第59話
「あわわわわわ、どどどどどどうしよう。またテンジンザ様に叱られる!」
いやまあ、噂は確かにあったよ?
オーサとタニーは見た目はイケメンだけど、実はわりとアホなんじゃないか?っていう噂。
「ははぁぁぁ……この前も大事な儀式の時に段取りを間違えた上にお客様用のお菓子を大量に食べちゃって怒られたばっかりなのにー!もーーう!!俺のバカ―!!」
……こんなにも噂が真実だと目の辺りに出来ることがあるだろうか。
「ちょっ、ちょっと待ってろ!」
オーサは僕らにそう言いつけると、少し離れた位置にいる部族の人に話しかける。
「すいません!この辺りで飛翔の翼売ってる店無いですか!?え!?無い!?そんなぁ!」
声が大きいから全部聞こえてくる。
他人事ながら心配になってしまうな。あらゆる意味で大丈夫なのかあの人は。
……まあでも、考えようによってはチャンス、かな?
「おーい、オーサさーーん、ちょっと提案があるんですけどー」
「なんだ!今忙しい!っていうか、何で全裸なんだキミは!」
その質問は無視します。
「良かったら、羽、譲ってあげても良いですよー」
「なにィ!?」
凄い勢いで走って戻ってくるオーサさん。なんて分かりやすい人だ。
「本当か?あと何で全裸なんだ!?」
「ええ、とは言っても僕らの持ってるのは、キャモルの外れの街・リスタに行ける定置の羽だけですけど、あの街ならそれなりに大きいからアイテム屋もありますし、まあいざとなったらジュラルとの国境まで馬なりなんなり借りていけばすぐ戻れますよ」
本当は、ジュラルのアンネさんの店に行ける羽もあるから、そっちの方がオーサさんにとっては都合が良いだろうけど、それはアンネさんに迷惑がかかりそうなので渡せない。リスタで我慢してもらおう。
「それは助かる!それで何で全裸なんだ?」
オーサさんもリスタで構わないみたいだしね。
あと、全裸についての質問は意地でも無視すると決めました。
「………まあいい、ではさっそく羽を――」
「もちろん良いですけど、条件があります」
さすがにこの状況でタダで渡してあげる程のお人よしではないよ僕も。
「なんだ、その条件とは」
「そうですね、まずは……ここから、下ろしてもらえます?」
ふぅ、ようやく吊るされ状態から脱した。助かったー。
とはいえ、代わりに両手を後ろで縛られて、しかも体にもロープを巻かれて、それが全員の身体に繋がれていく。一人だけ逃げる、とかそういう事は出来ないようにしてるわけだ。一蓮托生。
あと、服を着せられた。なんて理不尽なんだこんちくしょう。
「それはむしろ感謝しろよ……」
そんなイジッテちゃんのツッコミとほぼ同時に、後ろの方からオーサさんの声。
「そこの少女、キミもこいつらの仲間か?」
僕とイジッテちゃん、パイクさんとセッタ君を縛り終えたところで、ミューさんにも声をかけるオーサさん。
「あ、いえその、仲間と言うか……なんて言えばいいんでしょう、依頼人、でしょうか」
すっかり怯えてしまって、いつものマントフードで顔と身体を隠している。
「そうですか……申し訳ないのですが、同じように縛らせていただきますよ。仲間ではないと後でわかれば解放しますので」
そう言ってマントに手を伸ばしたオーサさんの動きが止まった。
「……この…腕は?」
まあ、驚くよな。僕らだって最初に見た時は言葉を失った。
正直、吊るされている時も腕が少し見えていたのだけど、遠かったし気付かなかったのだろう。
仮に見えていたとしても、近くで見るまでは考えもしないだろう。腕が杖になっている、なんてのは。
「これは、その……」
言葉を濁しているミューさんに助け舟を出すように、僕は言葉をかける。
「条件ってのは、まさにその彼女のことなんですよ」
「どういうことだ?」
「僕らと一緒に、彼女を助けて欲しいんです」
僕らはオーサさんに端的に事情を説明した。
「うおおおん、うおおおん、なんて不憫な!」
泣いている、ガチ泣きだ。
うん、悪い人ではないな、たぶん。
「お前たちは、この子を助けるためにここに来たのか?」
「ええ、まあ実際はここから数日かかるコガイソという街に、彼女を改造した変態野郎が居るらしいんで、そこを目指すつもりですけど」
「なるほど……つまり、その悪人を懲らしめるのと、危険な旅の道中に俺のような腕の立つ剣士の力を借りたい、とそういう訳だな?」
「……はいそうです」
実際はそういう訳でもなく、ただ彼女の依頼を終えるまで待って欲しい、そうすれば大人しく従うし捕まっても良い、くらいまで言って優しさに期待しつつ最終的には逃げてやろう、と思ってたんだけど……これはおだてた方が早そうだな。
「僕らは何としても彼女を助けたいし、こんな非道なことをしたヤツを懲らしめてやりたい!そう思っています。……でも、そんな卑怯なヤツの屋敷にはどれだけの悪人が潜んでいるのか……僕らの力だけではどうにもならないこともあるかもしれない……英雄テンジンザ様の右の大剣と呼ばれ、ジュラルに名を轟かすオーサさんのような凄腕の剣士に協力してもらえれば、百人力なんです!」
「よしやろう!」
早い!!そしてチョロい!!
「少女よ!安心するがよい!このオーサが、必ずや君の笑顔を取り戻して見せる!!俺に任せろ!!」
キラーンと歯を輝かせるオーサさん。うわぁ白い。歯が白い。爽やかぁ。
格好いいけどちょっと鼻につくー!
「は、はい…」
ミューさんもちょっと引いているようだ。
イジッテちゃんは鼻で笑ってるし、セッタ君は我関せずの顔だけど、パイクさんが物凄い苦い顔をしておられる……。
こっそり小声で質問してみる。
「パイクさん……ああいうタイプ苦手ですか?」
「……私はね……この世界でかなり上位に性質の悪いのはバカなナルシストだと思っているのよ……過去に何度こういうヤツに使われて嫌な思いをしたか……」
武器としての思い出だろうか、何があったのか聞きたいけど、聞いても良いか悩むし、そもそもすぐ近くにオーサさんが居るところで聴く話でもないだろう。
そのうち機会があったら聞く事にしよう。
「そうと決まれば早速出発だ!さあ何をしてるんだキミたち!早く行こうじゃないか!」
なんかもうだいぶ遠くまで行ってる。
どこ行くつもりだあの人は。
「あの!コガイソの場所はわかってるんですか!?」
「知らん!でも進めばそのうち着くだろ!」
……着くわけないでしょ……こちとらわざわざ砂漠地帯避けて来てんですよ?下手すりゃわざわざ突入することになりかねない。
「とりあえず戻ってきてくださーい!あと、僕らの縄ほどいてくださーい!」
「縄?……あっ!縄か!あははは!そうだったそうだった!!あっはっは!」
……これは……パイクさんでなくても顔が曇るというものだ……。
やれやれ、面倒臭い旅になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます