第47話
「よっ!そこの勇者様!!ゆーーうーーしゃーーさーーまーー!!そうそう!お兄さんの事!強そうで御立派!さぞかし名のある勇者様でしょうなー!!どうです?日々の冒険お疲れじゃないですか?うちの店で癒されていきません?お値段銀貨1枚ポッキリ!!可愛い子たくさんいますよっ!!」
「……おい」
「はい一名様ご案内ー!!ありがとうございまぁす!楽しんでってくださーい!」
「……おい、おいって」
「さあいらっしゃい!いらっしゃい!ここはこの世の楽園、ボイン挟まれクエストだよ!」
「おいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
叫びながら壁に向かって勢いをつけてジャンプして、壁をキックしてさらに高く飛んで、上空から頭突きを決めてくるイジッテちゃん。
「アクロバティック!!さすがに痛いよイジッテちゃん!!」
「何をやってんだお前は!!」
「いやだから、働いてるんですけど……」
「そうだけど!!何の仕事してんだよ!!」
「何って……」
僕が視線を向けた先には、蛍光ピンクと発色の良い紫で飾られた壁に、完全におっぱいの形をした看板が掛けられていて、そこにかかれた店名が、さっき言ってた「ボイン挟まれクエスト」。
「この店の……風俗店の呼び込みのバイトだけど?」
ピンク色の法被と、店名の書かれた小さな手持ち看板を持ち、僕は堂々と胸を張って見せた。
「勇者のやることじゃないよね!?!?!?その仕事、勇者のやることじゃないよね!?」
どうやらイジッテちゃんは、僕の始めた仕事がお気に召さない様子だ。
「イジッテちゃん、職業に貴賎なし、だよ」
「声を荒げて興奮してる人間が正論で黙ると思うなよ!」
凄い反論!!
「いやでもイジッテちゃん。実際僕は別にこの仕事を恥ずかしいとは思わないし、わりと賃金も良いし、この国では別に違法でもないし」
「待て待て、この国で、ってのは?」
「あ、イジッテちゃんは知らないと思うけど、客引きとか呼び込みとか、国によっては禁止になったんだよね。ジュラルでもそうだったし。ほら、別に店に入りたくないのに断れずに強引に店に連れ込むのとか問題になったじゃない?」
「いや知らんよ」
「店同士の競争が激しくなってくると、強面のお兄さんとかが道を歩いてる人を強引に呼び止めたり、客引き同士が喧嘩になったりもして治安も悪くなるし、各地から苦情が出て国の決まりでやっちゃダメってことになったのが、ここ10年くらいの流れなんだよ」
「へー、そうなのかー。私が洞窟にいる間に水商売もいろいろ変わったんだなぁ」
「そうそう」
「そうそうじゃねぇぇぇぇぇぇえぇぇーーー!!」
今度は素直に一直線ダッシュからの頭突きだ。どうやら蹴るより頭突きの方がダメージを与えられると学んでしまったらしい。
「だったら尚更ダメだろが!!他の国では罪になるような仕事はダメだろが!」
「国によって価値観は違うんだから、向こうで駄目だからこっちもダメっていうのは違うと思うなぁ」
「正論んんんんん!!」
頭を掻きむしりながら地団太を踏むイジッテちゃん。
落ち着いて落ち着いて、どうどう。
「どっちにしてもお金は稼がなきゃならないんだから、好きな仕事に関わってそれで割と高い賃金がもらえるんだよ?素晴らしいじゃないか」
「そうだけど、そうかもしんないけど!!例えばアレだぞ!?お前がいつか本当に魔王を倒すほどの勇者になって、その名が全世界にとどろいたとするだろ?」
「おお、輝かしい未来だね。そうなれるように一緒に頑張ろうね!」
「でだ、そうなった時に、『あの勇者がまだ見習いだった時に働いていた聖地がここ!』って紹介されるのが「ボイン挟まれクエスト」だぞ!?お前は女子人気をドブに捨てるつもりか!?」
「その時は言ってやるよ!!職業で人を差別するような人間の人気など、僕は要らない!!ってね!!」
「ううううううん一貫した信念!!!」
「それによって風俗業界で僕の人気は大爆発!!店に行けば通常は有料のオプションをサービスで無料提供してもらえるというような大歓迎さ!!」
ガイン!シンプルに顔面を蹴られました。
「動機がゲスい!!あと目指すべきサービスの内容がしょぼい!!世界を救える勇者になったらオプション代くらい払えよ!!サービスしてくれるって言っても、それを断って払え!!本当はそもそも風俗行くなって言いたいとこだけど、行ったとしてもせめて!せめて懐の深さは見せろ!!」
ぜーはーと息を切らせながらちょっと泣いて怒ってるイジッテちゃん。
反論したいところだけど、ここは大人しくお怒りを受け入れよう。
自分の考えとは違うけど、世間的にはまだ風俗的な仕事が評価を得られてないこともわかっている。闇雲にその価値観を否定したとて簡単には解ってもらえないだろう。世間に根付いた価値観とはそういうものなのだ。
まあ、少しずつ戦うけどね。僕は勝ち取って見せる、風俗で働く皆さんの権利を!
……それが勇者の仕事なのかどうかは、この際置いておくけども!
なんだかんだとあったが、一度始めた仕事をすぐやめるのも店に対して悪いし、お金が必要なのも確かだから、ここは日払いだから、そのお金ないと明日の宿も もう泊まるの難しいから、と何とか説得して、しばらくお金が溜まるまでここで働くことは許してもらえた。
それからしばらく時間が経ち、夜も明けはじめ今日の仕事も終わり、というタイミングで―――
「きゃああぁ!!」
女性の叫び声と、何かが倒れて地面に叩きつけられるような音がした。
―――!!
待ち疲れて店の前においてあるベンチで眠ってしまっていたイジッテちゃんもその声に反応して目を覚まし、僕と目が合った。
僕らは慌てて声のした方に向かう。
そこは、店から少し離れた位置にある、建物と建物の間の路地。
人が2、3人も横に並べば挟まって進めなくなるような少し狭い路地のその奥から、もう一度悲鳴と、なにやら男たちの笑い声。
再度イジッテちゃんと目を合わせて頷いて、声のした方に。
「ごめんなさい、許してください!」
「うめせぇ!このゴミが!俺たちに逆らおうってのか!?」
路地の奥には、袋小路に追い詰められて座り込んで怯えているフードをかぶっている……声からするとたぶん女性と、それを取り囲み威圧的な暴言と下卑た笑い声をあげる3人の男が見えた。
ゴミ箱が倒れてごみが散乱している、きっと何かが倒れたような音はあのゴミ箱だろう。
「おい、助けるぞ」
イジッテちゃんにそう話しかけられたとき、僕は電柱を登っていた。
「……なにしてんだ?」
「いやほら、僕一回やってみたかったんだよね、誰かのピンチに高いところから颯爽と登場するザ・ヒーローなシーン」
憧れだよね、男の子の憧れだよね。
「……まあ、やりたいならそれは良いけど……その電柱のどこから颯爽と登場するんだ……?」
「どこって、ほらこれ」
僕が指差したのは、電柱のメンテナンスをする人が登る時に使う、電柱の左右に少しずつ出てる棒のようなもの。
「いやそれ、細いし小さいけど立てるか……?」
「大丈夫、僕はバランスには自信があるんだ」
そして、それなりにヒーローっぽい高さまで到達したところで、僕はその棒の上に立ち―――――落ちた。
せめて一言、「そこまでだ!」とか悪っぽい男たちに言いたかったが、言う間もなく、落ちた。
落ち時にそれなりに大きな音がした。どしゃっ!って音がした。あと骨が痛い。多分折れては無い。不幸中の幸いだ。
「な、なんだお前!?今の音はなんだ!?落ちたのか?落ちてきたのか?え?どっから?どっから落ちて来た!?」
音に気付いた男たちがこちらを振り返り、どこから落ちてきたのかと上を見てる隙にすっくと立ち上がり、男たちを指差してポーズを決めた。
「そこまでだ!!」
決まった。
「いや、決まってない決まってない、死ぬほどダサいぞ」
イジッテちゃんのツッコミは聞こえないことにした。なぜなら、もう泣きそうだったからだ!!
「……泣くなよ…」
「泣いてないやい!!」
泣きそうなだけだいっ!!
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