第58話
「ヌゼヒレ゛サケドメロポポダチチシ゜!?」
「……ごめんなさいわからないです…」
なんか凄い質問されてるけど、全然意味が解らない。
上半身裸で、筋肉ムキムキで頭に草冠を被り、下半身を藁で隠してる、いかにも過ぎる部族の人たちがずっと何かを話しかけてるしずっと見張りが途切れない。
どうしたらいいんだこれは……。
「先に言っとくけど、私はいざとなったら一旦矛になってロープすり抜けて逃げるわよ」
「ワシも盾になればたぶん足のロープほどけるじゃろ」
「あっ、ズルっ!ズルい!っていうか、それ出来るなら逃げて僕ら助けてくださいよ」
パイクさんとセッタくんの堂々逃げる宣言に、助けを訴える僕。
「ごめんねー、逃げるだけならともかく、これだけの人数に囲まれてたら助けたってすぐ捕まっちゃうでしょ?」
……それはまあ、そうだけど。
正直言えば、今だって両脚を縛られて吊るされてるだけで、両手はフリーだから腹筋使って体を上に持ち上げればロープをどうにかすることも出来ないわけじゃない。
ただ、そんなことするそぶりを見せるだけですぐさま部族の皆さんが手に持った槍や弓が飛んで来るだろうと思うと、そこまでのリスクを冒してまでやるかどうか悩みどころだ。
完全に殺されるって判明したり、なんなら古い物語で見たようにでっかい鍋みたいなのに入れて茹でられるとか、そんなことになったら必死になって逃げるけど、今の段階ではただ捕まってるだけで、僕らが危険な存在ではないと解れば後々釈放される可能性もある。
そう考えると、無理やり逃げるのはむしろ印象を悪くするだけだろう。
とにかく、何か展開があるまでしばらく待ってみるか。
「すいませーん。頭に血が上ってきたんですけどー」
日も落ちてきたが、特に進展がないので呼び掛けて見た。
見張りの人がチラッと見ただけで特に反応は無い。
「よし、脱衣ボンバーしよう」
「なんでだよ!」
吊られていてもしっかりツッコミを入れるイジッテちゃんさすがだ。
「いやほら、このままだと頭に血が上って冷静な判断が出来なくなるかもしれないから、一旦脱衣ボンバーして冷静になろうと思って」
「その発想がもはや冷静さを欠いていると何故気付かない?」
「通常運転ですけど?」
「だとしたら普段から冷静さをドブに捨ててんな!」
「脱衣ボンバー!」
「やった!?え!?なんで!?今の流れでなんでやったの!?」
「やるって言ったじゃないですか」
「止めただろうがよ!!」
「でもやるって言ったから……一度口に出したことは実行しないと…」
「撤回する勇気を持て!自分の言葉を間違いだったと認める勇気を!!」
「勇気……!僕に足りないもの……!」
「感銘を受けた、みたいな顔するな!!全裸で!!逆さ吊りで!!」
そんなやり取りをしてる間にも、下に人が集まってきている。
まあそりゃそうだろう。木に吊るしていた人間の服がいきなり弾け飛んだら何があったのか不思議に思うことでしょうよ。
「それがわかっててなんでやったんだよ……」
「わかっててもやらなきゃならない、そういう時が男にはあるんですよ」
「ねぇよ。脱衣ボンバーしなきゃならない状況、一生ねぇよ」
そんな僕らの会話に、不意に聞き馴染みのある言語が割り込んできた。
「……お前らは何をやってるんだ……?」
どこかで聞いたようなその声に目を向けると――――……誰だっけ…?
ジュラル軍の鎧を着た男が立っていた。
確かにどっかで見たことあるんだけど……思い出せない。
「誰ですか?」
思い切って直球で質問してみた。
「前に会っただろう?覚えてないのか?」
驚いたように質問を返してくる男。前に……?
「えーと……すいません」
「マジか……俺そんな印象薄いか?そんなことないと思うんだけどなぁ。忘れるか?こんなイケメン」
自分で言うなよ、とツッコミたいところだが、確かにイケメンだ。
端正な顔立ちに高い身長、それに加えて、立ち振る舞いだけ見てもそれなりに腕の立つ戦士だとわかる。
こんな人、そうそう忘れないと思うんだけどな……。
「どこかのお店の待合室で呼ばれるの待ってる時にちょっと会話した人ですか…?」
「何の店だそれは……」
「いかがわしい店ですけど?」
「じゃあ違う!!」
そうなるともうお手上げだ。
どうしても思い出せないでいると、しびれを切らしたのか男は自分から名乗った。
「俺だよ俺!!テンジンザ様の左右の大剣の右、オーサだよ!!」
「あ、ああー!!そうか、オーサとタニーのオーサ!!一人だけだから気付かなかった!セットで認識してた!」
そうかそうか、そう言われれば確かにそうだ。
……ん?そのオーサが何でこんなところに?
「通報があってな、我がジュラル国の指名手配犯がこのリンギで捕まったと」
「通報って……こんなところで誰が?」
どう見ても未開の地のようなこんな街から、ジュラルまでどうやって?
「決まってる、この街の人たちだ。お前たちは知らんだろうが、この人たちは観光用の職業部族なんだよ」
「なにそれ」
「まあつまり、実際は少し離れた場所にちゃんとした家も街も通信網もあるのに、未開の部族を見たい、っていう人たちの為に古の生活を再現してる人たちだ」
「……そんな仕事があるの……ってか、なんでその人たちが僕らを捕まえたのさ」
「ここはジュラルからの観光客も多くてな、関係性が深いんだ。こっちの指名手配情報もちゃんと伝わってるし、ジュラルへ繋がる魔法通信の連絡網も揃ってる。知ってて捕まえてくれたのさ」
「あの意味の解らない言葉は?」
「それはそのまんま、ここの言葉さ。関係性があるからって全員が共通語を話せるわけじゃない。特に怪しい人間の前で会話をするときには、相手に内容を悟られないように自分たちだけの言葉でするのは普通じゃないか?」
全ての説明にめちゃめちゃ納得してしまった。
「……という事は、僕らをこのままジュラルに連行するんですか?」
うーん、まずいことになった。
何とか逃げたいところだけど、完全に周りは囲まれてるし……全員が一瞬だけでもこの拘束を解ければ、定置の羽でキュモルの街に戻ることは出来るけど……金貨一枚は完全にドブに捨てた形だなぁ……。
まあ当初の予定通り、もう一枚飛翔の翼を買って直接コガイソに行くルートはまだ可能性としては残ってるから、そっちに賭けるしかないか。
とはいえ、一度居場所がバレたからには、しばらく影を潜める必要はあるだろうけど。特にコガイソはこの近くだし、すぐに戻ってくるのは危険すぎる。
少しの間ミューさんには我慢してもらうしかないな……。
「もちろん、俺はお前たちを連行する為にここに来たのだ。この定置の羽で……羽で……羽、で……?」
得意げに語っていたオーサは突然慌て始めると、体中のいろんなところに手を当てて何かを探し始めた。
まさか……いや、そんなことないよね……?
「ああああああああーーーー!!!!定置の羽持ってくるの忘れたーーー!!ど、どうしよう!テンジンザ様に怒られるぅぅぅ!!」
……アホだ、この人アホだぞ。
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