第122話

「まあでも、実際問題王子は人の上に立つべき人だど思うさ」

「ど、どの辺がだ!?」

「どのへんっで言うが……だって、人の下に付いたり、頭下げて商売したりでぎねぇでしょう? 王様にならながっだら、王族の権威も資金力も無しにどうやっで生きていぐのよアンタ」

「―――――それはそうだ…!」

 コマミさんの追い打ち説得が決まり、さらに心が決まった様子の王子。

 ……ってか、そんなこと言われるまでもなく気付いてて欲しかったけどな……い、いや、きっとまだコマミさんに気に入られようと話を合わせているんだ。

 うん、そうに違いない。そうであれ。そうでないと困る。そうだということにしよう。



「さて、決まったからにはさっそく旅立ちたいが……全員で、と言うわけにはいかんな」

 テンジンザさんが先頭に立ってメンバーを選ぼうとしているので、僕も隣に並ぶ。

 さすがにメンバー分けまで自由にはさせんぞ!

「タニーはまだ入院とリハビリが必要であるし、ミュー女史も義手が完成するまでは待っていた方が良いであろう」

「すいませんです、ご迷惑かけて」

「なぁに、気にするでない。あなたの今後の人生にとって、あの義手はきっと価値あるものになるであろうて。まずはそれを第一に考えるべきだわい」

 頭を下げるミューさんに寛大な対応を見せるテンジンザさん。

 いや、僕も同じようなこと言おうと思ってましたけどね!!

「相手が相手だからな、儂も行こう。コルス少年とイージスもだ」

 まあ異論はない。

「ミュー女史を一人で置いていくのは不安が残る、パイク殿とセッタ殿は共に残ってくれ」

「あいよ」

「そうじゃな」

 二人も承諾したし、これも問題はない。

「となると、儂、オーサ、コルス少年、イージス、ルジー少年……」

「ちょいまってください。ルジーも連れていくんですか? ルジーには別行動で情報を集めてもらった方が……」

 初めて意見が分かれたぞ。

 おうおう?やるか?リーダー対決か?

「いや、来てもらった方が良いだろう。正直、ここから先はどうなるか予想がつかん。共に行動し最新の状況を理解してもらい、それに合わせてすぐ動ける方がルジー少年の情報力を活かせるであろう」

「……なるほど」

 すぐさま納得させられてしまった……!

 対決するまでも無かったよ!!

「それともう一人……」

 ん?もう一人……?

「―――王子、一緒に来てもらいます」

「………はぁ!?」

「ええっ!?」

 王子と僕は同時に驚きの声を上げた。

「いや、それはあまりにも危険じゃないですか? だって、相手が相手ですし……」

「だからこそだ。相手に、こちらが本気だと言うことを見せねば話は進まぬ。その為には、儂と王子、二人そろっていることが重要なのだ」

 理屈はわかる……しかし……

「もし、交渉に失敗して戦いになったら、王子が狙われる可能性だって…」

「その為に、おぬしたちがいるではないか。勇者と伝説の盾。防御力としては申し分ないわい」

「……それは頼られているんですか? それとも、都合よく使われているんですか?」

「……どっちじゃと思う?」

 質問に質問で返すパターンのヤツ!!

 めんどくせぇ!!っていうか、そこは曖昧にしようって魂胆ですね?

「嘘でも、頼りにしている、とか言った方が良いんじゃないですか?」

「少年は嘘を見抜けないほど間抜けな人間かね?」

「……どっちだと思います?」

 やり返してやった。

「うわっはっはっは! そういうところも含めて、信頼しておるよ」

 本当にこの人は食えない……真っすぐそうに見えて、一番深いところは誰にも明かさない、そうするしかなかった英雄としての生き方なのだろうけど……なんか、いろんな意味で気に入らない。

 いつか泣かしちゃる。あらゆる意味で。


「と言うことで王子、付いてきてもらいますよ」

「……ええー?」

 あからさまに不満顔の王子である。

 まあそりゃそうだろう、危険なうえに愛しのコマミさんと離れるのだ、そんな顔にもなろう。

「さっぎまでの威勢はどうしただよ王子。行ってぎなさい」

 コマミさんにも促されるが、ほっぺを膨らませて大不満顔で抵抗してくる。可愛くないですよー。

「―――……しっがたねぇなぁ」

 コマミさんはおもむろに立ち上がると、「ちょっど待っでろ」と言い残し一度部屋の外に出ると、なにやらごそごそと音を立て、少ししたら戻ってきた。

「ほれ、これもっでげ」

 と、ぶっきらぼうに王子に手渡したのは――――

「……これは、なんだ?」

 それが何か理解できない王子が、手に持って高く掲げていろんな角度からそれを見ているけど……

「そ、それ!!法話筒!!」

 僕はあまりにもビックリして、つい声を上げてしまった。

「なんだそれは?」

 どうやら僕以外は誰も気づいてないようだけど……

「いや、凄いですよそれ! 遠く離れた相手とも魔法の力で会話出来る、超貴重アイテムですよ!!」

 一見するとただの細長い筒に見えるそれは、市場に出回る事はほぼ無い幻のアイテムと言われる法魔筒。

 念話を使える魔法使いは限りなく数が少なく、情報伝達において念話使いが居る国と居ない国で大きな格差が生まれるというくらいの貴重な人材なので、今はいくつかの超大国にしか存在しない。

 それに対して、これは魔力さえ籠めれば、セットになっているもう一つの筒とどれだけ距離が離れても会話ができるのだ。

「へぇ、凄い値が張るものなのか?」

「いやイジッテちゃん、値段はつけられないよ。そもそも市場に出回らないんだから。噂では、教会が独自の技術で開発に成功したらしいけど、外部への流出は許されない貴重品だよ」

 これが出回れば、戦争に置いて持っている側と持っていない側では圧倒的に戦略的優位性が変わってしまう危険なものだ。

 なので、世間に公開するのにはまだ議論の余地が多いし、公開するのなら世界中で同時にやらないと格差がエグイことになる。

 そういうデリケートな品物なのだ。

「ど、どうしてこれをコマミさんが?」

「……父が、送ってきてくれたんだわ。たぶん、どっかの誰かが余計なお世話でココの住所を教えたんだろうげど……」

 その言葉に全員がテンジンザさんを見るが、本人は目を逸らして口笛を吹いている。下手か。ごまかし方下手か。

「昔も、離れて暮らしてる時にこっそり連絡取れるようにって渡してくれてたんだけど……」

 ラタンさん……愛人の娘との会話の為に門外不出の技術を使うとは……なかなかとんでもないことしますね。

 あの人実際不良信者だな?

「それを二つとも……わだすの分と父の分、どっちも送ってきたくれたんだ。餞別でもあり……もう、関係を断つっでいう覚悟でもあるんだろうなぁ……」

 コマミさんの顔は切なそうで、けれど吹っ切れたような晴れやかさもあった。

「んで、一緒に手紙が入っでたんだ。お前にとって大事な人に、片方渡して二人の絆にしなさい、っで」

「えっ、そ、そそそ、それを僕様に!?」

 そんなの告白では!?

「あ、勘違いしないでくれな。わだすにとっで、別に王子は大事じゃない」

 おおぅ……ほんの僅かな照れや赤面も無しにきっぱりと……テンションが全開になってた王子も一瞬で切な顔だよ……。

「けど……あんだがこの国を取り戻す為にわだすが必要だっていうなら、これを預けても良い。ただし、二つだけ約束してけれ」

「な、なんだ?」

「一つは、絶対にこの国を取り戻すこと。わだすも、この街も皆も、この国の全ての人が、安心して日々の営みを出来る良い国を作っでぐれ。もう一つは……」

「も、もう一つは?」

「話しかげるのは、1日に1回だけ。何回も連絡してきたらもう返答しなぐなるがらな」

「そ、そんなぁ……せめて2回、2回でどうだ!?」

 一国の王になろうという人間が泣きながら懇願することではないと思うけど、まあ王子にとっては大事な事なんだろう。

「……わがった、じゃあ、朝に簡単な挨拶と、夜仕事おわっでがらちょっと話す、それでどうだや?」

「うむ……うむ!それはいい!それは良いな!!俄然やる気が出てきたぞ!!」

 飛び上がって喜ぶ王子は実に単純ではあるが、一途にコマミさんを好き過ぎてちょっと可愛いな。

 コマミさんとの関係性も、きっとコマミさんの側は恋じゃないんだろうけど、でもなんだか少しずつ良い関係が結ばれて行っている気がする。

 こりゃ時間はかかるけど、王子にも可能性は残されてるかもな。

 ……ま、男女の関係は恋だけが絶対的に正義じゃないから、良い友人になるのがゴールかもしれないけど、それはそれで幸せな関係になれるんじゃないかな。


「あ、朝はおはようのチューでも良いのか?音だけ!音だけだからいいだろう?実際にしたいとか、してくれとは言わないから!」

「……やっぱり一日一回にしでもいいが?」

「待って!ごめんごめん!待って!」


 ………いや、やっぱり無理かもなこの二人は……主に王子のせいで!







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