第26話

「ダッセェ、一人称『我』ダッセェ」

「それな、それだわ。王様とかならまだしも、たかが将軍の一人が「我」て」

 格好良く名乗りを決めたつもりであろうガイザの将軍ムンセさんに対して、いきなりひどい暴言を吐くパイクさんとイジッテちゃん。

 でも……「それは確かにそうだよね」僕も賛同しておこう。そう思うし。

「な、なんであるか貴様ら!?決めたであろう!!我が格好良く決めたであろう!?それをなんであるか!?」

「語尾の「あるか?」もダセェな」

「あれ、ガイザ訛りだと思ってたけど違うのか?」

「いやまあ、近い訛りはあるけど、あんなあからさまに使わないよ。あれキャラ付けだよ。「我」と一緒」

「うわぁ、ダッセェ。なぁ?ダサいよなぁ?」

 僕に振られても……だって、あの、ほら、もう泣きそうですよ?ムンセさん泣きそうですよ?

「ええい!もうよいであ……よいわ!貴様ら、覚悟するであ……覚悟するがいい!」

「気にしちゃってるじゃん!語尾気にしちゃってるじゃん!なんか可哀想だから、ちょっとだけ謝ってあげて!二人とも謝ってあげて!」

「嫌よ。勝手に泣けば良いのよあんなダサいヤツ」

「そうだ。死んでも謝らんぞ。やーい、泣け泣けー」

 いじめっ子だ!この二人根っこがイジメっ子だ!!

「あの、すいません。悪気はない……いや悪気しかないんですけど、でも根は良い人達なんです!ただ正直なだけなんです!思ったことすぐ口にしちゃうだけなんです!」

「思ってるってことではないか!正直ということは、我の動揺を誘うためとかではなく、本当にダサいと思ってるという事ではないか!」

「それはそうですけど!それは仕方ないじゃないですか!そう思われるようなことしてるんですから!」

「やめろ!!もうやめてくれである!!頑張ってるのである!我も頑張ってるのである!!ガイザの将軍たちはみんなキャラが濃いから、我も負けないように頑張ってるのである!!」

 鎧からはみ出た長い袖で涙をぬぐいながら魂の叫びをくりだすムンセさん。

「た、大変なんですね……頑張ってください!」

「おぬし……いいやつであるな…こんな出会いでなければ、友になれたであろうに…」

 ついさっは僕もわりと酷いことを言ったような気もするけど、優しくされ慣れてないのか僕をいいやつだと仰っている。まあでも、気持ちはわかる。そうだよね、優しくされ慣れてないとそうなっちゃうよね。

「じゃあ、今からでも友達になりましょう。そうすればもう戦わなくて済みます」

「いいや、それは出来ないのである!」

 あわよくば戦いを回避できるかと思ったけど、さすがに拒否された。

「たとえおぬしと我が竹馬の友だったとしても、我にはガイザに対する忠義がある!それは何よりも優先されるべきものだ!そのためには、生涯の友であるおぬしが相手でも決して引き下がれぬのだ!」

 いきなり竹馬の友になったかと思ったら次の瞬間に生涯の友までジャンプアップした。友達居ないんだねムンセさん。わかるよ。

 そして同時に……結局は戦うしかない、ってのもわかった。

 覚悟を決めろ、勇者コルス!

「イジッテちゃん、嫌かもしれないけど……背中、いいかな?」

「しゃーねぇなー」

 渋々と言った様子でイジッテちゃんが背中を差し出してくれたので、ワンピースの背中のチャックを下げる。

 やっぱなんかその、緊張するな……幼女の!背中の!!チャックを!!!

「興奮してたらぶん殴るぞ」

「し、してませんよ?」

 とぼけつつもイジッテちゃんの背中を見ると、そこには、前に見た時と変わらずに盾の持ち手があった。

「では、失礼しまーす」

 なるべく刺激しないようにそっと腕を通し掴む。

「ひぅっ…!」

「いやだから、エロい声出すのやめて?」

「し、仕方ないじゃろう!こそばゆいのだ!お前の触り方がやらしいからだぞ!ひやぁっ!」

「待て、おい待て、おぬしたち何をしているのであるか?」

 当然の疑問がムンセさんから出ました。

「気にしないでください。これが僕らの戦闘スタイルなので。さあ始めましょう!」

「はあぁっ!強く握るなばかぁ…!」

「やりづらい!!さあ始めましょう!ではないわ!やりづらいである!」

 気持ちはわかる。

「そうですか、でも、そっちがやりづらくても―――――始めますよ」

 イジッテちゃんを前方に構えたまま、いきなり全力ダッシュ!!

「ぬっ、きゅ、急にとは卑怯な!」

 そう言いつつも、真っ直ぐ向かって行く僕に対して、再び氷の矢を降らせるムンセさん。

 けど、イジッテちゃんを盾として構えた自分はさっきまでとは違う。

 身を低くしたまま矢を蹴散らすように足を進める!

 絶対的な盾がこの手にある、というのはこんなにも心を強気にさせるものなのかと自分でも驚く位、氷の矢が怖くない!

「くっ!」

 ムンセさんは僕らが矢では怯まないと見るや、先ほどパイクさんに向けたのと同じ、氷の壁を生み出す。

「イジッテちゃん、行ける!?」

「誰に問うている!愚問だな!」

「っしゃ!!」

 このまま全力で、氷の壁に突っ込む!!

 テクニックなんてろくに持ち合わせてない自分が出来る事なんて、猪突猛進くらいだよな!!!

 壁に激突すると一瞬強い抵抗を感じたが、構わず進め僕の足!僕の体!!

 ガラスの割れるような音と同時に、一気に感触が軽くなる。

 残念でした!氷よりイジッテちゃんの方が硬かったですね!!!

 これでもう遮るものは無い!

 剣が届く距離!全力で振り下ろす!!

「でやぁぁあああ!!」


 ―――――が、手ごたえが無い。

 なんでだ?今のは確実にとらえたと思ったのに……というか、どこ行った!?

 左右を見回しても、どこにも姿が見えない。今の一瞬で、一体どこへ?


「上だ!!」


 パイクさんの声が耳に届き、慌てて視線を上に向ける。

 そこには―――――


「やれやれである。まさか、こんな小さな村の作戦でこの姿を見せることになろうとは思わなかったであるわ」


 月を背負い、闇夜に浮かぶムンセさん。

 けれど、それはどう見ても妙な、普通に考えたらあり得ないシルエット。


「――――羽?」


 ムンセさんの背には、まるでコウモリのような羽。

 人の背中に羽、そんなこと、常識的にあり得るハズも無くて……


「そこまで、そこまで魂を売ったのかガイザは!!」

 イジッテちゃんの怒りの声が空気を震わせる。

「どういうこと!?アレは一体何?!」

 僕の疑問に、イジッテちゃんは声を少し震わせながら答えた。


「ガイザは、魔族と手を結んで――――…人間を魔人に変えたんだ。愚かな……それは、絶対的な禁忌だぞ!!」

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