第123話
「脱衣ボンバー!!」
「よし、服を着ろ」
しばらくやってなかったので衝動的にやったら凄く冷静に対処されました。
悲しい。
王子だけは初めて見たのでビックリしてオーサさんに「アレは何だ!?」とか質問しているが、オーサさんも慣れたもので「気にしたら負けです」とか言っている。
「馬車の中でやるのももうパターンとしては新鮮さが無いからな」
そりゃないよイジッテちゃん。そもそも脱衣に新鮮なパターンってそんなにないよ?
「……っていうか、僕ら移動が多すぎません?」
そう、ここは移動の馬車の中。
なんかしょっちゅう馬車で移動してる気がする。
「人数が少ないからのぅ。自ら動かなければならんのは仕方あるまい」
テンジンザさんに諭されるとなかなか言い返せない。
この国の英雄であり、圧倒的に年上のテンジンザさんが同じように移動しまくってるのに若くて地位も無い自分が面倒がっているのはなんとなく申し訳ない。
まあ、そもそもの基礎体力が違う、という話はあるんだけど。
とにかく体力やパワーの面では人間離れしてるからなぁテンジンザさんは。
「テンジンザ様!なんでも申し付けてください!このオーサ!この身が砕けるまでお仕えする覚悟ですぞ!」
もう一人の体力お化けオーサさんは、久々にテンジンザさんと旅ができるので浮かれている。それはもう浮かれている。
どのくらい浮かれているかと言うと、馬車の中を走り回ってるくらい浮かれている。
「うるせぇ落ち着け」
イジッテちゃんが出した足に引っかかって転んだ……と思ったらそのまま前転して起き上がってポーズを決めたオーサさん。
「うははは!甘いぞイージスよ!そんなことでこの俺の熱い気持ちは止められん!止められんのだよ!!」
ふぅ、全く困った人だ。周りの人の迷惑ってものを考えられないのかなぁ?
「この言葉をお前に送るのは何度目かもう覚えてないけれど、何度でも送ろう。
お前が言うな」
「僕ですか?」
「そうだ、馬車の中で全裸のお前だよ」
「……何か……おかしいですか?」
「今すぐお前を馬車の前に投げ捨てて轢きたいんだけどどう思う?」
「嫌だなぁ、って思います」
「じゃあ服を着ろ」
「はーい」
仕方ない、馬車に轢かれるのは嫌だからな。
「オーサも少し落ち着け。目的地では戦いになるかもしれんのだ。体力は温存しておくのがよかろう」
「はっ!了解しました!」
テンジンザさんに言われたらすぐさま座るオーサさん。
相変わらずの従順さだ。
「お前も私の言うことにアレくらい従順だと助かるんだけどな……」
「僕がイジッテちゃんの言うことに逆らったことなんてありましたか?」
「うん、今もまだパンツ履いてないもんな」
「これはアレですよ。うっかりですよ」
「うっかりはそんなに長時間続かないぞ?」
あ、笑顔だ。これはマズイ。怒ってる時の笑顔はマズイ。
僕は慌てて予備の服を出して素早く着て、おとなしく着席する。
「ね?従順でしょ?」
「よーしよし良い子だ良い子だ」
頭と顎を撫でられました。……犬かな?
そうか……これはこれで良いな!!!!!
「目覚めるな目覚めるな」
ぺしん、と叩かれました。これはこれで良い。
結局イジッテちゃん相手なら何でもいいのだった。可愛く愛しいイジッテちゃんだからな。
ガインガイン。
二回殴られました。はいはい照れ隠し照れ隠し。
長い道中、外から漏れ入ってくる明かりがほぼなくなってきた。
もう辺りはだいぶ暗くなっているだろう。
……今どの辺りだ? 地図の感じだと、山道に入ったあたりだと思うけど……。
そろそろ宿を見つけるか野営をするか考えないとな……この辺りに宿あったっけ?
と地図を改めて確認しようとした瞬間――――突然馬車が激しく揺れてその動きを止めた。
「うおう、なんだ!?」
ウトウトと寝入っていたイジッテちゃん、ルジー、王子も衝撃で椅子から崩れ落ちて驚きの声を上げる。
テンジンザさんとオーサさんは立ち上がり、すぐさま辺りを警戒する。
「イジッテちゃん、ちょっとごめんね」
まだ寝ぼけてるイジッテちゃんの背中のチャックを開けて腕を通す。
「うやぁ!?おま……寝起きにいきなり……バカ!!もうバカバカぁ!」
なにその反応可愛いっ。
けど、どうにもそれどころじゃなさそうな気配がしている。
イジッテちゃんもそれを察したのか、深く息を吸ってシリアスモードに切り替わる。
ゆっくりと、外の様子を窺おうと幌の入り口にかかった布をそっとめくると―――
「あだっ!」
突然の弓矢がイジッテちゃんに当たる!!
「敵襲!!!」
僕の声に馬車の中は瞬時に緊張感に支配される。
イジッテちゃんを盾にしながら、隙間から外の様子を窺うと……うへぇ、完全に囲まれてる。
見るからに人相な悪そうな男たちが……少なくとも10人程度は居る。
外見で判断する限りは盗賊っぽいけど……この辺に盗賊出るって情報あったっけかな。
まあ、今はジュラル軍が機能してない状態だから治安が悪くなっていても不思議はない。
とは言え、人数的には不利でもこっちには伝説の盾もあるし英雄テンジンザさんと左右の大剣の右オーサさんが居る。
「儂は前の方を対応する、後ろを任せたぞ」
テンジンザさんはそう言って、吠えながら馬車の前方へと飛び出していった。
普通の人間があの人に勝てるわけがない、100人や200人ならともかく、このくらいの人数なら、まあ楽勝だろう。
とか考えていたら、突然一人が馬車の中に乗り込んできた!
こっちは、僕とイジッテちゃん、それにオーサさんと、ルジー……は戦力にならないから王子共々守らないといけない。
まあでも2対1なら何とか……って、もう一人乗り込んで来ようとしてる!
「こっちは俺に任せろ!」
オーサさんが馬車の後ろから、今乗り込んできた二人目を押し出しつつ外に出て、さらなる侵入を防いでいる。
げっ、1対1だ。いや、こっちはイジッテちゃんがいるから2人みたいなもんだけど、王子とルジーを守りつつ、ってのは中々に面倒だな。
ジリジリと間合いを詰めてくる盗賊。濃いブラウンの皮の上着と、タイツのようなぴっちりとしたパンツに身を包んでいる。
顔は口元に布を巻いていて、頭にはバンダナのようなものを巻いているので目しか見えないが、目から受ける印象と、細身で小柄の体……女性…か?
とは言え、相手が女性だからと油断できるほどの実力を自分が持って無いのは重々承知してるので、全力で向き合う。
―――――動いた!
速いっ!!
「くっ!」
一瞬で間合いを詰められて、左右に持った短刀で流れるような連続攻撃!
しかし、イジッテちゃんの協力もあり全て受け止める。
さすが、頼りになる!
守りはイジッテちゃんに任せて、こっちは攻撃に専念する。
籠魔剣を腰から引き抜き、一閃!
かわされた!
くっそ、素早いうえに動きが読みづらい…!
一度距離を離して……と後ろに下がった途端、投げナイフが飛んできて、それを防いだと思ったら次の瞬間にはもう接近されている。
なんだこいつ……強っ!!
本当にただの盗賊か!?あまりにも動きが洗練させている!
1対1なら確実にもう負けているところだが、イジッテちゃんが守ってくれているこの安心感!
とにかくこのまま自分と王子&ルジーを守り続けて、テンジンザさんかオーサさんが外を片付けて戻ってきてくれるのを願うしか……!
その時、不意に盗賊の方から距離を離し、動きを止めた。
……なんだ?
どう考えても向こうが有利な状況だったのにわざわざ間を取ることに何の意味が―――
「このっ……クソ外道!!」
え?……僕の事……ですか?
……なんか、怒ってらっしゃる?
「そのようないたいけな幼女を盾にするとは、あまりにも卑怯!! 」
―――……ああっ、それかー!!そのパターンね!はいはい!
なんか久しぶりな気がするなーそれ!!
「アタイが女子供は殺さないってわかってて、わざとやってるのかい!?アタシにこの手を汚させようっていうのかい!?」
「いや知らんし。そもそもアンタが誰なのかも知らないのに」
「なんだと……!!つまりキサマは、誰が相手であろうともその幼女を盾にするつもりだったと、そう言うのか!!」
「言うっていうか……まあ、今までもずっとそうしてきたので」
「悪!!!あまりにも圧倒的な悪!!こんな悪は見たことが無い!!」
「……そこまで言われなきゃならないですかね……?」
「仕方ない仕方ない、世間の目はそうだよ」
いや、イジッテちゃんが言うことじゃないよ。
そもそもイジッテちゃんが幼女の姿でなければ僕こんなこと言われずに済んだんだからね?
「キサマのような悪はここで絶たねばならぬ……!!」
殺意が凄いよ!!
「待って待って、違うから。これは、この子が望んでやってることだから。僕が無理やりやらせてるとかじゃないからね?」
「くっ……洗脳か……! 自らを危険にさらす事を尊い事だと思い込むように洗脳したのだろう!この詐欺師め!もしくは催眠術師め! それか悪い魔術師か、あと、呪い屋か、それか、それか――――」
なんで急にクイズみたいになってるんだ。
「あっ!わかった! 占い師だ!そうだろ!」
「占い師って洗脳しますっけ?」
「するだろう占い師は!全員するだろう!!」
「凄い偏見!」
なんだこのひと、なんか面白いな。そんな悪い人じゃないのか?
いや、悪くない人が馬車襲うか……?
「ええいもういい!とにかくキサマからその幼女を救い出してくれる!」
うわっ!急にまた来た!
何とか防がないと――――
「そこまでだ! ミルボ!!」
突然の声に、僕も盗賊もその動きを止めて視線を向けると―――背景に、倒れた盗賊たちを背負ったテンジンザさんが居た。
「久しいな、ミルボ。こんなところで盗賊のマネとは……落ちたものだな」
その言葉に、テンジンザさんを睨みつける盗賊……ミルボ、さん?
「キサマ……テンジンザか…!なぜこんなところに!」
「なぁに、おぬしに少し用があってな。
――――民主解放軍のリーダー、ミルボよ」
じゃあ、この人が僕らの探していた、ジュラルを王政から民主化に革命しようと王の命を狙っていた、かつてのジュラルの大敵、ミルボその人なのか……!
「ふん……こっちはあんたなんかに用はないわよ、この、国を守れなかった落ちた英雄!」
あっ、それは、それは――――
「……そうじゃな、儂なんて、儂なんて所詮ダメダメのじいさんじゃわい……」
あーあ、久しぶりにネガティブぶり返しちゃったよ……。
膝抱えて座り込んじゃった……。
「えっ、いや、あの……そ、そんなに落ち込まなくても……ご、ごめんね?言い過ぎたよね?」
……この人、やっぱりいい人だな?
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