第四章

第96話 第四章が始まるの巻。

「こんなマズイ飯が食えるか!シェフだ!シェフを呼ぶのだ!」

 カリジの街に着いた僕らは、早速ミューさんたちと合流したのだけど……事前に決めていた待ち合わせの宿の部屋に入ると、いきなりスープを投げつけられました。

「あっちぃ!!」

 とっさにイジッテちゃんでガードする僕。

「お前……」

「ごめん、これはごめん」

 敵の攻撃はともかく、熱々スープを幼女でガードするのはなんか凄く外道感が強いな……いやまて、なんか感覚おかしくなってるか…?攻撃ガードするのも外道だって昔言われてたよな……慣れって怖いな。

 っていうか、そもそもなんでスープが飛んで来るんだよ。

 部屋の中は、まあごく普通の宿だ。

 さほど広くもない部屋に、机と椅子とベッドが3つ、むしろちょっといい部屋なくらいだが、机に並んだ料理がお気に召さない様子で椅子に深く腰掛けているのが……どうやら王子らしいよ?

「ボロ小屋のような部屋!不味い料理!外に散歩にも行かせない!僕様を誰だと思っている!ジュラルの第一王子だぞ!お前らなんかすぐにこの国から追放してやるぞ!」

 ……なんだこいつ……?

 外見的にはなんだろう、ムカつくけどわりとイケメンというか、少しウェーブのかかった綺麗な金色の髪に端正な顔立ちではあるが、正確の悪さがそのまま顔に出てるみたいな表情をしている。

「ちょっとみんな集合ー」

 王子を一人部屋に残して、全員廊下で話し合う。

 なんか中でギャーギャー言ってるけど完全に無視しよう。

「えーと……まずはお久しぶりです。パイクさん、セッタ君、ミューさん」

 あからさまに機嫌が悪いパイクさんと、いつも通りのセッタ君と、疲れた顔をしているミューさん。

「あれ、ルジーは?」

「あの子は自分の金で別の宿に泊まってるわよ。あんなクソ王子と一緒に居たくないって。アタシもお金があればそうしたいのはやまやまなんだけどね…!」

 怒りが爆発する二秒前なパイクさんのこめかみに血管が浮いているような気さえする。

「よく我慢しましたね……」

「―――……アタシはリーダーじゃないからね、勝手な行動をして問題を起こすわけにはいかないのよ」

「………と、ワシが散々言い聞かせたんじゃよ。ほっほっ」

 助かりますセッタ君……。

「ミューさんもご苦労様でした。あいつに嫌なこととか言われませんでしたか?」

「はぁ……あの人、別に私の腕についてとか、そういう事は言って来ないんですけど……ただただ、ひたすらにわがままで自分勝手なんです……そもそも他人に興味が無いのかもしれませんです…」

 僕は、今聞いた話をそのままパスするようにジュラル3人衆に目線を送った。

 ……みんな目を逸らして気まずそうな顔してますよ…?

「………オーサさん?」

 とりあえずオーサさんを問い詰めてみる。

「いやその……王子は優秀な方ではあるのだがその、性格に難があるというか……そのせいで、ほぼ追い出されるような形でカリジの学校寮に放り込まれたというか……」

「………テンジンザさん…?」

「………あれだ、その、あんな王子でも、正当な王位継承者であるし、王も、歳をとれば少しは王子の性格も落ち着くだろうという希望を持っていたのだがな……」

「駄目だった、と」

「………そのよう、だな」

 はぁぁぁぁーーーと、この場に居る全員が深いため息を吐いた。

 ちなみに、タニーさんはもう病院に入院させてある。テンジンザさんの元主治医という人がやっている王立病院なので安心だろう。

 さて……問題はあのバカ王子だ。

 ここから一緒にやっていくのに、あんな態度を取られ続けたらたまったものではない。

「ちょっと、ガツンと言ってやってくださいよ」

 テンジンザさんとオーサさんに頼んでみるが、ゆっくり首を振られました。

「王子は儂らの言う事は聴かんよ。そもそも王とも仲違いしていたからな、王の直属の部下である儂らの事も気に入らんようだ」

「ぶん殴って言うこと聴かせるというのは?」

「冗談だろう!?王子様だぞ!?俺たちの身分でそんなことが出来るわけがない」

 そうか、身分の問題なのか。

「じゃあ、僕らなら別に何しても良いってことだよね?」

「………だな」

 僕とイジッテちゃんの考えはすぐさま一致したようで、僕らは振り返りドアを開け、王子の元へ。

 後ろからオーサさんの「何をするつもりだ!?」という声が聞こえてきたけど、無視します。

「ん?なんだ貴様らは。汚い庶民は出ていくがいい。それとも、貴様等が僕様の世話をしてくれるとでも言うのか?まあいいだろう、だったらまずは掃除を―――」

「ていっ」

 イジッテちゃんが顔面を殴りました。

 ビックリしたのか言葉を失う王子でしたが、何が起きたのか気付くと顔を真っ赤にして怒り出しました。

「な、なにをする!!僕様はジュラルの第一王子だぞ!その僕に手を上げて、どうなるかわかって…」

「えいやっ」

 僕が顔面を殴りました。

「はっ?な、なにを…!」

「ていやっ」

「えいやっ」

 イジッテちゃんと僕が左右から画面を殴りました。

「ちょっ、ちょっと待て、待つのだ貴様等…」

「そいやっ」

 イジッテちゃんが左からビンター。

「よいしょ」

 僕が右からビンタ。

「そいやっ」「よいしょ」

「そいやっ」「よいしょ」

「そいやっ」「よいしょ」

「そいやっ」「よいしょ」

「そいやっ」「よいしょ」

 リズミカルだなぁ、二人の息があっている。

 なんだっけこれ、ああそうだ、東洋の国にあるという餅つきと言うやつみたいだ。

「も、もう勘弁してください……」

 ようやく王子から敬語が出たので、この辺にしておいてやろう。

「王子、ご無礼をお許しください」

「………ご無礼が過ぎるのではないか…?」

 まあそれは否めないが、無視をしよう。王子の言うことなんて無視しよう。

「本当は王子も解っているのでしょう?あなたがさっきから振りかざしている権力は、もう失われつつあることに」

 僕の言葉に、王子は解りやすく目を逸らし、耳を塞いだ。

「聞こえない。知らない。わかってなどいない」

「そうですか、じゃあもう一回よく聞こえるようにショックを与えなければ」

「うわぁやめい!ごめん!」

 イジッテちゃんがグッと握った拳を振り上げると、王子はビクッと身体を震わせたのち、耳から手を放して酷く肩を落とした。

「………わかっていたさ……父が殺され、城が落ちたのだろう?あちらこちらから聞こえてくるさ。もうジュラルは終わりだ、とね」

「わかってて何であんな態度とってたんですか?」

「認めたくなかったんだよ!あんな態度でも回りが言う事を聞いてくれるなら、それはまだジュラルが死んでないってことだ。この国が、王の威厳が死んでないってことだ。そうだろう?」

「そうですね、でも僕が来ました。貴方の事なんて何も怖くない僕が。貴方が王子だろうとなんだろうと、気に入らなければ文句を言うし、酷い態度には時には手も出ます」

 いやまあ、別に王が存命でもやっただろうけど、でもまあちょっとは考えただろうな、そんなことしたら捕まる、と。

 今は確実にその危険が無いから、何の遠慮も無く殴れるのだ。

「………だとしてもちょっとくらいは遠慮してくれても良いのでは…?というか、あんた独り言凄いな?話しかけられてるのか迷ったぞ?」

「いいですか、王子。あなたにこの言葉を送りましょう。気にしたら負け!!」

「お前が気にしろよ。自分の酷い独り言を、お前が気にしてお前が止めろよ」

「ははは、イジッテちゃん。僕は無意識なんだから気にしようがないんだよ」

「じゃあもう病気だろ」

 ううーん、厳しいツッコミ。それでこそイジッテちゃん。

「というわけで、覚悟を決めてください王子」

「急に話が戻ったな…?だが、それは無理な話だ」

「なぜです?」

「………僕様は王の器ではない……」

 あ、僕様ってわがままキャラ作りで言ってたんじゃなくて、普段からなんだ……やべぇなこの王子。

 まあ、どんなにヤバくてもやってもらうしかないんだけど。

「なんで器じゃないって思ってるか知らないですけど、やってもらいますよ」

「なぜだ!なぜ僕様に…」

「なぜって、そんなの決まってるじゃないですか。他に居ないからですよ」

 王子だとか、血筋だとか、理由を重ねようとすればいくつでも浮かぶけれど、最終的にはたった一つ、他に居ないからだ。

「い、居ないことは無いだろう!王族は僕様だけじゃない!そうだ、テンジンザだ、あいつも居るだろう!僕様なんかより、よっぽど王にふさわしい!」

「そんなことはありませんぞ、王子」

 後ろでなりゆきを見守ってたテンジンザさんが会話に入ってきた。

 殴ってたのよく止めないでいてくれましたね。

「儂は戦いしか出来ませんからな。王として政治を行う才はありませぬよ」

「そんなもの僕様だって無い」

「そうですかな?そもそも王と仲違いされたのも、ご自身の提案した政策を否定されたからではありませんでしたか?」

 そうだったのか、意外とやる気はある王子だったんだな。

「否定された時点でお察しだろ」

「いやいや、儂は悪くない案だと思いましたぞ。ただ、タイミングが性急過ぎたのと、予算の見積もりの甘さが障害だったのです。王はあなたが思うよりも、あの案を評価されておりました」

「………嘘だね、そんなの」

「嘘ではありません。確かにあの頃、王子は問題を起こすことが多く、それによって城を追い出されたとお思いでしょうが、それだけではありません。しっかりと学校で学ぶことでさらに才能を伸ばすと同時に人格的にも成長してほしい、という王の願いなのです」

「そうだったのか…」

 後ろでオーサさんが小声でびっくりしてる。

 ……テンジンザさん本当のことを言ってるのか、王子にやる気を出させる為の方便なのか判断できないな……食えない人だからなぁ。

「でも、他の王族も…」

「今この状況で、立ち上がる王族がどれほど居るか……ガイザは既に手を回し始めている可能性もあります。探せば何人かは居るかもしれませんが、家を一軒一軒訪ねていくのは危険も大きいですし、誰が裏切っているかもわからぬ状態では迂闊に動き回れません」

「うぬぬぬぬ……」

 テンジンザさんの説得に考え込む王子。

 長い時間、僕がちょっと我慢できなくなってトイレに行って戻ってくるくらいの時間考え込んでいたが、ようやく覚悟を決めたようで、表情が変わった。

「―――わかった、やっても良い」

「おお、本当ですか!ありがとうございます…!」

「―――だが、条件がある」

「条件……とは?」

 なんだか言いづらそうに、照れながらも王子はその条件を口にした。


「その、あのだな……王の隣には、やはり王妃が必要だとおもうのだ。だからその……その王妃に、あの、その、こ、コマミちゃんがなってくれるなら、考えても良いぞ!!」


 顔を真っ赤にしながら言い切った王子だけど――――……え?

 コマミちゃんって、誰ですか?

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