第12話

「本日の勇者会議~~~。どんどんぱふぱふ」

「どうした急に、脳の中に気持ち悪い虫でも入り込んだのか?」

 イジッテちゃん、もうちょっと言いようがあるでしょう?

「いやほら、ひとまず宿も確保できましたし、ちょっと自分にとっては予想外の出来事が起こり過ぎた日なので、みんなで今後について話し合いたいと思いまして」

 アンネさんの店で無事にクエスト報酬を貰い、いつもより1ランク上の宿を取った。自分一人なら、取り合えず寝れれば良いレベルの、部屋の中にベッドひとつしかないようなボロ宿でも良いのだけど、2人……というか実質四人で泊まるならそこそこの広さとベッドが二つは必要なので仕方ない。

 宿に入る時は矛盾の二人にはちゃんと武器に戻ってもらったが、ずっと武器のまま過ごしてもらうわけにもいかない。いろいろ話も聞きたいし。

 幸い、イジッテちゃんは子供料金で押し通せたが、それでもランクが高いぶん普段の2倍のお金が失われた。

「悪いわね、私たちの事まで考えた部屋にして貰って」

 荷物として持ち込み壁際に立てかけてあった矛さんが、いつの間にか人間の姿になってベッドに腰かけている。

 脚を組むと、スリットの入ったドレスから太ももが露わになって、それはもう、それはもう!!!

「ありがとうございます!」

「……な、なにが?お礼を言ってるのはこっちなのだけど?」

 思わず、物凄く元気のいい感謝の言葉が出てしまった。ちくしょう!こんな夜にお店に行けないなんて!金も無いし!沈まれ弾けるな僕の膨張ボンバー!

「望むなら蹴飛ばしてやるが?」

「大丈夫です。そういうプレイは趣味ではないので」

 イジッテちゃんの申し出は丁寧に断って話を続ける。舌打ちが聞こえたが気にしない事とする。

「お茶貰って良いかのぅ?」

 盾の老少年も人間の姿になり、床に正座をしている。

「足痛くないです?」

「この方が落ち着くでのぅ」

「そうですか……すいません、お茶はちょっと無いので、水で良いですか」

 宿屋の部屋の中には、大きな蓋つきの樽があり、そこに水が溜めてある。きっと宿の人が毎日井戸から汲んで補充しているのだろう。ご苦労様です。

 そこから、木製のコップに水を汲み手渡す。

「お茶が無いのは仕方ないが、せめて沸かしてくれんかのぅ。生水は腹を壊すのじゃ……」

 ……本当に老人ですね言動が。見た目だけだとわりと美少年なのにな!?

「はいはい、ちょっと待ってくださいね」

 とは言え宿の中でお湯を貰おうと思ったら厨房まで行かなくてはならない。

 仕方ない……アレを使うか。

「――――ホフラム」

 炎の魔法を唱えると、少しだけ空気の焦げる匂いと音を伴い、手のひらの上に炎が現れる。

「ふぅーーーーー……っっっ!」

 掌に魔力を込めてその炎を強く握り、そのまま数秒熱さに耐える。

 魔力で皮膚をガードしてるとは言えさすがに熱いが、我慢できないほどではない。

 そして、手のひらに確かな感触を確認してゆっくり手を開くと、そこには炎の結晶が完成していた。

 赤い宝石のようなそれをゆっくりとコップの水に入れると、一瞬火の爆ぜる音がして、すぐに自ら湯気が立ち始め、ひと煮立ちする頃には結晶は消えて熱々のお湯だけが残った。

「はい、熱いから気を付けてくださいね」

「はぁ~こりゃありがたい。あんた、なかなかやるね」

「確かに、お前そんなこと出来たのか、変態なのに」

「イジッテちゃん?褒めるかけなすかどっちかにしようね?」

 と言いつつ、良い評価をされたので悪い気はしない。

「それ、結構高等な魔法技術じゃない?どこで習ったのそれ?」

 矛さんも興味津々の様子で質問してくる。……え?これってそんなに凄いことなの?

 ――――あ、思いついちゃった。思いついちゃったー♪

「いやその……独学ですけど……あの、実はですね、僕には、脱衣ボンバーっていう特技がありましてね?」

「おいやめろ」

 察したイジッテちゃんが止めに入るが、スイッチの入った僕はそう簡単には止まりませんぞー!!

「こう、今の要領で、爆発魔法を結晶化してですね。そりゃ、このように」

「凄い手早い!さっきよりだいぶ手早いな!やり慣れてやがるなこの野郎!」

「ちょっと、うるさいわよイージス。それで?それをどうするの勇者くん?」

「はい、これをですね、このように自分の服の中に入れるんですよ。そして、ちょっと刺激を加えると――――」

 さあ来い!!この瞬間だ!この瞬間が僕の生きる道だ!!

 この滾りをぶつけるように、服の上から結晶を叩くと――――


「脱 衣 ボ ン バ ーーーー!!」


 一瞬で服が弾け飛び、露わになる僕の全裸!ZE N RA!!

 ああ生きている!!今僕は生きている!!

 飛び散る服の破片がスローモーションに見えるよ!!脳内麻薬がドバドバだ!!

 イジッテちゃんは頭を抱えて顔をそむけている。この技の素晴らしさを理解してもらえないとは悲しいことだ。

 しかし、矛のお姉さん、矛のお姉さんならば――――

 リアクションを確かめようと矛のお姉さんに視線を向けると……少しだけ驚いたように見えたが、次の瞬間その顔には嘲るような笑みが浮かび、僕の股間を見ながら、こうつぶやいた。


「かーわいいんだぁ」


 ……え?

 それは決してバカにしてるとか、からかってるとかじゃなくて、本当に素直にそういう感想を抱きました、という笑顔だった。


「ほっほっほ、ワシらは今まで多くの武人に使われて来たでの。着替えはもちろん、情事の時ですらいざと言う時に備えて武器を枕元に置いておく者も多かった。それらを見慣れた矛からしたら、お主の全裸など幼児のそれに等しいわい」


 あっ、恥ずかしい!なんだか急に恥ずかしい!!


 慌てて、アンネさんの店で買っておいた着替えを取り出して肌を隠す僕を見て、

「ようやく覚えたか、いいか、忘れるな。それが恥という感情だ」

 とイジッテちゃんに強めに言われた。


 そうか、これが……恥か……!!

 まあでも、明日には忘れてる自信がある。僕はそういう人間だ。


「絶対忘れるんじゃないぞ!!絶対だぞ!」


 イジッテちゃんの声が、宿屋の一室に虚しく響くのだった。

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