第48話

「何がそこまでなのかは知らんが、とりあえずお前病院行った方が良いぞ…?」

 3人の悪男の中でもリーダーっぽい男が僕を心配してくる。

 背が高いうえに語ら付きもガッシリしていて中々に強そうだ。

「そうだそうだ!でゲス!」

「病院に行けでヤンス!」

 残りの二人は細身の狐みたいな男と、小さくて丸い狸みたいな男。

 喋り方から何から何まで、子分って感じだ!

「心配をありがとう!!でも大丈夫!それよりやめるんだ!」

 僕は心配されたいのではない、勇者として颯爽と女の子を助けたいのだ!!

「だから、さっきから、「そこまでだ」とか「やめるんだ」とか、何のこと言ってんだ?あぁ?」

 なんかイライラしてきたらしく、凄い睨んできた。

 まあでも、テンジンザさんに比べれば全然命の危険感じない。

 ……感覚が麻痺してるのか僕は?

「いやほら、そこの女の子。なんか悲鳴上げてたし3人で取り囲んでたよね?」

 女の子はまだ袋小路の奥で自分の体を出し決めるように怯えている。

「ああ?女の子?……っはははは!!そうかそうか!そういうことな!あははは!」

 急に悪リーダーが高笑いを始めたかと思うと、子分二人も追従するように笑い声をあげる。

 なんかすげぇイラっとするな。

「お前さては、この街来たばかりだろう?だから知らねぇんだな、あいつの事を」

 ニヤニヤと、それはもう嫌らしく不愉快なニヤケ顔で、男は親指で女の子を指し示す。

「まあそうだね、たしかに知らない。ただ、事情を知ってたとしても男3人で女の子1人を攻撃するのはクソだと思うから止めるだろうね」

 仮にあの子が極悪人であったとしても、多数で一人を責める事が正しいハズもないのだし。

「……いちいちムカつくなお前……あいつは、ミューは!このクソみたいな街の中でも最下層に人権の無ぇ存在なんだよ。そんな奴をどうしようと、お前の知ったこっちゃねぇだろ、消えろ、ガキが」

 ふむ、あの女の子はミューと言うらしい。可愛い名前だ。

 それはそうと、僕はガキって言われるほど子供ではないのだけど……この人たぶん同じくらいの年齢では?

「キミいくつ?」

「は?何がだよ」

「何がって、年齢だけど。知能指数かなんかだと思った?だとしたらわざわざ確認しないよ、だってするまでもなく低いし」

「あぁぁぁあぁあ?!?!?!」

「ほら、ちゃんと会話せずに「あ」だけで相手を脅せると思ってる。そういうとこだよ。駄目だよちゃんと言葉を使わないと」

「てめぇ……どうやら命が要らないらしいな……?」

 凄い怒ってるじゃん……いやまあ、怒らせたみたいなとこもあるけど。

 怒らせることで女の子から僕に興味を移させようという作戦なのだ!

「おいおい、そんなに煽って大丈夫か?お前喧嘩になったら勝てるのか?」

 耳元でイジッテちゃんがそっと囁いてくる。

 心配性だなぁイジッテちゃんは。

「大丈夫だよ、いざとなったら僕の剣技でバッタバッタとね」

「……剣なんてどこにあるんだよ」

「え?何言ってるの?剣はほら、この手の中に―――――って、あれ…?」

 僕の右手にあるのは――――「ボイン挟まれクエスト」の看板。

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――剣、無いじゃーーん!!」

 ビックリしたぁ!!そうだった!!バイトの途中だった!!剣無いじゃん!!

「ど、どうしようイジッテちゃん!」

「……お前……バカだバカだとしは思ってたけど、まさかここまでとは……私の所有者がこれとは情けなくて涙がでてくらぁ」

 そんなことを言ってる間にも、男たちは威圧的にジリジリ近づいてくる。

 ああ、これ完全に殴るつもりだわ。いやだなあ……。

「でもほら、イジッテちゃん?こんな奴らの攻撃を止めるのくらい、簡単だよね?」

「は?嫌だよ。完全に自業自得だしちょっと殴られたらいいんじゃないか?」

「いや、そんなこと言わずにさぁ……」

「なにゴチャゴチャ話してんだこらぁぁぁ!?」

 凄い形相だ……下手すれば殺されるかもしれん……あっ、ナイフ!ナイフ出した!!これマジで死ぬかも!!

「イジッテちゃーーん…!」

「ちっ、しょうがねぇなぁ……さすがに素手のお前にナイフはあまりにやり過ぎだ。私がお前を守ってやるよ」

 よっしゃ!!!これで少なくとも負けは無い!!

 また傍から見たら幼女を盾にする外道だと思われるだろうけど、背に腹は代えられない!全然知らない国だし!変態の汚名を着ることは慣れてるし!旅の恥はかき捨てだし!!

「お前が今、勇者にふさわしくない事を考えているのが手に取るようにわかるぞ…」

 さっそく、呆れた顔をするイジッテちゃんの後ろに隠れようとしたその時、突然悪男が足を止めた。

 ……なんだ?

「ひとつ、お前に救いをやろうじゃないか」

 ……救い?

「お前の、その、アレだ、その、つまり、条件次第では許してやるぞ?」

 なんか……なんか気持ち悪いぞ…?顔を真っ赤にしてモジモジし始めた……。

「条件ってなんですかね……?」

 一応質問してみる。

「それは、その……そこの、可愛い女の子を、俺の彼女にする!!そ、そうすれば助けてやるぜ!!」

 ―――――――――は?

 僕は思わず、少し周りを見回してしまった。

 可愛い女子?彼女?いったい何を―――――――あぁっ!!

 そ、そういうことか!!!


「あんたまさか―――――ロリコンだな!?」


 そう、可愛い女の子とはイジッテちゃんのこと!!

 イジッテちゃんと付き合いたい、この悪男は今そう言っているのだ!!


「う、うるせぇ!俺はロリコンじゃなくてただ小さい女の子が好きなだけだし、仮にロリコンだとしても何が悪い!?」

「……いや、悪くはない、悪くは無いよ?性癖は自由だし。ただその……お前もう目がいやらしいし、なんか涎だらだら垂れてるし、完全にエロイことしようとしてるからそれはダメだろ……」

 いやまあ、イジッテちゃんは厳密にはロリババアだからもしかしたらそういう行為も別に罪ではないかもしれないけど、向こうはそうとは知らずに言ってるんだろうからやっぱりダメだろ。

「この街では!!10歳から結婚が認められている!!!だから俺はこの街に来たんだ!!!女の子は12歳まで!!だからその限られた2年間を大切に!だ!!」

 だ!じゃないのよ。言ってる事がシンプルクズなんだって!!

「性癖は自由だし、この国の法律では問題無いならそれは良い。けど、1人の女の子を絶対に2年間しか愛さない時点で、お前の愛はただの性欲!!僕の中の女子が言っている!!お前を許さないと!!」

 僕の中に女子が居るとしたら相当ヤバい女子だろうけど、そんなヤバい女子でも、こいつはさらにヤバい、と告げてくる。

 とはいえ、武器もない状態では戦うのは厳しい。

「どうしようイジッテちゃん……イジッテちゃん?」

 イジッテちゃんは、何かをブツブツと呟き続けている。なんだ?呪文か何かか?あ、もしくはアレだ、昔本で読んだ、東洋のお経……念仏?そういうアレ?


「……………モイ…モイモイ…キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイィィィィィ!!!!!気持ち悪いぃぃぃぃぃ!!!」


 おおう、こんなイジッテちゃん初めて見た……圧倒的な嫌悪感だ。

「だ、大丈夫?」

「大丈夫なわけあると思う?!いや無いね!無い!大丈夫なわけない!いいか、私は盾だからアイツが攻撃してきたらいくらでも防げるけど、優しく撫でまわされたり舐め回されたりしたらどうにも出来んのだ!盾だから!力は弱いから!抵抗できないのよ!されるがままなのよ!想像してみろ!キモさの極みだろう!!」

 それは……ちらりと悪男の顔を見る。うわぁ、さっきよりヤバい目をしている。もう性欲しか存在しない目だ。

 さらには犬のように舌を出して涎を垂らしている……犬なら可愛いけどお前はダメだぞ!!

「アレに舐め回されると思ったら……僕なら記憶を全て無くしますね……」

 人間の形になることでこういう弊害があるとは思わなかったろうなぁ……さて、こうなるとイジッテちゃんに頼るわけにはいかない。盾として攻撃を防ぐ前に力づくで連れ去られたらどうにもできないし。


 ってことは……まあつまり、そういうことだよな!!



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