第61話
「俺の出番だな!!任せとけ!!」
翌朝街を出発し、森の向こうにあるコガイソを目指して進んでいると、森に足を踏み入れてすぐにモンスターに出くわした。
ジュラルの辺りではあまり見たことない、牙と爪が強烈な四足歩行の獣タイプだ。
任せとけ、と言われたのでとりあえず本当に任せてみる。
「ふっ!!でぃや!!」
オットーさんは大剣の使い手だ。盾は使わず、両手で大きな剣を振り回す攻撃重視スタイル。
英雄テンジンザさんの左右の大剣の名は伊達じゃないのが、見ているだけでよく分かる。
力強く大きな動きにもかかわらず、無駄は最小限に抑えて確実にモンスターにダメージを与えていく。
「でやぁ!!」
大きな声と同時に、とどめの一閃。
崩れ落ちるモンスター……あっという間に動かなくなった。
「おー」
お見事、思わず拍手してしまう程の闘いぶりだった。
やはり強い剣士が居るというのは心強い。
「お前もあのくらいになれよ」
「……無茶言わんでくださいイジッテちゃん……あんなの達人の域ですよ」
そもそも僕は片手剣に盾を持って戦うタイプなので、全く戦い方が参考にもならない。むしろテンジンザさんの方が参考に……いや、ならないか、あの人は別格過ぎて。
「まあでも、頑張りますよ。僕は僕なりに強くなれる戦い方を探します。もちろん、イジッテちゃんを最大限に活かすやり方をね。僕はもう二度と、イジッテちゃんを手放すつもりないので」
「おう、そうか……うん、まあ、それならあれだ、頑張れ」
ちょっと照れておられる。かーわいい。
「さあ先を急ぐぞ!」
オーサさんはそう言いながらさっさと先に進んでしまうので、慌てて追いかける。
せっかちと言うかなんというか。
もうちょっと可愛いイジッテちゃんを堪能したかったけど仕方ない。
っていうか、あの人そんな性格だから羽を忘れたりするのでは……?
ただ、戦力としては確実に頼りになる。
その後も先陣を切って突き進むオーサさんのおかげで、危なげなく旅を続けることが出来、あっという間に一日目の夜を迎えた。
しかし、森はまだ抜けられる気配がない……まあ、2~3日はかかる予定だったので当然だ。その為に野営の準備も整えてきたのだし。
「オーサさん、そろそろ休みましょう」
「む!?なぜだ!?夜も進んだ方が早く着くぞ!?軍ではそうしていた!」
脳筋発言やめてくださいよ……。
「いや、精鋭ぞろいの軍ではそれでも良かったかもしれないですけど、普通夜は危険だから休むんですよ。もしミューさんとはぐれたり、暗闇からモンスターに襲い掛かられたら対処できないので」
「そうか、それはそうだな!確かに、軍ではいついかなる時でも隊列を崩さずに進む訓練をしていたからな。はぐれることなど無いし、どこから襲われても対処できたが、キミらではそうもいかんか!」
いや、うん、まあそうなんだけど……お前ら弱いもんな、って言われてる気がしてちょっとイラっとしますね? や、弱いんだけどもさ。
「しかし、野営するにしても場所はどうするのだ?せめて火をおこせる広さは欲しいところだぞ」
「はい、あそこなんてどうですかね?」
僕は事前に辺りを見回して見つけておいた洞窟を指さした。
「おお、いいな。いつの間に見つけたんだ?」
「まあそれは良いじゃないですか、とにかく休みましょう」
さすがに、オーサさんが戦ってる時に辺りを散策していた、とはちょっと言いづらい。毎回「任せとけ!」って言われるから良いかなーとも思うんだけど、戦いを見てすらいない、っていうのは少し悪い気もするし。
一応ちゃんと毎回戦いが終わる頃には戻ってきて、「さすが!」とか言ってたので良しとしてもらおう。
洞窟の中を、光の魔法アンドンで照らす。
それなりに広さがあって雨風も防げそうだ。今日は一応晴れてはいるけど、いつ天気が変わるかはわからないし、森の中で雨が降り火が消えるのは危険だ。屋根はあるに越したことはない。
少し進むと、広い空間を見つけた。
小さな部屋くらいはあるし、天井もそれなりに高い。
……まだ奥に続く道があるのが気になると言えば気になるが……チラッと見た限りではかなり長く道が続いてる。
これを奥まで確認してから、というのはだいぶ時間がかかりそうだ。
さりげなくミューさんを確認すると、もうだいぶ体力の限界の様子。
当然だろう、ミューさんは冒険者でもなんでもないのだ。慣れない森の中を一日中歩き続けたら疲れるに決まっている。
……不安は残るが、とにかく休憩が最優先だ。
ミューさんが倒れては意味がない。
「うん、とりあえずこの奥の道と入り口を警戒しつつも、ここで休みましょう。今火をつけますので」
森の中なので、外の木が使えればいいのだけど、この森の生木は水分が多くて火が着きづらい。そんなこともあろうかと、薪を用意しておいてよかった。
なにせ金貨が1枚あったからね、さっきの街で色々と準備も整ったというモノだ。
荷物から薪を下ろし、上手く重ねてから炎の魔法で火をつける。
この辺りは器用貧乏である勇者の得意分野と言うか、役に立つ場面だ。
火の魔法で軽く燃やして、風の魔法で火の勢いを強くする。
……よし、安定したかな。
「ミューさん、どうぞ座ってください。それとも横になりますか?」
地面に寝袋を引いて、その上にミューさんを誘導すると、倒れ込むように座った。
「大丈夫ですか?」
「……ええ、すいません。こういうの慣れてなくて……足引っ張ってますよね」
「そんなことないですよ、むしろ、この行き方を選んでしまったのは僕なので、申し訳ないです。やっぱりコガイソに一発で行ける飛翔の翼を引き当てる為にもう一回挑戦した方が良かったですね……」
「いえいえそんなです。ミューも運の悪さには自信がありますので、あの状況であと1本を選ぶよりはこっちのほうが確実なの、凄く分かるのです」
そう言ってもらえると助かる。
とはいえ、結果的に捕まったりもしてるので安易な選択だったとやはり反省はしなくては。
オーサさんを仲間に出来たのは、まあ不幸中の幸いとも言えるのだけど。
「何か来るわよ!」
少しだけゆっくりと落ち着きかけた空気を突然切り裂くバイクさんの声。
緩んでいた気を引き締めて辺りを警戒する。
音。
何かが地面をはいずるような音が、轟いている。
洞窟の壁や天井に反響して位置が掴みづらいけど……これは―――
「奥だ!洞窟の奥から聞こえてきます!」
僕の声で、みんなの視線が洞窟の奥に繋がる通路に向くと……さほど間を置かずに奥の道から大量の蛇が這い出てきた!
「ひぃぃいいいぃぃぃぃい!!!」
蛇が苦手なのか、ミューさんの声にもならないような声が響き渡る。
「俺に任せろ!」
今日何度聞いたのかわからないその言葉と共に、オーサさんが1人突進していくが、一対一ならいざ知らず、あれだけ大量の蛇を一人で相手にするのは厳しいだろう。
さすがに今回は加勢を……と足を一歩踏み出した瞬間、背後から異様な気配を感じた。
大量の蛇と反対方向……僕らが入ってきた入り口の方からだ。
「イジッテちゃん!」
嫌な予感が全身を駆け抜けると同時に、僕はイジッテちゃんを呼ぶ。
すぐさま駆けつけ、新しい服にもしっかりと付いている背中のファスナーを開き、イジッテちゃんを腕に装着し構える。
「ひやあぁぁ……ふう」
相変わらず持ち手の部分は敏感らしいが、僕の持ち方に少し慣れたのか最初ほど過剰な反応はしなくなった。
……それはそれで、ちょっと寂しい。
「なんか変な事考えただろ……」
「え?はい、変な事考えました」
「否定しろよ!」
そんな会話をしつつも警戒していると―――――不意に、空気を切り裂く音がした。
同時に、体を持っていかれそうな衝撃。
「ぐっ……!」
何とか足を踏ん張り倒れるのをこらえる。
「イジッテちゃん!今の……」
何かが飛んできてイジッテちゃんに当たったのはわかる。でも何が?
「いいから構えろ!まだ来るぞ!」
そう言われて今度はしっかりと脚を広げて正面にイジッテちゃんを構える。
来るなら来い、今度こそ見極める!
衝撃に備えつつも、入り口の通路を凝視していると――――
「―――!?」
いきなり、大きな鉄の塊をぶつけられたような重さを感じて、踏ん張った脚ごと全身が少し後ろに下がる。
でも、でもこれは……
「何だ今の!?何も、何も見えなかった!何も見えなかったのに、衝撃が来た!」
辺りを見回しても、飛んできたものが見つからない。
いったい、僕らはどんな攻撃を受けているんだ!?
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