第78話
「いやぁ、助かりましたね、定期馬車がまだ動いてくれてて」
僕らチーム全裸……じゃなかった、チームAはテンジンザさんの捜索に王都から南西の別荘地に来ていた。
少し前には、テンジンザさんの隠匿先の候補である貴族街もあったが、定期馬車の行く先にはなっていなかったし、ヒトミッツカールを見る限りまだ遠いようだったので通り過ぎたのだ。
というか、ヒトミッツカールは高価なものだし、あまり一般人が持ってるものでもないからそうそう人前では使えない。
ガイザ兵もどこに潜んでるかわからない今、なるべく目立つ行動は避けたいところだ。
「絶対に脱衣ボンバーとかやるなよ」
「あははイジッテちゃん、僕がそんなことするわけないじゃないですかー」
我ながら、なんて信用できない言葉なんだ。
絶対にやったらダメな時にやってしまうのが僕だからなぁ。
「自覚があるのに止められないなら重症だぞ……」
「自覚がある程度で止められるなら、この世界に変態は1人も居ませんよ。みんな自分が変態だと理解しつつも、止められないんです。そういうもんなんです」
「……なんか似たような話を前もした気がするな……つまりこの話はするだけ無駄だってことだな?」
「はい!」
「いい返事をするな!!」
良い返事をして怒られる、この世の中にそんなことがあるんだなぁ。
「おーい、それで、これからどうするんだ?」
僕らの会話にしびれを切らしたのか、割って入ってきたのはオーサさん。
2つのチームに分かれた僕ら、チーム全裸……じゃないチームAは僕・イジッテちゃん、オーサさんの3人。
もうひとつのチーム脱衣……じゃないチームBはパイクさん、セッタ君、ミューさん、ルジーの4人、というチーム分けになった。
「ああ、じゃあどこか目立たないところでもう一度ヒトミッツカール使いますか」
僕らは辺りを見回す。
この別荘地は自然の多く残る高原で、左右を草原や林に囲まれた真っ直ぐ整備された道と、そこからいくつかに枝分かれする道の先々に誰かの別荘が点在している。
とりあえず、道の脇に大きな木があるので、その陰に入って周囲からの視線を隠しながらヒトミッツカールを取り出す。
もうテンジンザさんの髪の毛は入れてあるので、そっと魔力を込める。
ヒトミッツカールを矢印がくるくると回りだして、別荘地の奥の方を指し示した。
「んー、まだ反応が弱いですね。これだと別荘地の中なのか、それとも超えた先なのかどうにも判断できないです」
こうなると、もう一つ先まで馬車に乗って行っても良かったかなぁという気もするが、別荘地に居る可能性は、素通り出来るほど小さくはないからなぁ。
「そうか、どちらにしても先に進むしか無いな。行こう」
オーサさんは相当気が早っている様子だ。
まあ、尊敬するテンジンザさんがどういう状態なのかわからないのだ、焦る気持ちもわかる。
「……じゃあ、歩きますか」
「やれやれ、面倒だな……」
イジッテちゃんとしてはテンジンザさんには会いたくないだろうから気が重そうだ。
「なんならおんぶしますけど?」
「やだよ恥ずかしい、歩く」
照れなくても良いのになー。イジッテちゃん軽いし。
「良いから行くぞもう!」
結果的に先頭を歩きはじめるイジッテちゃん。
やれやれ、僕も歩くか。もしくは脱ぐか。
「脱いだら着せる!」
凄い真っ当なことを言われた!
「ところで、このメンバーで本当に良かったのか?」
長距離移動をしていると、会話もしたくなるのだろう。オーサさんが不意に疑問を口にした。
「どうしてですか?」
「いやその、俺はやはりパイク殿と一緒の方がいざと言う時に戦闘力が増すというかほら、今は俺の剣もこれだしな」
そう言って指し示したのは、ジュラル軍の兵士が標準装備している剣だ。
普通は鞘にジュラル国の紋章が入っているが、それを塗装で上書きして消している。
オーサさんが使っていた大剣は岩男・丸男との戦いで折れてしまった。
城には予備があるらしいが、オーサさんがジュラルに戻った時にはもう、とてもじゃないが取りに行ける状況では無かったが、武器が無いのも不安なので城の近くで息絶えていた兵士の剣を拝借してきたのだそうだ。
まあ確かにオーサさんの剣としては小さいが、それでも僕らの中で一番武力が高いのは間違いない。
「オーサさんとパイクさんがこっちに来たら、向こうのチーム脱衣……じゃないチームBは攻撃力ほぼ皆無ですよ……パイクさんは一人でもそれなりに戦えますからね」
もしパイクさんをこっちのチーム全裸……じゃないチームAに入れてオーサさんと同じチームにするなら、チーム脱衣……じゃないチームBはミューさん・セッタくん・ルジーと、まともに戦える人間がいなくなるので、戦力バランス的に僕が向こうに行くことになるのだろうけど……テンジンザさんとの再会の場には僕も立ち会う方が良いと思った。
テンジンザさんはああ見えて意固地な所もありそうだし、僕が協力してると後から知ったらへそを曲げそうな気もする。
最初からちゃんと、僕自身が会って説明して言いくるめ……説得するのが一番良いのだ。
あと、オーサさんを一時的にでも所有者にするのパイクさん絶対嫌がるだろうし。
「こっちの、テンジンザさんに会いに行くチーム全裸……じゃないチームAには、オーサさんは絶対に必要でしょう?いきなり僕や、知らない人間が行っても会わせてくれるハズ無いですし」
「それはまあそうだな」
「で、僕もテンジンザさんには会っておきたいし、イジッテちゃんは僕と一心同体でしょ?」
ガインガイン、二回殴られた。もう知ってる、これは照れ隠しの殴り方だから甘んじて受け入れる。
「そうなるとチーム脱衣……じゃないチームBには攻撃力としてパイクさん、防御力としてセッタ君、魔法が使える人間も居た方が良いのでミューさん、そして王子の情報を集めるための調査にルジー。これ以外の分け方あります?」
「ぐぅ」
ぐうの音も出ない、というのは聞いたことがあるが、ぐぅっていう音を実際に出した時には、むしろぐうの音も出ないのだと思う。
「こっちのチーム全裸……じゃないチームAも、一応魔法が使える僕、防御力のイジッテちゃん、攻撃力のオーサさん、良いバランスじゃないですか」
うん、完璧なチーム分けだ、と思ったのだけど、イジッテちゃんは何故か不満顔だ。
「チーム分け自体は間違ってないが、チーム名を絶対にすんなり言わないのは間違ってるぞ」
気づかれてましたか。
「そうですね、わざとですからね」
「だろうな、知ってた知ってた」
「知ってたら止めてくださいよ」
「止めてもやめないだろうが」
「そりゃそうですよ」
「ならなぜ止めてくださいとか言ってくるんだお前は…」
「……君達は良いコンビなのか仲が悪いのかよくわからんな…?」
「何を言うんですかオーサさん、めちゃめちゃ仲良いですよ?ねえイジッテちゃん」
「………ノーコメント」
「ね?否定しないでしょ?」
ガインガイン。
そこからひたすら歩いて、たまにヒトミッツカールを使って、またひたすら歩く。
それを繰り返してるうちにそろそろ日も暮れてきた。
この辺りは別荘地だけあってモンスターも出ないが、それでも歩き続ければ当然疲れは溜まっていく。
「うーん、このまま見つからなかったら、野宿ですかね?それとも、どっかの別荘に勝手に入りこんじゃいます?」
「それはダメだろう、別荘とは言え人の家だぞ」
「でも、今の時期は旅行シーズンでも無いですし、別荘なんてほぼ空っぽですよ。一晩寝かせて貰うくらい良いじゃないですか」
「私も賛成ー、クソだるい」
口が悪いですよイジッテちゃん。
「しかし……そもそも鍵がかかってるだろう?どうするんだ、窓でも割るのか?」
「はい、開きました」
良さげな別荘を見つけて、あっさりと鍵を開けて見せた僕に、オーサさんはなんていうか、ポカーンっていう擬音を当てはめるならこの顔しかない!みたいな顔をしてる。
「ちょっと待て、なんだその技術……いや待て、そうか、キミたちはジュラル城から脱獄してイージスを盗み出したんだよな……実は大泥棒なのか?」
「大泥棒が貧乏な冒険者やってると思います?」
「思わないが……え?え?」
混乱してるオーサさんをよそに、別荘の中に入る。
なんていうか、昔の経験でわかるんだよなぁ、警備が厳重じゃない家って。
一応調べてみるけど、魔法での警報などは設置されてないようだ。うーん、勘が鈍ってない。良いのか悪いのか。
靴のまま入っても良いタイプの別荘だったので、土足で失礼します。
いやまあ、もちろん足の裏はちゃんと拭いてからね。さすがに汚すのは心苦しいし、かといって出ていく前に掃除するのは面倒ですし。
室内はシンプルなログハウスで、木の質感剥き出しの床の壁と天井、部屋の隅には階段と、ロフトのような狭い二階のスペース、あとは机と椅子とキッチン。
持参したランプに明かりをつけて周囲を照らすと、奥には扉がある。
開けると風呂場があったが、水は溜まってない。
「風呂入りたいー」
イジッテちゃんが空っぽの風呂を見ながら訴えかけてくるが、温泉と繋がってるわけでもないので風呂を沸かすなら多分外にある井戸から水を汲んできて、薪か魔法で沸かす必要がある……いやいやめんどいなー!
「風呂は勘弁してください。いくらなんでも薪を勝手に使うわけにはいかないですし、魔法で沸かすのはキツイです」
「なんでだよ、前に炎魔法の結晶でお湯沸かしてただろ?」
「コップ一杯の水ならともかく、風呂沸かすのに結晶が何個必要だと思ってるんですか………そこの風呂桶くらいならなんとかしますから、お湯に布を付けてそれで体拭いてください」
「ぶーぶー」
「はいはい、ブーイングも可愛いですねー」
ガインガイン。
僕も歩き疲れたのでもう休みたいのですよ。イジッテちゃんをいつでも甘やかすと思ったら大間違いです!!
部屋に戻ると、キッチンの床にどうやら床下収納があるらしく、それを開けてオーサさんが何やら中を覗き込んでいる。
こっそり後ろから視線を向けると、それなりに広い地下空間に、保存食と思われる干した肉や山菜が入っていた。
「……駄目ですよ」
「はっ、な、何のことだ!?食べようなんて思ってないぞ!」
よだれよだれ、垂れてますよ。
「食べるものは持ってきた携帯食料があるでしょ」
「いや、それはわかってる。だが……アレ、あんまり美味くないだろう?」
「そりゃまあ………栄養補給のみに重点を置いた安物ですからね、高い奴なら味もしっかりしてますけど、食事に金を掛ける余裕はないんですよ」
「うん、そうだよな、わかってる。そこで、これだ。美味そうだし食費も節約できるな!」
「そうですね、完全に泥棒の理論ですけどね」
「はっ……!!俺は、いつの間にか心が泥棒になっていたのか…!?いやしかし、ここに勝手に入りこんだ時点でもう罪なわけだし、少しくらい罪を重ねたところで…!?」
オーサさんもいろいろあって心が参ってるんだろうなぁ……そりゃ美味しいものくらい食べさせてあげたい気持ちはあるけどもー。
とはいえ、だ。
家に入り込んで寝る場所として使わせてもらうだけならともかく、家の物を勝手に使ったり食べたりはちょっと罪の質が違う気がする………昔のこともあるし、そう言うのはなるべく避けたい。
「―――仕方ない、本格的に真っ暗になる前に、狩りにでも行きますか?上手くすれば肉にありつけるかもしれませんし、それが無理でも果物くらいあるかもしれません」
「おお、良いな!では俺も一緒に……」
「いや、イジッテちゃんを一人にするわけにはいかないので、オーサさんはここで待っててください。というか、剣だけで狩りは難しいでしょう?僕は一応魔法使えるんで」
「そうか、では頼む。留守は俺に任せろ!」
「帰ってくる時に井戸から水も汲んできてくれー」
風呂場の方からイジッテちゃんの声が飛んできた。
……うん、まあ、どうせ外に出るから良いんだけど。ついでだし。
「じゃあ、いってきま――――」
入口の扉を開けようとした瞬間、扉についている小さな窓から見えた外に、何か気配を感じた。
やばっ、管理人が来たか?と一瞬考えたが―――――違う。
複数人が、気配を隠しながら家を取り囲んで居る。
管理人がこんなことするはずが無い。
僕はゆっくりと扉からあとずさり、オーサさんとイジッテちゃんに小声で伝える。
「警戒してください、何者かに囲まれてる。――――おそらく、侵入してきますよ…!」
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