第62話
何度目かの衝撃にも耐えているが、相変わらず攻撃は見えない。
ただ、僕らにとって幸いなのが、攻撃が来る方向はわかっているという事だ。
入口の通路、そこから攻撃は来ている。
なので、通路を正面にしてイジッテちゃんを構えながらジリジリと近づく。
走っていきたい気持ちをグッとこらえる。
走っている最中に食らったら吹き飛ばされるのは想像に難くない。いつ攻撃を受けてもいいように踏ん張りつつ、重心を落としつつ、少しずつ進む。
「きゃあ!!!!」
後ろからミューさんの悲鳴。
少しだけ視線を後ろに向けて声をかける。
「大丈夫ですか!?」
ミューさんを中心に、パイクさんとセッタくん、そしてオーサさんが背中を向け合うように警戒しているが、大量の蛇を全て対処することは難しく、少しずつ下がりながらなんとかしのいでいるという感じだ。
助けに入りたいところだけど……蛇を相手にしてるところにあの見えない攻撃が来たら防ぎきれない。
「すいません、僕はこっちを止めているので、蛇は何とかしてください!」
「なんとかったって、どうしろってのよ?」
蛇を一匹ずつ踏みつぶしながらパイクさんが叫ぶ。
「どうって……どうにかしてください!すいません!」
「あーもう!!」
パイクさんの脚に蛇が何匹か巻き付いているが、パイクさんは矛なので蛇に噛まれてもダメージはそれほど無いだろう。
「ところでパイクさん!」
「なによ!」
「足に蛇が巻き付いてるの、触手プレイっぽくてちょっとエロいですねー!!」
「今それ わざわざ大声で伝えてくる必要ある!?」
「ないでーーーす!!」
「じゃあ黙ってなさいよ!!」
「すいませんでしたー!がんばってくださーい!」
「頑張ってるわよさっきから!!」
そんな会話をしてると、オーサさんが割り込んでくる。
「問題ない!俺に任せるがいい!!」
「うるさいわね!さっきからアンタの横をすり抜けてくる蛇をアタシが潰してんのよ!!任せられないからこうなってんでしょ!!」
「すまん!!だが任せろ!」
「だーーーかーーーらーーーー!!!」
どこまでもかみ合わないなあの二人は……いやまあ、オーサさんとかみ合う人が居るとしたら、きっと左右の大剣の右であるタニーか、テンジンザさんくらいなのかもしれないけど。
そんな間にも、定期的に入り口から謎の攻撃は続いているが、もうすぐ入口の通路に到着する。
「良し、着いた!」
今居る広い空間と入り口の通路をつなぐ位置までたどり着いたが、暗くて少し先も見えない。
「アンドン!」
光の魔法で辺りを照らすがまだ攻撃してくる何者かは見えない。
だが、光に反応したのか、さらに強い攻撃が飛んできた!
「うぐっ…!イジッテちゃん、大丈夫!?」
「私は大丈夫だ、痛いけどな!」
やっぱり痛いのは痛いんだ。まあ僕だってイジッテちゃんが防いでくれているけど、衝撃で腕が痛い。
直接ダメージと言えるほどではないが、痛みはある。イジッテちゃんの痛みもそういうものなのだろうか。僕には想像することしかできないけど、大丈夫だという言葉を信じるしかない。
とにかく、敵の正体を把握したい。
少しずつ、光の魔法を通路の奥へと移動させる。
ぬぬぬ、手元で光らせるのは簡単だけど、遠隔は難しい……しか…もっ!こんなふうに定期的に攻撃の衝撃に耐えつつだとさらにだ。
それでも、少しずつ先が見えるようになってきて、今まで暗闇だったところに、影が浮かび上がった。
大きな、丸い……なんだこれ?
影が、徐々に光に照らされると―――――……
「……蛇?」
それは、蛇……だと思う。
いや、蛇としか言いようがない。
まあ、後ろから蛇が来てるのだから、前からも蛇が来てっておかしくはないのだ。
だからそれが蛇であることは何の不思議もない。
ただ――――――その蛇が、見えている頭の部分だけで僕の身長よりも完全に大きとなったら、それはさすがにどうかしていると思うしかないだろう?
この洞窟の入り口は、僕よりだいぶ大きいオーサさんでも普通に立って入ってこれるくらいの高さがある。
にもかかわらず、その蛇は頭だけで入口ギリギリの大きさなのだ。
蛇のモンスターというのも存在するという噂は聞いたことがあるけど、頭だけでここまで大きいと、いったい全長はどれだけ長いのか想像もつかない。
さらに、その蛇が口を開くと―――次の瞬間、見えない攻撃が飛んで来る!!
「ぐっ、なんだこれ?巨大な蛇のモンスターが見えない攻撃を飛ばしてくるなんて、聞いたこともないぞ!」
何度か受けて、おそらくこれは風魔法のようなものではないかと当たりを付けていたのだけど、動物型のモンスターが魔法を使ったという話は聞いたこともない。
僕はいったい何と向き合っている!?
いや、相手が何者であるかはこの際関係ない、問題はどう対処するかだ。
相手の大きさとこの狭い通路、このまま向かって行ってもおそらくどうにもならない。
離れていれば一方的に見えない攻撃が飛んで来るし、近づいても口を大きく開けて襲ってきたら防ぐことが難しい。僕程度の大きさなら、盾で防ぐとかいう問題ではなく、そのまま飲み込まれてしまうだろう。
仮に外へ追い出したとしても、広い場所であんな大きなモンスター相手にするのはむしろ不利だ。
となると……一番有利なのは、中へ引きずり込むことだ。
この狭い入口を通ってきて、中の広い空間に頭だけ出たところを横から切り落とすのが、おそらくベストだと思う。
ただ、あれだけ大きいと僕の力では難しい……オーサさんだ。オーサさんの大きな両手剣で一刀両断してもらえたら……!
ちらりと背後に視線を向ける。
まだまだ小さな蛇が迫ってきていて、オーサさんはもちろん、パイクさんもセッタ君もこっちを手伝って貰えるような状況ではない。
いっそ僕とオーサさんを入れ替えようかとも思ったが、あの巨大蛇の相手を1対1でするのはいくらオーサさんでも厳しい。
僕は今遠距離で守ってるだけだからイジッテちゃんのおかげでどうにかなっているけど、もし本当に中に入ってきたら防ぐだけで精一杯だろう。
僕が注意を惹きつけて、横からオーサさんに斬ってもらう、それが一番確実な勝ち筋だ。
それも、完全に中に入られたらダメだ。頭を高くされたら斬れなくなる。
狙うのは、入り口の通路から頭を出したその一瞬!!
その為には、まずはあの蛇たちをどうにかしなければ……でも、いったいどうすれば……。
悩んでる間にも、蛇たちはどんどん押し寄せてきくる。
「うあっ!!」
オーサさんの声が漏れた。足に蛇がかみついている!
マズイ、もし毒でもあればあのひと噛みでも致命傷になりかねない!
「くっ!」
噛みついていた蛇は何とか斬り捨てたが、脚をかまれた痛みなのか毒なのか、動きが鈍った隙をついて、蛇の集団がまるで一つの意思を持ったかのように、オーサさんに一斉に襲い掛かる!!
「オーサさん!!」
どうする!?爆発魔法や風魔法で……いや駄目だ、この位置からでは間に合わないし、ミューさんを巻き込んでしまう可能性も――――
「み、みなさん!姿勢を低くしてください!!」
そのミューさんが突然叫んだかと思うと……
「トルンベ!!」
ミューさんの唱えた魔法で、3人の周囲を大きな竜巻が取り囲んだ!
次々と蛇たちがその竜巻に飲み込まれて空中に浮きあがり、竜巻と共に空をグルグルと舞う。
オーサさんはなんとか耐えているが、セッタ君とパイクさんは元々武具だから体重が軽いのか一度浮き上がったが、なんとか竜巻の外に逃れて転がるように着地して距離を離す。
―――凄い、なんて大きな竜巻だ。
確かに竜巻を作る魔法は存在する。僕で言えば、イジッテちゃんを持って振り回した時に使った魔法がそうだ。……いやなことを思い出してしまった……あの時殴られまくったなぁ…。
まあそれはともかく、こんな大きな竜巻はそうそう作れる物じゃない。
ミューさん……凄い魔法力だ。
―――けどこれ……この竜巻は……
「勇者さん!見たらわかると思いますけど、ミューの竜巻には殺傷力がありません。今は蛇たちを浮かせてますけど、魔法が止まったらまた襲ってくると思います」
そう、この竜巻は本当にただの風だ。
攻撃魔法としての風魔法だったら、竜巻に風の刃を混ぜ込んで触れるだけで切り刻むことも可能だが、これはそうではない。
人間ならこれだけ浮かされて振り回されて落とされれば大ダメージかもしれないが、軽い蛇では多少目は回るかもしれないが、そこまでのダメージにはならない可能性が高い。
でも、これはチャンスだ。何とかして、この竜巻を利用して蛇たちを倒す方法を……!!
考えろ考えろ、何かないか。この竜巻を攻撃に変えられる何か――――そうだ!!
「ミューさん!その竜巻、もう少し大きく出来ますか?」
「大きくって、どのくらいですか!?」
「中心にいるミューさんが安全なくらいに!
―――今から、その竜巻で、蛇を一網打尽にします!!」
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