第65話
「……本当にこれでうまくいくのか?」
オーサさんの疑問はごもっともだが、集めた情報からするとこれが一番確実だ。
「しっ、静かに。いいですか、いきますよ…」
僕の情報に間違いはないハズだ。だから、これしか方法はない。
この――――
「すいませーん、古珍亭でーす。出前をお届けに参りましたー」
出前のフリをして侵入する、という方法が…!!
街で聴いた話によると、普段は訪ねていっても一切反応はないのだそうだ。
度々騒音や異臭の問題を起こすので、住民の代表者が訪ねても無視、無理矢理ドアを開けて入ろうとしても開かないしで、ほとほと困っているらしい。
しかも、街を治める領主とはズブズブの関係らしく、追い出すことも出来ないのだとか。
そんなこの建物だが、中に人が居る以上は食事が必要で、毎日出前の配達だけは受け入れる。
つまり、中に入ろうと思ったら出前に成りすますのが一番、という実に論理的な結論だ。
ちなみに衣装は、体格的にぴったりだった僕だけが本物の出前の人から借りた。
出前の人も正直この建物に来るのは嫌だったようで、代わりに行きましょうか、と言ったら喜んで服と持っていくハズだった料理を渡してくれた。
お得意様ではあるけど、中はなんか不気味だし住人の態度は悪いし気が重いのだそうだ。
とはいえ、一応今でも少し離れた場所から僕らの事を見張ってはいるけど。
料理を持ち逃げされる可能性も考えたら当然のことだ。
大丈夫大丈夫、ちゃんと届けますよ。……まあ、その後どうなるかはわからないですけど。
あと、僕以外のメンバーの服は、色味が似てるものを服屋で買いそろえた。
安くてそれなりに似てるものがあって助かった。
「……なあ、ずっと思ってたけど……この人数で出前に来るってどう考えても不自然じゃないか?」
イジッテちゃん鋭い。
「そう、この計画の最大の弱点はそこだよね!」
パイクさんとセッタ君には矛と盾になってもらおうかと思ったけど……出前の人間が矛と盾持ってくる方がむしろ不自然だろうという結論になった。間違いない。
なので、願わくば相手が細かいことを気にしないタイプの性格だと助かるのだけど……。
その時、どこかから声が響いた。
『出前か、入れ』
どうやら中からの声のようだ。……どこから聞こえてるのか全然わからん。どういう技術なのか、もしくは魔法なのか。
まあなんにせよ、どうやら細かいことは気にしないタイプのようで一安心―――
『……いやまて、お前、いつものヤツじゃないな。しかもなんだその大人数は?一人分しか頼んでないぞ』
……気にする人でした。
いやまあ、そりゃそうだよね!普通そうだとも!
「すいません、実は店を改装して大きくすることになって、僕ら追加で雇われた新人なんですけど、研修も兼ねてみんなで出前回ってるんです。ほら、後ろの方にいつもの人が居るの解りますか?ああやって見守ってもらいながら実際に働いて仕事覚えてるところなんです」
こっちから向こうの姿は見えないが、こっちの人数も把握されてるという事は、何らかの方法で向こうからは見えているという事だ。
その範囲がどこまでかはわからないが、離れたところで見張ってる店員さんが確認できるのなら、それなりの説得力はあるハズ。
『……ふん、まあいいだろう。通れ』
おお、良し、第一関門突破。
まあ正直、ある程度怪しまれているとは思うけど、仮に僕らが何か怪しい人間だったとしてもそれに対処できるだけの何かがこの中にあるという自信かもしれない。
油断せずに行こう。
自動で扉が開くと、中にはただひたすら真っ直ぐな通路。
『突き当りから下に降りてこい』
声に従って進む。
不思議な空間だ。壁や床は……なんだこれ、鉄のようだけど材質がよく分からない。下半分は謎の幾何学模様で、上半分は真っ白。変なデザイン。
よく見ると左右に扉のようなものはあるが、取っ手が無いからどうやったら開くのか……?
どうにも、僕らには計り知れない技術が多いな……これを戦いに利用されたらどういう物が出てくるのか……警戒しなければ。
言われるままに真っ直ぐ進むと、今までの少し様子の違う床が見えた。
『その四角い線の中に入れ』
下に目を向けると、確かに四角く青い線で囲まれた場所があったので、そこへ乗る。全員乗るとギリギリのくらいな狭さだ。
すると―――
「うおっ!びっくりした!」
突然床が動きた。下だ、床が地下に向かって下がっていく。
よく見ると四隅にロープのようなものがある。アレか、井戸の桶を上下させる滑車と同じような原理だな、きっと。
ただ、それをこの大きさと安定感でやるとは……凄い技術だ。
ミューさんや街の人から聞いた話では人間的には相当ヤバいやつのようだけど、技術と知識は本物らしい。
しかし、どんな知識も技術も才能も努力も、使うべき場所を間違えているのならそれは止めなくてはならない。
―――ま、先入観だけで決めつけるのも良くない。
怒りで乗り込んでは来たが、向こうの言い分もあるのなら聞いてみよう。
そんなことを考えていると、床が止まった。
そこは、広い地下空間。
ジュラル王城の塀くらい高い天井に、グラウ村の村長の家の敷地くらいの広さ。
奥になんだかよく分からない大きな装置があり、左右の中小様々な装置とケーブルが繋がっている。
知識のなさ!!何が何の装置なのか想像すらできないこっち方面の知識のなさ!
……いざとなったら全部ぶっ壊してやればいいのかな?と一瞬考えたが、さすがにそれは単細胞過ぎるな、と反省した。
「いざとなったら全部ぶっ壊してやるぜ!」
オーサさんが小声で言っているのが聞こえた。
同じ……同じ思考……。
「ん?どうした?」
僕が凹んでいるのに気付いたイジッテちゃんが声をかけてきたけど…
「なんでもないです……ちょっと反省を超えて自己嫌悪に陥っただけで……」
「そうか、よくわからんがしっかりしろ。もう目標は目の前だぞ」
おっと、そうだそうだ。ここまで苦労してきたんだから。
気合を入れなおせ!
動く床から降りて少し進むと、また声が聞こえた。
『食事はそこに置いていけ、金はそこのテーブルにある』
辺りを見回すと、食事スペースなのか、広い空間にはそぐわない小さなイスとテーブル。
そのテーブルの上に、確かにお金が置いてあった。
言われたようにテーブルの上に料理を置いて、お金を受け取る。
これ自体は古珍亭さんの商売なので、ちゃんと受け取っておこう。僕らのせいで損をさせるわけにはいかないし。
……そこで少し待ってみたが、それ以来何の反応も無い。
―――――さて、どうしようか。
見たところこの空間には誰もいないように見える。
けど、ここに食事を置いたという事は見えないどこかにいるか、もしくは別の場所からここへ来て食事をするのだろう。
少し待ってみるか……?
そんな風に思案を巡らせていると
『何か用か。置いて金を受け取ったらさっさと帰れ』
……やはり向こうから見えるのか、声をかけてきた。
「いやその、食べないんですか?せっかく暖かい料理持ってきたので、早く食べないと冷めちゃいますよ」
『余計なお世話だ。とっとと帰れ。――――それとも、他に何か目的でもあるのか?』
うっ……これは……何か気づかれているのか、それとも探りを入れられているだけなのか――――イジッテちゃんに視線を送ると、お前に任せる、と目で言われた。
うーん、じゃあまあとりあえず、警戒されないようにまず姿を現してもらえるように上手く会話を進めてみるか。どこか別の場所に逃げ道があったりしたら、そこから逃走される可能性もある。
そうなったら捕まえるのは難しそうだからな……よし、じゃあまず―――
「やあやあ我らは正義の勇者一行である!!出てこい悪の科学者め!!この俺が貴様の悪事丸ごと切り捨ててくれるわぁ!!!!」
…………………………………………オーサさぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁーーーーーーん!!!何してくれてんだ!!
こ、この単細胞剣士ぃぃぃぃぃぃ―-----------!!!!
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