第28話
「舐めるでないぞ小僧!!我はガイザの5大術士の一人・大将軍ムンセである!翼が無くなった程度で、一騎打ちに負けるような貧弱さは持ち合わせておらぬわ!!」
ほんの少し前にそう見栄を切ったムンセさんは今、
「ぜーはーぜーはーーーーーーぜーーーーはーーーぜーーーーはーーー。ひ、卑怯であるぞ!いつまで、幼女を、盾にし続ける、であるか!」
イジッテちゃんの超絶防御に阻まれて、一切攻撃が僕まで届かず攻め疲れていた。
とは言え、ガイザの将軍の肩書は伊達ではなく、術士と名乗っていたのに杖を使った棒術も見事で、イジッテちゃんが居なければ全く余裕はなかっただろうし、体捌きも上手く、僕の攻撃では膝をつかせることも難しい。
殺してしまおうとすればもう少し楽に戦えるのだろうけど、出来れば殺さずに捕らえたい。それは決して優しさではなく、指揮官の命令としてモンスターたちを撤退させてくれればそれが一番平和だからだ。
指揮官を失ってモンスターが暴走することは一番避けねばならない。
このままもう少し粘って、さらにバテたところを狙うしかないのか……?
―――しかし、そうも言っていられないことが起きた。
「あっ!指揮官殿!どうしたんですか!?敵ですか!?」
戦いの音を聞きつけて来たのか、モンスターが一匹こちらに近づいてくる!
「やばっ…」
と思った次の瞬間、パイクさんの突きがモンスターの心臓を貫いていた。
「こっちはアタシが見張っておく。早く決着をつけな」
パイクさんもチャンスがあれば僕の援護をしようと狙ってくれていたようなのだけど、見張りに回ってもらうとなったらこっちは自力で決めるしかない。
とはいえ、僕の力だけで完全に勝てるかと考えると厳しい。
ずっと一緒に戦ってもらうのは無理としても、どこか、どこかワンポイントで力を貸してもらう流れを作りたい……!
「おのれ!おのれである!なぜだ!なぜ我の攻撃がこうも防がれる!?」
しかし、ムンセさんの猛攻はまだ止まない。
イジッテちゃんのおかげで防ぐことはできるが、それで精一杯だ。
なにか、なにかきっかけはないのか。
この状況を打開し、決定的な一発を決められる、そういう瞬間を手にれるためには、どうすれば――――
(私が隙を作る、そこを狙え。外すなよ勇者コルス)
攻撃の隙間を塗って、イジッテちゃんが小声で僕に囁いた。
隙?隙を作るってどうやって――――
僕が考える間もなく、イジッテちゃんは、右手を前に出した。
それだけ、それだけなのだが――――それは「普通ならあり得ない事」だった。
ムンセさんにとっても、イジッテちゃんはもう既に「盾」だったのだ。
攻撃を防ぐために、左右に手を広げる事はあったが、あくまでそれは盾として「防御範囲の広い盾」としての動きに留まっていた。
その「盾」から――――突然、前方に手が出て来たのだ。
普通の盾ではありえない、立体的な動き。
攻撃をするために強く踏み込んでいた顔に、カウンターのようにその手が当たった。
イジッテちゃん自身には攻撃能力はないが、相手の勢いを利用してその顔に固い体の一部を当てれば、相手の体勢を崩す程度の威力にはなる!!
その隙を逃すほどには、自分はボンクラではない、と信じて剣を振る!
慌てて攻撃を防ごうと杖を体の前で構えるムンセさんだが――――狙うべきは、その杖!!
思い切り薙ぎ払うように杖を切りつける!!
金属同士の当たる音が鳴り響くと同時に―――――杖が、宙を舞った。
「パイクさん!」
僕が声を出すより先に素早く反応して動き出していたパイクさんが、宙を舞う杖が地面に着くとほぼ同時にキャッチした。
「ああ、我の杖……閣下から賜った杖……!」
武器を失い、膝をつくムンセさんの喉元に、僕は剣を突きつける。
そして、杖を手にしたパイクさんは、見せつけるように、その杖を――――勢いよく膝に当てて真っ二つに割って見せた。
「あああああ、ああああああーーーーー………」
魔法を使う人間にとって杖は、魔法を増幅する武器として最重要で、杖無しで強力な魔法を使えるのは、世界中でも選ばれた高位の魔法使いだけだろう。
そもそも魔法使いは1人で戦うのは難しい。魔法を唱えてる間に攻撃されるからだ。それを補うためにムンセさんは羽を手に入れて、相手の攻撃が届かない空から一方的に攻撃したり、接近戦でも戦えるように棒術を身に着けたのだろうけど、羽も杖も奪われては、もうどうにもできない。
その証拠に、ムンセさんは完全に戦意を喪失して四つん這いになってしまった。
僕はすぐさまロープで縛って拘束する。
―――あまりに必死に過ぎて、この瞬間までそんな気持ちは無かった。
でも、今ここで、初めて、気付いた。
あれ、これ僕……勝ったの?
この大きな勝負に、勝ったんだ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!
ほんの少し、一瞬だけ、座り込んで勝ちを噛み締めた。
こんな僕も勇者として、誰かを救えたのかもしれない。
その、奇跡みたいな瞬間を、少しだけ―――噛み締めた。
モンスターに見つかって余計な邪魔が入らないように、縛ったムンセさんを連れて屋敷の裏へと回る。
ここなら、村長さんの大きな屋敷と塀に囲まれているから、そうそう見つからないだろう。
さて……諸々の準備は済んだ。
あとは、ムンセさんにこの村を諦めて兵を引き揚げて貰うようにお願いするだけだ。
「殺すがよいである」
……いやまあ、当然ではあるが、ムンセさんは僕らの要求を突っぱねた。
「誇り高き武人として、閣下から賜った使命を果たせず、自らの命惜しさに敵の要求を飲むなど、死よりも屈辱である。そんなことが出来るハズも無かろう!」
「そんなこと言わずにお願いしますよー。この通り!モンスターたちを集めて、作戦は中止!帰る!って言うだけで良いですから」
手を合わせてお願いするも、「ふん!である」と顔を背けられてしまった。
だいぶ余裕あるねそのリアクション?
まあ、普通にお願いしたところで聞いてくれるとは思ってない。
けれど、やってもらうしかない。
………仕方ない、気は進まないけど……ちょいと、カマしてみますか。
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