第57話
「さあ、緊張の瞬間がやってまいりました!!」
なんかちょっとくじ引きの結果発表みたいでドキドキする。
「果たして、この飛翔の翼はコガイソに行けるのかー、行けないのかー、どっちだ!!」
ただ、ミューさんがノリノリで司会進行役をやってるのはさすがにどうかと思うよ?いやまあ、そういうの好きなんだろうな、ってのはわかるんだけど。
「緊張の瞬間ですね、今の気持ちはどうですかイジッテさん」
「え?ああ、うん、行けると良いなーって思ってます」
「なるほどなるほどー、そうですよねー」
他人事かいっていうツッコミはとりあえず封印しておこう。
まあ考えてみたら、基本はこういう性格だったのに、変な人体改造のせいでマントやフードを被って隠れるように生きることを強いられていたのは苦痛だっただろう。
それが、ようやく事情を知っていて素を見せても問題ない人間に囲まれたから嬉しくてはしゃいでいるに違いない、という好意的解釈。
うん、そう考えると可愛いもんです。
「さてさて、いよいよ使ってみる訳ですが、どなたが使いますか?」
そういえば決めてなかったなーと皆を見回すと、全員僕を見ていた。
「えー、僕ですか?」
「まあそりゃそうだろ、勇者だし」
「こういうのはね、リーダーがやるもんなのよ」
「そうじゃのう」
うーん……いやまあ、そりゃそうかもしれないし、確かに勇者だけど……僕ってリーダーなの?
……でもまあそうか、冷静に考えてみたら、人間1人に盾・盾・矛っていうパーティで人間じゃなくて武具がリーダーっておかしな話ですもんね?
冷静に考えないとつい忘れてしまうな、みんなが武具だってこと。だってあまりにも人間臭いから。良くも悪くも。
まあそれは置いといて、いつの間にかミューさんの手に渡っていた飛翔の翼を僕が受け取る。
……なんか授けて貰うみたいになってるけど、僕の下着を売ったお金で僕が買ったんだよね?と言うことは気にしないものとする。
しかし、これが金貨1枚か……金貨1枚あれば何が出来るだろう……いつも行ってる安い夜のお店なら8回くらいは行けるな……脱衣ボンバーの為の服なら……100枚くらい買えるのでは?
―――――そう考えると、あの下着を金貨二枚で買ってくれた店はなんなんだ……凄い需要が眠ってたもんだなこの世界には!
違う違う、思考が逸れ過ぎてる。
ともかく、そんな貴重な金貨1枚が一瞬で無駄になるかもしれないんだ。
緊張してきたな……一つ大きく深呼吸。
「じゃあ、準備は良いですか?」
一度使ったら、キャンセルは出来ない。いや、正確には出来るけど、アイテムに込められた魔力が半分失われる。そしたらもう移動は出来ない。
つまり、この飛翔の翼でコガイソに行けるのなら、それはすぐに出発すると言うことを意味する。
荷物もちゃんと持ったし、みんなが頷いたのを見届けてから……よし、使うぞ!
「えいやっ!!」
別に声を出す必要もないのだけど、こういうのは気合が大事!
飛翔の翼が発動すると、目の前の空間に行ける街の一覧が浮かんでくる。
「出た、ありますか!?」
文字となって浮かび上がるそれらをみんなで確認する。
結構多いな、3列に分かれて表示されるくらいの数がある。ジュラルも、ガイザもあるし、ミューさんの生まれ故郷だといメムラもある。
これは普通に旅目的で買ったとしたら大当たりだろう。
けれど、僕らにとってはコガイソに行けないのならそれは外れだ。
「ありました!?」
「いや、見つからないのぅ」
「左の列にはないわよ」
「右も無いな」
あとは真ん中……無い!!
何度も見たが、やはり無い。
ダメだーこれ外れだー。
……まあ、そう上手くは行かないな……仕方なくアイテム使用をキャンセルしようとした直前、「待ってください!」とミューさんから声が。
「ど、どうしました?」
「これ、これ見てください」
ミューさんが指差したそこには、リンギ、という街の名前。
……どっかで見たことあるような?
「この街、この前見た地図で、コガイソの近くにあった街じゃないですか?」
「あっ!」
そうだ、確かに見たぞ。おぼろげな記憶を探る。
地図によると確か―――……コガイソとは小さな森を挟んだ場所にあったハズ。
あの距離なら、徒歩でも2~3日で行けるかも!
「どうする!?もう一本買って直で行けるのに賭けるか、今これでこのリンギに行って徒歩で向かうか……選ぶのはお前だぞ」
イジッテちゃんに選択を迫られる。
ああ、なるほどこれがリーダーか……決断しなきゃならないのですね。
考えろ、一番良いのは、これをキャンセルしてもう一つ飛翔の翼を買って、それでコガイソに行けることだ。
逆に一番ダメなのは、次に買った飛翔の翼がコガイソに行けないものだった場合。
最後の一枚を買うために、もう一度金貨1枚稼ぐにはどれだけ時間がかかる?僕だけだと50~60日は必要だけど……たとえば全員で働けば……20日……いや、宿代やら食費やら考えたら30日でもギリギリか。何かしらのアクシデントに見舞われれば50日くらいかかっても不思議ではない。
その間に飛翔の翼が誰かに買われてしまえばそれで終わりだ。
それに対して、今この飛翔の翼でリンギに行けば、残りの金貨1枚を路銀として使いつつコガイソに向かえる……可能性としてはかなり高いように思えるが……問題は、地図で見ただけであの周囲のことを何も知らないということだ。
もしかしたら強力なモンスターがいるかもしれないし、地図では想像も出来ないような厳しい道のりの可能性もある……どれを選んでも、完全な正解はきっと無い……それでも、決断しないと――――…!
選ぶのが、リーダーの役目だ!!
「―――――よし!行きましょう!リンギに!」
ええい、考えたって仕方ない!!
そもそも僕は勇者で冒険者だ!!ただひたすら働いてお金を稼ぐ日々を過ごすくらいなら、危険を力でねじ伏せて可能性をつかみ取る!!
勇者ってのは、そういうもんだろう!?
「よっしゃ!行こうぜ!久々にしようや、勇者らしいことをさ!」
僕の想いをくみ取ってくれたのか、イジッテちゃんがガインと背中を叩いて気合を入れてくれる。
パイクさんとセッタ君も頷いてくれた。
「ミューさんすいません、ちょっとだけ旅をすることになりますけど……まあ、小旅行気分で付き合ってください」
「大丈夫です!これは、ミューの依頼ですから……あの、アレです、が、頑張ります!」
なんか良い感じの事を言おうとしたけど上手く思いつかなくてシンプルに頑張ります、って言ったんだろうなーという事がすぐにわかったけど、その不器用さ、嫌いじゃないですよ!
「さあ、頼むぞ飛翔の翼!リンギへ!」
そして僕らは、飛んだ――――――
「ガザバギデイ゛ギグジドヅザミ゛モ゛マ゛!?!?」
……飛んだ先のリンギは……言葉の通じない古代部族の集落でした……。
着くやいなや周囲を大量の槍を持った兵士に囲まれて、抵抗する間もなく捕まって、今僕らは、木に吊るされています……。
あれぇ~~~~????
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