第121話
「本日のルジー会議ぃー」
名前を……奪われている……!!
サプライズ義肢装具の翌日、再び僕らは朝食後の会議に召集された。
会議の名前からもわかるように、僕はもう会議の中心ではなく、完全に出席者の一人である。
くそぅ、今に見ていろ。絶対にこの会議をルジーから取り返してやる。ジュラルを取り返すのなんて、二の次だ!!
「お前……今一番やるべきことをあっさり二の次にするなよ……」
「そうは言うけどイジッテちゃん。どっちが大事だと思ってるんだい!?」
「どっちもどうでもいいと思ってる」
ううーーん……まあ、イジッテちゃんはそうかな!!
「おいおい、リーダーがそれでは困るぞ。儂らの依頼に応えてくれ」
テンジンザさんが横やりを入れてくる。
「どうせ形だけのお飾りリーダーですけどねー。会議の進行役すら任せてもらえないですしー」
「そう捻くれるな。少なくとも、昨日のことは感謝しておるし、敬意も表しておるよ。タニーの為にありがとう少年よ」
「そうね、アタシを連れて行かなかったのは気に入らないけど、まさかミュミュに義手を作ってくれようとしてたなんて、良いとこあるわね」
テンジンザさんとパイクさんから立て続けに感謝された。
「ふ、ふん。勘違いしないでよね! タニーさんはミューさんのついでなんだからね!」
「照れ隠しがダメな方向に出てるからやめような」
ぐぬぬ、慣れないな。こういうの慣れない!
まあでも、パイクさんとミューさんがそれは嬉しそうな顔で見つめあっているので良しとしておこう。
「じゃあ、さっそく会議は昨日の続きです」
ルジーがつつがなく進行する。悔しいが進行役が上手いんだこいつは。
ただ―――
「……昨日って、結局何が決まったんだっけ?」
「――……お前寝てたもんな。それでよく進行役を奪われたとか恨み節口にしたもんだな」
「うっせうっせぇ。いいから説明してくれよルジー。ねぇ、イジッテちゃんもそう思うでしょ?」
「そうだな、私もちゃんと聞いてなかった!」
「堂々と言うなバカコンビ……」
「バカコンビとはなんだ!私のような伝説の盾に向かって失礼だぞ!バカはこいつだけだ!」
「そうだ!バカは僕だけだ!」
「否定しろよお前は!」
「否定するだけの根拠がない!」
「――――……それはそうだけど!!」
「はいはい、コンビでバカやってないで説明するから聞いてくれ。昨日決まったのは、まあ簡単に言えば味方を増やそう、ってことだ」
「……ほう?」
味方を増やす……まあ確かにそうだな。今の僕らの戦力では、城を取り返すのは難しいだろう。
「もちろん、単純に人数を増やすことも重要だが、それよりもまずやるべきことは、大きな拠点の確保と……広報だ」
「広報って?」
「まあつまり、テンジンザ様と王子がこの国を救うために立ち上がった、と言うことを国中の味方になりそうな相手に伝えてくれる存在だな。そして、その情報を聞いた人間がこっそり集まれる拠点、この二つが絶対だ」
「大々的に知らせたらダメなんだか?」
当然のように会議に参加してるコマミさんから投げかけられた疑問だ。
「そうですね、まだこちらの準備が整ってないうちに相手に知られたら、一気に攻め込まれて終わりですからね。最初は信頼できる相手にだけ情報を流して、少しずつ人数を集めて、一気に潰されないくらいの勢力になったら大々的に宣言しましょう。そうすれば、拠点が攻め込まれても次々援軍が来て敵を挟み撃ちに出来る可能性もある」
「もちろん、拠点の周囲で待ち伏せされて、我らの仲間に加わろうと向かってくるところを迎え撃つ、という戦い方をされる可能性もあるので、拠点だけでなくその周囲を固められるだけの戦力が必要、ということになる」
「はぁ~~……そら大変だやなぁ。何人くらい必要なんだべ?」
「そうだのぅ……拠点の守りやすさにもよる。堅牢な守りの地形や建物、それに強力な武器が豊富であれば……500……いや、最低でも1000は欲しいのぅ。もちろん、条件によってはもっと、数千の兵が必要になるだろうて」
「まあ、今はガイザもそこまで大量の兵をジュラルに置いてるわけではない。せいぜい1万から2万ってとこだろうし、それを全部こっちに回して城をがら空きにするとは思えないからそんなとこかな。しかし、時間を掛ければそれだけ相手の戦力も充実していく。早めに仕掛けるに越したことはない」
はぁー、大人数の戦いの知識と経験がない自分には想像もできない話だ。
テンジンザさんとルジーはよくそんな数字が出てくるな……。
いや、僕も計算は出来るけどね? 別に苦手じゃないけどね? ホントだよ?
「けどさぁ、そんなに都合の良い拠点と、都合の良い広報役がどこにいるんだ? ルルジが広報役もやってくれるのか?」
イジッテちゃんの言うことはもっともだ。
そんなものが簡単に見つかるなら苦労はない。
「ボクには無理だよ。何せこの役には信用が必要だ。どこの誰ともわからない人間が、テンジンザ様と王子が国を取り戻す為に人を集めている、なんて言っても信用されないだろ?」
確かにそうだし、王子やテンジンザさんに直接いろいろな場所に出向いてもらうのはあまりにもリスクが高い。
誰か、信頼のある立場で、顔の広い人がひっそりと広めてくれるのが理想なのだろうなぁ。
いやいや、そんな都合の良い人いるわけない。
「まあその、居ない訳ではないんだ。そんな都合の良い人間が」
テンジンザさんの驚きの一言である。
「……あるんですか? そんな都合の良い話が?」
「ああ、しかも隠れるのにぴったりの拠点も持っている」
「―――――都合が良過ぎて怪しいですね」
そこまで来るとさすがに裏があるとしか思えない。
「まあ確かにそうなんだ。こんな都合の良い話が上手く行くとは思えない……だが、上手く行けばこれほど大きなチャンスはない」
「誰なんですか? その人は」
「それがだな……――――――」
「――――いやぁ……それはさすがにどうですかね……」
説明を聞いた僕は、大きく首を捻った。
相当 無理筋な話のように思えるんだけど……」
「しかし、賭けてみる価値はあるだろう。なにより、そのくらいの賭けに勝てなくて、国を取り戻すことなどできるハズもない」
そう語るテンジンザさんは、もう何度も何度も考えて覚悟を決めたのだろう。迷いのない目をしている。
それを見ても、簡単に否定出来るようなつまらない人間ではないつもりだ。
……まあ、代案があるわけでもないし……賭けてみるしかないか…!
「――――わかりました、やってみましょう」
僕がそう言って頷くと、後に続くようにイジッテちゃんや皆も頷いた。
みんなの心が一つになったのを感じる。
さあ、ここから始まるんだ。
この国を取り戻す為の、本当の戦いが。
きっとそれは簡単な道ではないだろう。
「おい」
しかし、僕らは決して負けない。ここに集まったみんなで力を合わせて、どんな困難でも乗り越えて見せるさ。
「おい、おいって。おい!」
そう、僕らがここに集まったのは決して偶然なんかじゃない。運命……なんて言ってしまうのはきっと言い過ぎなんだろうけど、でも、何か意味があるはずだ。
僕らがここに集まった、その意味が――――
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーい!!!聞けよ人の話を!!!」
「……なんですか?人が良い感じにまとめようとしている時に――――王子」
そう、さっきから聞こえないフリをしていたのは、王子の横やりだった。
なぜ聞こえないフリをしていたのかと言うと――――
「僕様は!まだ!!国の為に立ち上がるなんて、一言も言ってないぞ!!」
……そう、みんなそれに気付いていたけれど、うやむやにしたまま話を進めていたのである。
なので、このままなし崩し的に進められるかなー……と思ってたんだけど……無ー理でーしたーーー!
「えー、でも、言われた通りちゃんとコマミさん連れてきたじゃないですか。何が不満なんですか」
「僕様は、コマミさんと結婚出来たらと言ったのだ!出来てないではないか!」
「えーー? それってコマミさんが悪いってことですか? コマミさんが結婚してくれないせいで、この国はガイザに侵略されたままなんですか?」
「いや……そ、そういうことを言ってるのではなくてだな……」
「そりゃ酷いじゃないですか王子。そんなのほぼ脅迫ですよ。この国に平和を取り戻したいなら嫌でも自分と結婚しろ、って、そう言うことですよあなたが言ってるのは」
本当はそこまでは言ってないけど、まあ王子の気持ちを変えるためには多少強引な理論も必要だろう。
「い、いや、しかしだな……」
「えっ……王子様最低……」
珍しくミューさんが乗ってきた……と思ったけど、あの表情は本気で引いてるなミューさん。
「ほんとよね、王子サイテー」
パイクさんは完全に乗ってきた。
「王子……僭越ながら今のはさすがにどうかと……あなたは今、この国の命運を王族でもない一人の女性に背負わせたのですぞ。彼女は新しい道を、自分の夢を追い始めたところなのです。それを捨てろと仰るのですか?」
テンジンザさんも乗ってきた。
どんどん狭まる王子包囲網。
さあ、追い詰められた王子はどうする……?
と思っていたら、ガタ!と椅子を鳴らして王子が立ち上がった。
「ええいうるさい!!それならそれでいい!! そんな強引な方法だろうと、卑劣なやり方だろうと、僕様はコマミさんと結婚したい!!それくらい、彼女の事が好きなんだ!!!僕様は、一生をかけてコマミさんを全力で幸せにして見せる!」
おお、まさかの方向に振り切ったな。
けど、そこまで行くと一周回って愛の強さが際立つともいえる。
これで、コマミさんが少しでも頬を染めたりでもしててくれれば、これはもしかしたら可能性があるかもしれ無表情!!!
王子の一世一代の告白に、圧倒的無表情!!!!
これは無理だよ王子……!
皆の視線が集まれると、コマミさんはゆっくりと立ち上がり、静かに、そして美しいとさえ言える動きで丁寧に深く頭を下げた。
「王子、お気持ちを受け止めることが出来ず、本当に申し訳ございません」
訛りではなく、しっかりとした敬語で謝罪するコマミさん。
これが敬意によるものか、はたまた拒絶ゆえなのか、僕らには知る由もないが、少なくとも王子が明確に拒絶されたことだけは確かだ。
「けれど王子、私は王子に……いえ、誰かに幸せにして欲しい、とは思っていません。私は、私自身の力で幸せになりたい。その為に、ここで頑張りたいのです」
「し、しかしそれは……」
「わかっています、決して簡単な道ではない事は。なにより、この場所は与えていただいたもので、自分の力なんかじゃない。そういう意味では、私はあまりにも幸運で、そしてズルい、そう思います。……でも、いつか……いづが! この店をもっどおおぎぐして、繁盛させで、与えて貰った物じゃなくて、胸を張って自分の場所だと言いたい。それに見合うだけの人間になっで、恩返ししでぇ」
……こりゃ無理だよ王子。
こんなにも真っすぐ、覚悟を決めて、未来しか見てない瞳で熱く夢を語る人に、望んでも居ない結婚をしろなんて、言えるわけがない。
「だがら……すんません王子。本当にもうしわけねぇです」
「――――そうか、あいわかった!」
王子は、涙を目にいっぱい貯めながらもこぼれないように上を向いて叫んだ。
「好きにするがいい!そして、後々後悔するんだな!! おぬしは今、未来の王との婚姻を断ったのだ! あとから……この国を取り返し、以前よりも最高の国になった時、この国の王女になれなかったことを悔やみながら生きるがいい! ……おぬしが、そして国のみんなが、存分に後悔出来る世界を作って見せようぞ!!」
……ん?
なんか、今の流れでいつの間にか、王子の覚悟決まってる!?
みんなで顔を見合わせて、「決まってるっぽいよね?」と目で確認しあうと、みんな驚いたように頷いている。
どうやら決まったっぽいけど……ど、どの部分が心に響いたんだろうか。
確認したいけど、なんか今すっごい自分に酔ってるし、変に突っついて気持ちが変わったら面倒だからこのまま行くか!
期せずして、この瞬間にみんなの心は一つになったのだ。
よし、じゃあ行くか!ジュラルを取り戻す為に!!
王子の気持ちが変わらないうちに!!
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