第27話

「しかし羽がダサいわね」

「な、そうだよな。羽までダセェとか救いが無いよな」

「もうそのノリいいである!!しつこいである!我もどうせなら真っ黒い翼みたいな、羽ばたくと羽根がバサァ…って舞うような羽が欲しかったけど、却下されたのである!」

 デジャブみたいなやりとりだ。

「却下されたって、誰にです?」

「それはもちろん魔族である!あいつら、対等な同盟だとか言っておきながら、態度がデカくてムカつくのである!」

「本当に魔族と手を組んだんですねガイザは…」

「はっ、し、しまったのである!これは国家機密だったのである!」

 ………なんか、この人のことだんだん好きになって来たんだけど?

「まあ良いのである。どうせおぬしたちの命は……ここで終わりである!!」

 突然再びの氷の矢!

 しかも、空中からなので、さっきのように突進していくわけにもいかない。

 イジッテちゃんを盾にしてなんとか攻撃は防げいてるが、反撃の手段が見つからない。

 なにか、何か武器は……ポーチの中を探ってみるも、小型のナイフが一本あるだけだ。投げナイフは苦手ではないけど、この短いナイフを空中の相手に投げて致命傷となる場所に当てる……まず不可能だろう。

 他には、他には何か……そうだ、ロープ!

 水中イキデキールに括り付けた長いロープでどうにか出来ないか?

 そういえば、井戸、井戸はどうなった?

 視線を送ると、先ほどの氷の矢での奇襲を受けて井戸はだいぶ崩れていたが、ロープは変わらずそこにあった。

 ああ、ポールムちゃんのお母さんは無事に向こうに辿り着けただろうか?心配だけれど、確認するためにはこの状況を打破する必要がある。

 ひとまず、攻撃を防ぎつつ井戸に近寄り、素早く横移動で氷の矢をかわしつつロープを引っ張ってみると、一瞬何かに引っかかったような感触はあったが、ロープは無事に井戸の中から出て来た。

 けど、先端に縛っておいたはずの水中イキデキールが無い。

 慌てて引っ張ったから、さっきどこかに引っかかった時に抜け落ちてしまったのかもしれない。

 まあ今はそれはどうでもいい、ロープ、このロープをどう使う?

 一番理想的なのはカウボーイよろしくロープで輪っかを作って相手を捉えて引きずり下ろすことだが、練習もせずに可能だとは思えない。

 なら、他には……どうする?どうする…?

 悩んでいる間にも矢は絶え間なく降り続けている。イジッテちゃんが見事に攻撃を防いでいるが、いかに伝説の盾とはいえ、これだけ攻撃を受け続ければいつかは限界が来る可能性もある。

 それまでに、考えなくては、この状況を脱する冴えたやり方を―――


 と、不意に攻撃が止んだ。

 不思議に思い少しイジッテちゃんの脇の隙間からムンセさんを見てみる。

 上手くすればマジックポイント切れや、時間を掛けて作ったというあの氷の塊を使い切ったのかと期待をしたが、少しだけ小さくなった氷の球はまだ杖の上に浮いている。アレはおそらく僕の爆発魔法の結晶と同じようなもので、氷の魔力を時間を掛けて圧縮して固めたものだろう。あの塊を媒介とすることで、水気の無い場面でも瞬時に氷を生み出すことが出来るのだ。

 だが、今はその攻撃が止まっている。どうしたのだろうと表情を伺うと……なんか、ぷるぷるしてる。

 怒っている……のか?

「この………人の道を外れたド外道が!!である!!」

 急に怒鳴って来た。

「……え?なんですか急に……?イジッテちゃん、言われてますよ」

「なんで私なんだよ。言われるならお前だろ」

「へ?なんで僕が――――」


「そのような幼子を盾にして、陰に隠れるとはなんたるド外道であるか!!それがジュラルの戦士のやり方か!!!」


 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はっ、そうだった。

 すっかり当たり前になってて忘れてたけど、これ傍から見ると幼女を盾にしてる酷いヤツに見えるんだった!!!

「いやその、これはジュラルとは関係なくてですね。あくまでも僕個人のその、なんていうか」

 さすがに国をあげて幼女を盾にすることを推奨していると思われたら困るので、そこは明確に否定しておく。

「性癖か!?性癖であるな!?おぬしの性癖であるな!?」

「いやだから、あの、あのーーー」

 どう説明したら良いんだ?盾が人間の幼女の姿になったんですよー、なんて言っても信じて貰えないだろうし、そもそもイージスの盾の存在をバラすのは色々問題になる可能性があるって言われてるし、否定するのも難しい!

「あれであるな!?おぬしはそう見えて、強力な物理反射や魔法障壁の術士なのであろう?だと言うのに、それを己に使わず、あえて幼女に使い、その陰に隠れるという上級者の戯れ!!命を賭けた戯れ!!ピンチのドキドキと性的なドキドキを同時に味わう高等テクニック!!なんという強いフェチズム!!なんという外道!!おぬしの事なんて、もう友達じゃないやい!!」

 凄い妄想力でめちゃめちゃ軽蔑されて生涯の友に絶交されました。

 いや最初から生涯の友じゃないけどね! 

「どういう発想であるか?幼女に守られたらきっと気持ちいいぞうって、どういう発想であるか?いつ思いつくの?そんな変態的な戯れいつ思いつくの?どういう人生を歩んできたらそんな領域まで到達できるのであるか?」

 なんか凄い昂奮してる……あっ、そうだ。今のうちに作戦考えよっと。

 正直他人から罵倒されるのって自分にとってはわりと日常ともいえるから、そこまで心傷つかないんだよね。

 そりゃ嬉しくは無いよ?そういう性癖じゃないから。でもまあ、言われたところで、っていう話でもある。

 なんかまだムンセさんずっと色々凄い妄想を繰り広げて、文字にしたら危ないレベルの話をし始めてるので、時間が欲しかった僕にとっては都合がいい。

 まさかイジッテちゃんが幼女の姿であることがこんな形で役立つことになろうとは。わからないものですね。

 うーーーーーーーーーん………ロープ、ロープか、例えばナイフに括り付ければ、投げたナイフを避けられてもすぐにロープを引っ張って手元に戻せるから何度も投げられる……いや、ナイフでは何度投げたところで、やはり致命傷を与えるのは難しい、それなら―――――っそうか!!

(…パイクさん!パイクさん!)

 少し離れた位置で「何だこの状況?」っていう顔をしているパイクさんに、小石を投げてこっちに意識を向けさせつつ、小声で呼びかける。

 気づいたパイクさんが、カイセさんに注意を向けつつも、ゆっくり近づいてきた。

「どうしたの?」

 僕は思いついた作戦を耳打ちする。

「……なるほど……やる価値はありそうね…?」


「そうであるな?おぬしなんかどうせ、夜の宿屋でその幼子に物理反射の魔法をかけて体当たりして、うわぁ痛ーい、幼女に負けたぁ、僕はよわよわ冒険者でちゅー、優しくしてぇ~などと甘えて頭を撫でてもらうとかそういう戯れを夜な夜な繰り返しておるのであるな!?羨ましくない!まったくもって羨ましくないである!そもそもおぬし……おぬし、何をしておる?」

 さっきよりさらに訳の分からない妄想ゾーンに入っていたムンセさんも、さすがに気付いたらしい。

 僕の手に、先ほどまでどこにもなかったハズの長く鋭い矛が握られていることに。

 さあ行くぞ、最後のマジックポイントを注ぎ込む!

「フウドウ!」

 矛の周りに、竜巻が包むように風の魔法をまとわせる。

 これにより、普通に投げるより素早く、そして高く投げる事が出来る。

「行きますよムンセさん……空が安全地帯だと、思わない事ですね!!でぇやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 全力で振りかぶり、浮遊しているムンセさんめがけて矛を投擲!!

 風を切り裂く音が周囲に響き、目視すら難しい速度でパイクさんが迫る!

「届け!!」

 声で背中を押せたかのように、矛は飛んでいき―――

「甘いであるっ!!」

 体をのけぞらせて避けたムンセさんの眼前を通り過ぎ、そのまま上空へ……

「ふははは、惜しかったであるな?どこから持ってきたのか知らぬが、おぬしの切り札は上空へと消えたであるぞ?」

「くそぅ、外した――――なんてな?」

「―――? ……なんであるかこれは?」

 余裕をかましていたムンセさんが疑問に思ったそれは、ロープだ。

 長いロープを、矛に結んで投げていたのだ。

 そして僕は、もうそのロープを強く握って引っ張っている。

 それによって、上空へと消えたかに思えた矛は、ムンセさんよりさらに高い位置で止まり、少しずつ落下している。

「今ですパイクさん!!!」

 僕の合図で、パイクさんが上空で矛から人間体へと戻る!

「なっ、なんであるかこれは!?」

 驚くムンセさんが気付いた時には、もう遅い。

 突然上空に出現したパイクさんは、落下の勢いも利用して、矛の刃で薙ぎ払うような鋭い蹴りを繰り出す!!

「アンタみたいな小者に、空は似合わないのよねっ!!」

「ぐあぁぁあぁぁあぁぁあ!!!!」

 パイクさんの蹴りが、ムンセさんの背中の二枚の羽を見事なまでに切り落とした!

「うおおぉ!!ぐはぁ!!」

 羽を失い、地面に叩きつけられるように落下したムンセさん。

「くっ……バカな、こんな……!!我がこんなヤツらに…!」

 まだ生きてはいるが、だいぶダメージを受けたようで、四つん這いになっている。


 僕はそんなムンセさんに近づき、剣を突きつける。


「おかえりなさい。短い空の旅はどうでしたか?―――さあ、決着をつけましょう」

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