第77話

「ガイザが城を襲撃したのは、二日前のことだ」

 ルジーはクールモードに戻ってキリっとした表情で集めてきた情報を話してくれている。

 しかし、その後ろにはクマちゃん。

 ベッドの上で両足を前に伸ばして座ってるクマちゃんの足の間に座り、クマちゃんのお腹に背中を預けている。

 言うなれば、背後からクマちゃんに抱かれているような、包まれているような、そんな体制で話している。

 ……シリアスな空気になりづらい…!!

「キミたちも知ってるとは思うが、その襲撃によって王は討たれた。王制だったジュラルからすれば、致命的だな」

 しかし、話の内容はそれはもうシリアスなので、どうしても空気は張りつめてしまう。くそぅ、クマちゃんが居るのにこの空気。

「王の家族や親族はどうなったのだ?」

 クマちゃんことオーサさんが、ジュラルの兵士として当然の疑問を口にする。

 だが、それに対してルジーはあからさまに嫌な顔をする。

「……もっとクマちゃんっぽく話して」

「……クマちゃんっ……ぽく…?」

 クマちゃんの顔が助けを求めるように僕の方を向いたが、僕に出来る事は両手を合わせて、「お願いします!」と願うだけだ。

 着ぐるみ越しでもわかるくらい葛藤が見える……が、愛する祖国の為に意を決してクマちゃんは、オーサさんは声を出す。

「王様の家族はどうなったクマァ?がおがおー」

 ……オーサさん……!!めっちゃ頑張ってる……!!普段はあんなに力強い声なのに、凄く可愛く……!なんだか感動で泣きそうだ!

 ルジーも凄く嬉しそうですよ!

「えっとねー、城に居た王族はみんな死んじゃったんだって」

 でも答えが辛い!!

 予想はしてたけど辛い!!

「お、王子さまはどうなったクマ?」

「えーと……消息不明だって。ジュラル国内の……カリジの街にある学校の寮に入って、親元を離れて勉強してたんだよね、でも城が襲撃された翌日には寮から消えてたって」

「それは、ガイザの仕業か?」

 さすがにこれ以上オーサさんにクマトークさせるのはしのびないので、僕が質問して話を進めよう。よく頑張りましたよオーサさん…!

「いや、たぶん違うな。襲撃されたような痕跡は無かったようだし、おそらくジュラルの関係者が身を案じてどこかに隠したんだろう」

「ってことは生きてる可能性が高いな。なるほど、これでようやく道が見えたよ。テンジンザさんと王子様を見つけて、二人を国を取り戻すための旗頭に据える。それだけで国全体にかなりの希望が見えるはずだ」

 やるべきことがわかれば、あとは実行するだけだ。

「ありがとうルジー、だいぶ助かった。やっぱりお前の情報網は凄いな」

「ふん、昔馴染みだから協力してやったが、料金は後からきっちり貰うからな」

「ああ、その辺はもうテンジンザさんやら王子様やらを見つけて上手いこと城を取り戻せたら、莫大な謝礼貰って、それをそのまま半分お前にやるよ」

「7割な」

「そりゃあさすがに欲張り過ぎだぞ。仕方ない、僕が生脱衣ショーを見せてやるからそれで勘弁しろ」

「10割よこせ」

「……僕の全裸はの取り分が0になるくらいの罪ですか?」

「脱衣無しなら5割で手を打とう」

「……ありがとう…?」

 結果的にこっちの提案通り半々になったのになんか釈然としないな?

「おいおい、本当に半分も渡すのか?この情報だけで?そりゃさすがにぼったくりだろ」

 イジッテちゃんは本当に正直にものを言いますね。

「もちろんこれだけじゃないですよ、全部が解決するまで協力を続ける、って条件です。情報は常に更新され続けますからね、僕らにも危険はありますけど、ルジーにも同じくらいある。半々は妥当な金額ですよ」

「そういうことです。これはボクにとっても賭けですよ。失敗したら一円にもならない。それでも協力してるんですから、そのくらいの見返りは無いと」

 僕とルジーの二人から理由を説明され、イジッテちゃんは渋々ながらも受け入れてくれたようだ。

「……わかったよ。そういう事なら仕方ない。私は情報の価値を理解しない無能な上官ではないからな」

「やっぱそういう人、たくさんいました?」

「そりゃ居たよ!!」

 多くの戦場を見てきたであろうイジッテちゃんが言うと説得力が違うな。

 今度じっくり話を聞かせてもらおうっと。

「そうだ、もう一つ。ガイザはなぜこの街で略奪や虐殺を行わないんだ?」

「ああそれか……ボクも気になって調べてみたんだが、古い文献によると、遥か昔に魔族が人間界に侵略してきた時も虐殺や略奪は無かったらしい。今回もガイザには魔族が手を貸してるんだろ?だとすると、魔族との契約条件に入ってる可能性はあるな」

「虐殺や略奪をするなって?何で魔族がそんなこと」

「そりゃ決まってる、人間は食べても美味くないからさ」

「……なるほど?」

「さらに言うと、魔族にとって人間は性的な対象でもない。ボクら人間がモンスターや家畜に欲情しないのと同じことさ」

「……いや、めちゃめちゃ欲情してる人、何人か知ってるけど……」

「お前の交友関係どうなってんだよ……まあ、魔族にもそんな特殊な奴がいる可能性はあるけど、基本的には興味無いんだよ」

「いいかルジー、性癖に基本などというモノは存在しないんだ。性癖は、人間の数だけ存在する。何が基本で何か特殊なのか、そんなこと決められるもんじゃないんだよ」

「真顔でうるせぇな!!」

 イジッテちゃんが横からこみかめにジャンピングニー。

「話が進まないだろ!!黙っとけ!!」

 続きをどうぞ、とルジーを促すイジッテちゃんだが、ちょっとビクっとしてる。ルジーは見ての通り線が細いので戦いにはめっぽう弱いのだ。

 その代わり逃げ足は恐ろしく速いから情報屋としてやっていけてるんだけど。

「ああ、えっと、つまりだ。食べても美味しくないし性的興味でもない、そんな人間を生かしておく理由は何だと思う?」

「そりゃあ、労働力……じゃろうなぁ」

「正解」

 セッタ君が正解を出した。さすがです。

「人間は力は弱いが、知恵を使い道具を使い人を配置し、効率的に労働をすることにかけては全ての生き物の中で飛びぬけている。殺すよりも便利に使う方が良いに決まってるさ。もちろん、反乱分子になりそうな相手は容赦なく殺されるらしいけど」

「でもそれなら、ガイザをそのまま制圧すればいいのに、なんでわざわざ人間と協力するんだ?」

「魔族が自ら何百何千というモンスターを指揮するのなんて面倒でしかたないだろ?モンスターはほっとくとすぐ本能のままに人間を殺すからな。けど、人間の「軍隊」という仕組みの中にモンスターを組み込んで「上官の言う事を聞け」というシンプルな命令さえしてしまえば、あとは人間が勝手に勢力を広げてくれるし、広がれば広がるほど多くの地域から黙ってても貢物がやってくる。魔族ってのは堕落と怠惰を愛するのさ」

「でも、魔王は世界を征服しようとしてるんだろ?」

「魔王がその気なら、自分で世界各国周って国を潰していけばいい、でもやらないだろ?世界は征服したいけど同時に堕落と怠惰も愛してる。だからこそ、人類はギリギリ抵抗出来てる。良かったな、魔族が働きものじゃなくて」

「………納得できるような、それはそれでなんか……そんな片手間の侵略に人類は苦しんでるのか……っていうムカつきが同時にやってくるんだけど…」

「魔王がそれくらい圧倒的な存在ってことさ。だからこその魔王だろ?人は、魔王の力とクマちゃんの魅力の前にはちっぽけな存在なのさ」

 まあ、クマちゃんはともかく、魔王が圧倒的なのはたしかなのだろう。クマちゃんはともかく、だ。

「今何かクマちゃんを侮辱された気がしたのだが?」

「まさかぁ」

 全力ですっとぼけるに限る。


「さてと、じゃあ動きますか。ルジー、ヒトミッツカールってもう一つあるのか?」

「冗談言うなよ、高いんだぞそれ」

 そうか……しかしそうなると、テンジンザさんと王子様、両方探さないとならないから少し困るな。今は王子の体の一部が無いが、寮に行って髪の毛でも残ってたら使えるかと思ったんだけど。

 となると……僕は部屋の中を見回す。

 気づけば、いつの間にかわりと大所帯のこのパーティ……なら、それを活かすか。

「んーーじゃあ、二手に分かれますか」

 今までだったら、武具のみんなは所有者の僕と離れることが出来なかったけど、今はミューさんが居るから一時的に所有権を譲れば二手に分かれられる。

 別にそういう意図で仲間にしたわけではないけれど、結果オーライというやつだな!

「テンジンザさんはアイテムが無いと見つけるの無理そうですけど、王子様の方はとりあえず行方を消したというカリジの街で情報を集めれば見つけられる可能性もあります。ヒトミッツカールはテンジンザさん捜索の方で使いましょう」

 まあ、みんなで一緒に行動する選択肢も無くはないけど、カリジの街はテンジンザさんたちが走り去ったという方向とは真逆だ。さすがに効率が悪い。

「それで大丈夫ですか?」

「まあ良いわよ。チームの分け方によるけど」

「パイクさん、その辺はちゃんと考えてるのでお任せを。じゃあ、いいですね。チーム全裸はテンジンザさん捜索、チーム脱衣は王子様の捜索、という感じで」


「我々はー!チーム名の撤回を要求するーー!!」

「「「「「撤回を要求するーーー!!!!!」」」」」


 一瞬で全員が息の合った反対を!!

「じゃあ何だったら良いっていうんですか!!チームAとチームBとか、そんなセンスの欠片もない名前で良いんですか!?えぇ!?良いって言うんですかぁーー!!」

「うん、いいよ」

 いいんだ!?

「………じゃあそれで……」

「無駄な逆ギレご苦労さんでした」

 わざとキレて見せたことまでバレてるので、イジッテちゃんには敵わない、と実感されられるのでした。


 ともかくこうして僕らは、2チームに分かれて行動することとなった。

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