評価に見合うように頑張ろうとは思う。
けど、それならば、だ。
「信頼して頂いているのなら、今回も信頼して欲しいですね。もしも彼女が裏切るようなことがあったら、僕が―――――……僕とイジッテちゃんで被害者が出ないように頑張るので、みんなで倒しましょう」
僕が何とかしますって言おうと思ったけど、一人で出来るわけないよー。
なので、文言を修正しました。
みんなで助け合おうぜ!
だが、みんなの反応はなんていうか、とても苦笑いでした。
「ふんっ、なんというか……そこで、自分が責任を取ります!とか言わない辺りが、実に少年だな」
「……褒められてます?」
「半々だ。その正直さを好ましいとも思うが、時には無理をしてでも責任を背負うことが必要な場合もある。自分の考えを通したいときには特にな」
言っていることは凄くわかるんだけど……
「僕はね、ズルい人間なんですよ。だから、僕の出来ることはあくまでも提案です。自分たちの為に、そしてみんなの為に、この国の為に、良いと思うことを考えて動いてます。けれど、それが間違いだというのなら無理に押し通すことはしません。上手く行けば僕の手柄、失敗したら受け入れたみんなの責任。それを踏まえて言いますけど――――僕は、サジャさんを味方に引き入れるべきだと思います」
このやり方は、傍から見たら卑怯に見えるだろう。
でも、これでいい。必要なのは僕の意見を押し通すことではなく、みんなが納得できることなのだ。
大きな組織になればなるほど、一人の意見は小さくなっていく。
今はまだ僕は中心に近い位置にいるだろうけど、王族の関係者でもないし、貴族へのコネも無い僕は、この組織が大きくなればなるほどに、ただの「雇われ冒険者」になっていくだろう。
だから、組織の方向性を決めるのが僕であってはならないのだ。
「今後も責任のある立場に居続ける人たち」に選んでもらわなければ、後々の火種としてくすぶり続ける。
それを避けるためには、「選んでもらう」しかない。
その為に、僕は思いつく限りのメリットを提案する。
サジャさんがこの組織に加わることが、いかに有益であるかを。
話し合いは、夜明け近くまで続いた――――――
途中で、二回 脱衣ボンバーした。
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