第64話

「しかしこいつ、なんなんですかね…?」

 一休みしたあと、まだ転がってる巨大蛇の頭を調べてみる。

「うむ!わからんな!」

 よほど疲れたのか横になったまま、それでも声だけは元気にオーサさんが反応してくれた。

「オーサさんっていろんなとこ旅したりしてるんですか?」

「ん?まあそうだな。しかしジュラルからはほぼ出たことがないな。うちは貧乏貴族だったからな!ははは!」

 なんだかちょっと気になる話だが、今から長い話はさすがに聴くの辛いし、オーサさんも話すの辛いだろうから用件だけ簡潔に。

「こういうモンスター見たことありましたか?巨大な蛇で口から見えない攻撃をしてくるっていう」

「初見だ!すまん!もう寝る!」

「あ、すいません。おやすみなさ……もう寝てる……」

 何という素早い入眠だ。まあ、兵士にとっては早寝早起きも必要な素養なのだろうな。寝不足では力が発揮できないから、どこでもすぐに寝て体力回復できるならそれは強い武器だろう。

 まあそれはいいとしよう、それよりこいつだ。

 巨大蛇の頭を観察すると、どうにも所々に人工物のようなものが見える。

「見てよこれ」

 一緒に調べてくれていたセッタ君に指し示したのは、見えない攻撃を発していたと思われる口の中だ。

「これは……杖、ではないかのう?」

「僕もそう思う」

 正確には、杖の上部というか……だいたいの杖には先端に魔法の水晶が付いている。水晶は魔力を集めやすい性質があるので、大気の存在する僅かな魔素や体内の魔力を水晶に集めて、そこから放出するのが一般的な魔法の使い方だ。

 その、杖の先端がのどの辺りに……埋め込まれている?

 ふと感じる既視感、これは……そうだ、ミューさんを見た時のような……。

「ふむ、少年よ。これも見てみぃ」

 セッタ君に促されて、蛇の頭部の後ろ、切断面に近い辺りに目をやると、ギザギザの突起のようなもの……これは…間違いない、ミューさんの頭にあるものと同じ…?

 どういうことだ……?

 僕は、すでに眠りについているミューさんに視線を向ける。

 頭には、やはりこれと同じものがあるように見える。

 ……隣では、イジッテちゃんとパイクさんも寝ている。

 ……いや、まあいいか。二人とも頑張ってくれたし。おやすみなさい。

「これって、どういうことなんでしょうね…?」

 話を戻し、セッタ君に問いかける。

「なぁに、簡単なことじゃよ」

「なんか、凄い嫌な予感しますね」

 想像はついてるが、あまり考えたくはない。


「考えてもみよ。

 ――――人間で実験するようなヤツが、動物で実験しないと思うか?」


「……ですよねぇ……」

 つまり、これから向かう先にはこんな改造モンスターが大量にいる可能性があるわけだ……これは……覚悟決めないといけないなぁ…。



 翌朝、起きたみんなに事情を説明した。

 ミューさんの手前、少し言うのをためらう気持ちも有ったけど……さすがに伝えておかないといざと言う時に気持ちの備えが出来ない可能性がある。

 「そういう敵がいる」その事実を知っているだけで心構えが変わるというものだ。

 イジッテちゃんとパイクさんはそれはもう嫌悪感を丸出しの表情をしていたし、オーサさんはまた泣きながら怒っていた。

「なんと許せん悪だ!!絶対に罰を与えねば!!」

 気持ちはわかる気もするが、動物での実験を悪だって言っちゃうと色々と人類史的にヤバいですよ、と心の中でだけ思った。

 今は何も言わず、オーサさんのその怒りを力に変えて貰おう。

 ま、そういう自分もわりと怒ってはいるんだけどね。

 動物実験をすること自体を悪だと言うつもりはない。

 しかし、ここはコガイソの街からだいぶ離れているし、誰かの私有地だという訳でもない。

 そんなところにあんな危険なモンスターを放し飼い……いや、飼っているのならまだいい、ミューさんと同じように「捨てた」のだとしたら……あまりにも無責任が過ぎるんじゃないのかい?

 ちょっと、お仕置きが必要だなぁ……!


 朝の会議と朝食を終えて早速出発する。

 道すがら、ミューさんに気になったことを聞いてみる。

「昨日、凄かったですね。あんな強い魔法使えるんですね」

「え、ええその。実はその……ごめんなさい、やっぱりまだその、その事は…」

 ん……これは訳ありか。

 あれだけの魔法を使えるなら自慢しても良いと思うけど、何か言いたくない事情があるのだろう。

 なら、聞くまい。そこまで踏み込む権利は僕にない。

「わかりました。すいません。でも、おかげで助かりました」

「あの……はい。お役に立てたのなら、良かった……です?」

 お礼を言われることに慣れてないんだろうな、と感じた。

 昔の自分もそうだったからよく分かる。

 なら僕の出来る事は、ひとつしかない。

 ちゃんと、向き合うことだ。

 ミューさんと、ちゃんと1人の人間として。

「ええ、めっちゃめちゃにお役に立ってました!ありがとうございます!」

 人の心が救われるのは、誰かの心に触れた時だけなんだから。



 そこからコガイソまでの二日間の旅路……普通のモンスターには何度か遭遇したが、運が良いのか、元々個体数が少ないのか、改造モンスターには遭遇せずに何とか僕らはコガイソに辿り着くことが出来た。

 コガイソの街は何というか、本当に何の変哲もない田舎町、という雰囲気だ。

 いや、田舎町、と言ってしまうと少し違うか。

 都会とは言えないが、田舎でもない、その中間のような……本当にどこにでもありそうな街だ。

 ただ一つ……街の奥にある明らかに異様な半円形の建物を除いては。

 街の奥と言うか……あれはもうほぼ街の外では……?

 建物の正面には入口らしい扉があるのだが、その辺りだけが街の敷地の中に入っていて、大半の部分は外に出ている。

「……あそこでしょうねぇ……」

「だろうなぁ…」

 あんな怪しい建物、変な実験してなかったらむしろおかしい、というレベルだ。

 さて……と。

 僕らはみんなで顔を見合わせて、強く頷く。

「じゃあ行きましょうか…………………宿屋に!!」

「よっしゃ!!久々にベッドで寝られるーー!!」

「シャワー浴びたいわー!」

「腹減ったわい!」

「ミューも疲れました~」

 みんなでワイワイと宿屋に向かっていると……

「いやいや待てーーい!!」

 オーサさんが止めてきた。初めてのツッコミですか?

「目的地は目の前なのに、行かないのか!?どーんと突撃すれば終わりじゃないか!」

「……なんで疲れた状態で戦い挑みに行くんですか?勝率下がるのに」

「いやだって、その為に来たのだろう!?」

「その為に来たからこそ、準備万端で行くんですよ。ここまで来て失敗したらバカみたいじゃないですか」

「それは、そうだが、しかしだな!」

「ごめんなさい!ミューが休みたいって言ったから!そうですよね……長旅で疲れていても、行くべきですよね……フラフラの状態で行ってまた変なモンスターが出てきて返り討ちにされても、行くべきですよね!」

 ミューさん参戦。さすがの演技派。悲劇のヒロインがお上手だ。

「いや、その、そんなことはないぞ。休むのも大事だ。うん、そうだな、今日は休もう!うん!うはは!俺も腹減ったな!」

 宿に歩き始めたオーサさんの背中を見て、グッ!と親指を立てるミューさんに、僕らもみんなグッ!と親指を立てたのでした。良い仕事しましたね!


 だって、みんな超休みたかったし!!


 もちろんミューさんの為にここまで来たのだけど、そのミューさんもとてつもなく休みたいの顔に出てたし。

 それに、あの建物はさすがに何の情報もなく突っ込んで行くには怖すぎる。

 絶対罠とか有りそうだもんな。

 休憩がてら、アイテムショップによっていろいろ補充しつつ、情報収集と行きますか!

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