第30話

 ムンセさんがモンスターたちを集合させ、ガイザへの帰国を命令すると、モンスターたちは不満気な表情を見せながらもしっかりと従った。

 ムンセさんの指示に従うようにもっと上の、それこそ魔族に命令されているのか、もしくはシンプルにムンセさんの魔人としての力で従わせているのかはわからないが、上下関係はかなりしっかりと確立されているようだ。

 今回はなんとかなったけど、これでガイザが諦めるとも思えないので、ジュラルはだいぶ面倒に巻き込まれるだろうなぁ……まあ、僕はもう関わりたくないけど。

 魔王を倒して平和な世界にしたいから勇者頑張ってるのに、国同士の争いに巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。

 モンスターが全て引き上げた後、僕はムンセさんに一人の名前を告げた。

 パイクさんから聞いた、ガイザの将軍の名前だ。

 2、3年前までガイザに居たパイクさんに、そこそこの地位があって、ムンセさんのようなタイプと仲が悪そうな将軍、という条件であげて貰った名前だが、それを告げると、

「――――やはりあの男か…!以前から我に向けるあの視線が気にくわなかったのである!!見ておれ、必ずや尻尾を掴んで見せるである!!」

 と怒りとやる気と、嫌いな相手を追い落とせるかもしれないという喜びが見事に顔に出ていた。

 どうやら上手く行ったようだ。

 一応、「僕らの事を言っても とぼられて終わりだと思うので、ちゃんと裏を取るようにした方が良いですよ」とは告げておいた。

 まあ取れるような裏なんてあるハズも無いのだけど、騙されたと気づくにはそれなりの時間がかかるだろう。

 その間にはジュラル軍が国境の警備を強めてくれることでしょう。

 悪いねムンセさん、もう会うことも無いと思うけど……っていうか、無いと願いたい。


 その後、村長さんの持ってる山小屋へと村の人たちを迎えに行った。

 心配だったポールムちゃんの家族も無事で、村のみなさん全員憔悴していたけれど、村が救われたと聞くと歓声と喜びの涙に包まれた。

 頑張ったかいがあったあったというものだ。

 村長さんたちはお礼として大金を渡そうとしてくれたけど、村の様子を見るとあちこち破壊された形跡が目立ち、これを修復するだけでもかなりのお金がかかるだろうし、ここから生活を立て直すのもまた大変だろう。

 そのためには、村にもお金が必要だ。


 ‥‥‥‥‥なので、3分の1だけ受け取った。


「受け取るのかよ!」とイジッテちゃんからはツッコまれたけど、そりゃ受け取るよ!

 だって今日止まる宿代すらギリギリなんだから!疲れたから明日は寝たい!

 またすぐになんかクエスト探してお金稼ぎに出たくない!

 僕はそういう人間だ!!!!

「堂々と言うな!」と殴られました。

 声に出ていたっていうか叫んでたよね。これはさすがに自分でも気づいてたので、イジッテちゃんナイスツッコミ。


 そして、村を後にした―――――フリをして、周囲でセッタ君探し。

 事情を知られたらきっと村の人たちは「一緒に探しましょう!」と好意で絶対言ってくれるだろう、と想像が容易いくらいの良い人たちだったけど、正直上手く説明出来ない。

 少年を探してる、って言って探してもらって、盾の状態で居るときに見つけたらどうしようってなるし、逆もまたしかり。

 結局、事情が分かってる僕らで探すしかないのだ。


「セッタくーん、おーい、返事してくれー」

 村まで届かない程度の声で呼びかけつつ、村の周囲を囲んでいる森を探す。

 一応、僕が渡した爆発魔法の結晶を使ったあとであろう焦げ跡のようなものがあちこちにあるので、それを手掛かりにあとを辿っていく。

 ……にしても、木の一本でも倒れたり地面に窪みが出来たりするくらいの威力は有るかと思ってたけど、木は焦げ目がつく程度だし、草木すら一部が削れてるだけで一帯が吹き飛んだりもしてない。

 我ながら魔法の弱さに泣けてくるな……服を弾き飛ばすことに特化しすぎて、威力の事考えてなかったからな……炎よりもほぼ空気の圧縮に近いんだなきっと。

 そのうちまたちゃんと勉強しなければ。


 探し始めてしばらく経った頃、セッタ君を見つけるまで我慢できなくなったのか、イジッテちゃんが質問をしてきた。

「ところでお前、あの拷問のくだり、アレなんなんだ?」

 あー……それ聞いてきますよね、やっぱり。

「アタシも気になったのよね、まさかあの気持ち悪い拷問、本気でやるつもりだったの?」

 パイクさんも会話に参戦してきた。

 んー……まあ隠すことなど何もない、正直に話そう。

「まさか、拷問なんて、やられる方はもちろん、やる方も大変過ぎて割に合わないですよ。だから、やるぞやるぞ、とだけ脅しをかけて、実際にはやらずに情報を得る。最初から目指してたのはそれですね。拷問モドキですよあんなの」

 そう、僕だってあんな汚いことしたくないのだ。

 実際にやった日には、ムンセさんより先に僕が吐いてたと思うよ?

「じゃあ、あの魔法のアイテムは?映像記憶なんとかっていう」

「あ、アレですか?あれは、中に魔法入ってないんです。そもそも記憶魔法は使える人が少ないから、使い切ったアイテムにまた魔法を込めてもらうのも大変なので、残った外側だけを安く売ってたりするんですよ」

「それをわざわざ持ち歩いてるのか?」

「はい、意外と使い道が多いんですよこれ。世の中には、自分のやってる事を記録されたくない人がたっくさんいますからね」

「はぁ~……お前、さては悪いヤツだな?」

「ははは、どうなんでしょうね。少なくとも今は、世界を救う勇者のつもりですけど……まあ、正しい人生を生きて来たかと言われると、真っ直ぐには肯定できないですね」

 過去は無かった事に出来ないし、したいとも思わないけど、その過去を理由に僕に勇者の資格が無いと誰かに言われたら、それを否定することも出来ないだろう。

「それにしても、よくもまああんなにすらすらと嘘が出るものね。アタシ、ちょっと感心しちゃったわよ」

「はははっ、軽蔑しますか?」

「まさか、言ったでしょ、感心したのよ」

 パイクさんのその笑顔に嘘はないと思えたが、とてもうれしかった。

「イジッテちゃんは、怒ってます?相談せずに勝手に拷問モドキみたいなこと始めちゃって…」

「ま、気に入らないのは確かだな。でもまあ……あの状況では、あれがベストだったろ。村の人たちもみんな救えたしな。ただし、次からはちゃんと私に相談してから始める事、いいな?」

 ビシィ!と指を突きつけられました。

 でも、イジッテちゃんの表情は怒りつつもどこか柔らかかったので、それが僕にとってはやっぱり嬉しかった。

「よし、じゃあこの話はこれで終わり!さっさとアイツ探して帰るぞ!」


 探し続けて、朝陽がだんだん昼の太陽に近づいてきた頃、不意に上からガサガサと音が聞こえた……と思ったら、次の瞬間何かが落ちて来た。

 盾だ。盾が落ちて来た。

 ……あっ、これセッタ君だ!このデザイン、これセッタ君だ!

「セッタくん?おーい、大丈夫ですか?」

 声をかけると、カタカタ揺れる。何かしらの意思表示だと思うのだけど、よく分からない。

「ちょっと、あの、パイクさん!イジッテちゃん!セッタ君!これセッタ君ですよね?」

 少し離れたところを探していた二人を呼び寄せる。

「ああ、これ相当疲れてるね」

「だな。半分寝てるわ」

 二人とも同じような反応。

「そうなの?」

「そうね、まあ少年にはわからないと思うけど、人間の形になるのって結構体力っていうか気力っていうか、まあ色々使うのよ」

「だな、こいつなりに相当頑張ったんだろうよ、しばらくは盾のまま休ませておいてやれ。見た感じ大きな破損も無いし、そのうち回復するさ」

 僕にはその辺りの事情はよく分からないけど、2人が言うのならきっとそうなのだろう。

 セッタ君の、と言うか盾の持ち手の部分にロープをかけて、おんぶするように背負い、ロープを自分の首に巻き付けて固定する。

 よし、これで安定して持っていける。

「じゃあ、帰りましょうセッタ君。ありがとうございました、あなたの頑張りのおかげで、全部上手く行きましたよ」

 背中でセッタくんがカタカタと揺れた。なんだか喜んでくれたような気がする。


「私も頑張ったんだが?」

「アタシも頑張ったと思うんだけどなー」

 凄いお礼を言われたい顔してるじゃないですか……いや、まあ確かに2人にはちゃんとお礼言ってなかったけどさ…。


「お二人も、ありがとうございました。おかげで助かりました」


「二人でまとめるな」

「ちゃんと1人ずつお礼言って?」

 なんなんだこの人達は……人っていうか盾と矛は。


「えーと…イジッテちゃんが守ってくれたおかげで、僕は無事でした。本当にありがとうございます。

 バイクさんの攻撃力が無ければ、僕は勝てませんでした。本当にありがとうございます」

 二人ともに深々と、ちゃんと別々に頭を下げてお礼をする。

 まあ確かにお礼を言う事は大事だ。本当に誰が1人欠けても、このクエストは成功しなかったと思う。

 だから、お礼を言う事くらいは当然の事だと思う、思うけど……僕も、わりと頑張ったんだけどなー……


 とか思っていたら、2人がいつの間にか僕を挟むように左右に立ち……二人同時に、僕の背中をバン、と強く叩いた。

「痛っい!なんですかもう、お礼ならちゃんと…」


「お前も頑張ったな!」

「アンタも、頑張ったわね!」


 ………なんだよもう、ズルいな!!満面の笑顔でそんなこと言われたら、凄い嬉しくなっちゃうじゃんかよーーーもーーーーう!!!もーーーーう!!!


 そうして僕たちは、1人も欠けることなく、キテンの街へ向かう帰路に着いた。



 ―――――そこで起きる事を、僕らはまだ、知らない。

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