第13話
「本日の勇者会議~どんどんぱふぱふ」
何事もなかったように仕切り直す僕と、それを生暖かい目で見守るみなさん。
「では最初に、えーと……お二人の事、なんて呼べば良いですか?」
物凄く基本的な処から始めてしまったが、まあ大事なことだし。
矛と盾の二人が顔を見合わせて、
「別に好きに呼んで良いわよ?矛さんでも矛様でも神でも武神でも素敵なお姉さんでも」
好きに、というわりにはだいぶ尊大な呼び名が多かった気もするがスルー。
「そもそもの話なんですけど、お二人ってどういう武具なんですか?イジッテちゃんみたいに、伝説の武具なんですか?」
僕があまり武具に詳しくないというのもあるだろうけど、矛と盾のコンビというのはイマイチピンと来ない。
「ワシらは、その名の通り矛と盾じゃよ。おそらく、世界一有名な」
「世界一、ですか?」
老少年がゆっくりと語りだす。
「遥か昔の逸話での、どんな盾でも貫く最強の矛と、どんな攻撃も受け止める最強の盾を売ってる商人の話じゃ。
それを見た客が訪ねる、ならばその盾と矛がぶつかったらどっちが強いんだ?と」
なるほど確かに。その二つがぶつかったら、どちらかは嘘だということになる。
「それでどうなったんですか?」
「……えっ、この話知らないの?」
矛さんが驚いたように声を上げるが、少なくとも僕は聞いたことが無い。
「まあ、逸話なんてものは時代と共に過去になっていくモノじゃて。それだけの時代が過ぎ去ったということじゃ」
「はぁ~~~……アタシたちも落ちぶれたもんね」
「えっ、す、すいません。でもその、僕はわりと特殊な環境で育ったので、そのせいかもしれません。申し訳ないですけど、その話の最後を教えてもらってもよろしいですか?」
「どっちも砕けたんだよ、粉々に」
横で見ていたイジッテちゃんが突然結末を口にした。
「ほら、2人とも顔や体にヒビのような模様があるだろ?あれは、一度砕けたのを繋ぎ直した痕さ。この国ではあまり知られてないのかもしれんが、ガイザでは時を超えて受け継がれてる有名な話らしいよ」
「へー、じゃあ相当凄いんですね」
褒められたことに気をよくして、矛さんが自慢げに語り始める。
「そうよそうよ。ガイザでは名だたる将軍たちが我先にとアタシたちを使いたがったのよ?確かに二つをぶつけたら砕けたかもしれないけど、それはどちらもが同じくらい最高の武具だったからこそだ、って考える武人が多くいてね。だったら一人で両方使えば最強じゃないか、って」
「それで、ガイザとジュラルが争ってる時は、ジュラルの兵士に使われていたイジッテちゃんと何度も戦ったんですね」
「そういうことだ。まあ、私は一度も砕かれたことはなかったがな」
自慢げなイジッテちゃんに対して、
「はぁ?アタシだってあなたに攻撃して砕けたことなんて無いんですけど!?砕けなかった時点でアタシの勝ちと言っても過言では無いんですけど!?」
「いやぁ、それは過言じゃないかのぅ」
老少年冷静のツッコミ。確かに過言だ。
「まあまあ落ち着いてください。ともかく、お二人はその伝説の盾と矛なんですね。何か呼び名はあるんですか?」
このままだと喧嘩が始まって話が進まなそうなので、強引に戻す。
「呼び名?呼び名は無いわねそう言えば。伝説の矛と盾、と言えばアタシたちのことだったから、それで充分だったのよ」
「そうじゃのう。しかし、こうして人間の姿で旅をするのはワシらも初めての事、何か名前があってもいいかもしれんのぅ」
「まあ……それもそうね。特に一応ここは敵国だし、無用なトラブルを避けるためにもいいかもね」
どんなトラブルを想定してるのかはよくわからないが、おそらく数々の修羅場をくぐって来た二人だろうから、色々と警戒心も強いのだろう。
「じゃあ、早速僕が……」
「ちょっと待って、あなた、アレよね?この子を「イジッテちゃん」とか呼んでるわよね?それ名づけたのは……」
「もちろん僕ですが?」
「不安しか無いわ……」
「まあまあ、気に入らなかったら却下してくれて良いですから」
「はい、私却下したい」
「イジッテちゃんはダメです。もう決定です」
「なんでだよ!?」
抗議の声を背に受けつつも無視して僕は名前を考え始める。
「じゃあまずは、盾の人からえーと……伝説の盾、でん、たて、せつ……たて……でんた……いや……せつた…せった……セッタ?うん、セッタでどうです?」
老少年は僕の案を受けて、少し考えてから。
「セッタ……なるほどのぅ……まあ、悪くも無いかのぅ?少なくともイジッテちゃんよりはちゃんと名前らしいなまえじゃわ」
「そうね、それにわりとガイザの名前っぽいし。そういうの知ってたの?」
「いや、全然です。けどそれは良い偶然ですね。じゃあセッタで決定で良いですか?」
「うむ、よかろうて。ワシはセッタじゃ、よろしくな、えーと……おヌシの名はなんじゃったかの?」
「コルス、勇者コルスです。まあ、僕の事は勇者と呼んでください」
「うむ、了解じゃコルス少年」
……良い名前を付けてあげたのに勇者とは呼んでくれない……くそぅ。
―――まあ、数々の武人に仕えて来た彼らからすれば、僕なんてまだまだ駆け出しのひよっこに見えるのだろうし、実際その通りだ。
勇者と呼ばれたければそれに見合う存在になり、それに見合うだけの力と、それに見合うだけの股間のモノも手に入れろ、という励ましだと思っておこう。
見てろ、数年後には可愛いなんて笑われないぞ!!
「じゃあ次はアタシの名前ね。セッタが悪くなかったからちょっとだけ不安が薄れたわ。その調子で頼むわよ」
僕の自慢のベイビーを笑った張本人からのご依頼だが、それを恨みに思って変な名前を付けようとか、そんな気持ちは一切ない。本当だ。本当に欠片も無い。
「そうですね……伝説…矛……でん…ほこ……」
女の人の名前だから、濁点が付いてるとちょっと可愛さに欠ける気がする。
その代わりに、まるを付けよう。まるを付けると可愛さが出るに違いない。
「決まりました!あなたの名前は、てんぽこ です!」
「なるほど、ちょっとあなたの体を貫いても良いかしら?」
怒られたようだ。なんでだろうなぁ?
「まあまあ、そう怒るなよてんぽこ」
「もう一回その名前を口にしたら殺すわよイジッテちゃん?」
ああ、イジッテちゃんとてんぽこさんが喧嘩を。
「落ち着いてください、てんぽこイジッテちゃん」
「「まとめて呼ぶな!!!」」
結局激しい抗議に負けて、ジュラル国での矛の呼び名であるパイクという名前で呼ぶことになった。
てんぽこ……良い名前だと思うんだけど仕方ない。
こうして僕のパーティに、セッタくんとパイクさんが加わる事になったのでした。
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