第8話
「そういえばお前、いろんな魔法使えるな?」
宝箱を開けて中身をチェックする作業にも飽きたのか、イジッテちゃんが宝箱の上に座って話しかけてきた。
まあ、宝箱は大量にあるものの、中身はガラクタだったり空っぽだったりでほぼ収穫が無いので、休憩もしたくなるだろう。
モンスターには高価な貴金属やお金が必要無いから、基本的には食料と、若い女性しか奪わない。
食欲と性欲、実に分かりやすい生き物だ。
それでも、たまに他のものと一緒に略奪した高級品を所有してることもあるので、そういうのが見つかればラッキーなんだけど……そうそう見つかるものではない。
「魔法ですか?まあ、一応勇者を志してたので、色々な魔法の基礎は学びましたね」
なので、僕も一応手を動かしつつも、会話に参加することにした。
無言で探すにはちと退屈だ。
「なるほどな、勇者というのは基本的に器用貧乏だからな。下手に手を出すと全部が中途半端になるんだ、お前みたいに」
「……図星が過ぎて眩暈がします」
確かに、どの属性の魔法も簡単な基礎魔法しか習得出来なかったけども!一個に絞れば良かったとおもったけども!
「でもほら、おかげで今もこの場所が明るい訳で」
僕は宙に浮かんだ光の球を指さした。光魔法の初歩の初歩、ただその場を明るく照らすだけのアンドンだが、使えるのと使えないのとでは大違いだ。
「なるほどな、そのおかげで風の魔法も使えるから、私を持って大回転みたいな鬼畜の所業も可能な訳だ」
まだ言いますか……いやまあ、言うよね、言うわな。
幼女の腹の上に薄汚い胃液をまき散らしておいてそんなすぐに許されようなんてそこまで甘えた考えは持ち合わせていませんよ僕は?
ただまあ、なるべく話題は避けるけど。
「それより、なんかお宝ありました?」
露骨に話題は逸らすけど。
「なんもない!服どころか、食べ物すら入ってないぞ。ここお宝部屋じゃなくて、要らなくなった箱を積んでおくだけのゴミ部屋なんじゃないか?」
まあその可能性もないとは言えないが、鍵がしてあった以上何かしらのものも隠してあると思うのだけど……ただなんとなく人間の街で見たドアを真似した、って可能性もあるからなぁ。そういう部分は無邪気だしモンスターのやつら。
「そっちはどうよーなんか見つかったかー?」
「いや、イジッテちゃんも探してくださいよ」
ちょっと見ない間に宝箱を3つ並べてその上に寝てるじゃないですか。
蓋の部分丸みあるのに器用ですね!
「服の一着くらい早く見つけてくれー。もう眠い……おねむだ…見た通り子供だからたくさん寝ないとだめなのだー」
「見た目とは違うロリババア、の間違いですよね?」
「ふんぬっ!」
カラの宝箱が飛んできました。ツッコミを入れずにはいられない自分が憎い。
飛来してきた宝箱をふわりと華麗に避けた僕ではあったが、避けた先にはまだ調べる前の宝箱が大量に積んであったので、それに当たり、宝箱の雪崩に飲み込まれる僕の肉体。さようなら現世。
「死なん死なん、それくらいで死ぬわけなかろう」
「はい死にませんでしたー」
自分の頑丈さに感謝。なんでこんなに防御力高くなってんだろ、極振りでもしたっけか?
それはともかく、散らばった宝箱にため息が漏れる。
「どうすんですかこれ……」
「まあ、手間が省けたではないか」
確かに、いくつかの宝箱は崩れた拍子にひっくり返って蓋が開いていた。
いっそ、一個一個開けるよりももうドバーンと崩してしまったほうが早いかもしれない。いやまあ、壺とか宝石とかの貴重品が入ってたら傷つく可能性もあるけど、正直もう帰りたい。
帰りたい、という意味では完全に僕とイジッテちゃんの利害が一致しているので、貴重品のある低い可能性にかけて時間をかけるよりは、一気に片づけて布切れの一枚でも出てくればなんとなくそれで区切りに出来るというものだ。
「じゃあもうやっちゃいまーす」
「おう、やれやれー!よっ!まってました!」
常連客みたいな佇まいで歓声をくれるイジッテちゃんの為にも頑張ろう、という謎の使命感。
僕は風の魔法で宝箱を浮かせると……それをシューーーート!!
思い切り蹴飛ばされた宝箱は、積み重なった宝箱たちにぶつかり、派手な音を立てて崩れ落ちる。
「あはははは!!いいぞー!!」
「やばいっ!これたーのしーー!!」
「よっしゃ!あたしもやるー!!」
僕は自分の分とイジッテちゃんの分、二つの宝箱を浮かせると……同時にシューート!!
派手な音を立てて飛び散る宝箱!舞い散る謎のガラクタ!!響き渡る二人の笑い声!
「あはははははははははは!!」
「ひゃっはーーー!!!あははははは」
ドカッ、バガァ、ゴッパーーン!!あはははははは!!!
謎のトランス状態に陥る僕ら。お互いストレス溜まってたんだなぁ!!
そんな僕らのトランス状態を、今までに無かった金属音が途切れさせる。
なんだ?あ、もしかして本当に壺とかあって割れちゃったとか!?
一瞬で興奮が冷めて辺りを見回すも、割れた欠片のようなものは見当たらない。
周囲を見回すと、積んであった宝箱の奥に、何か不思議なものが見えた。
他の部分は全部土壁なのに、その一画にだけ金属が見えるのだ。
「どうした?」
「いや、ここの壁がなんか…」
イジッテちゃんの問いに応えながらも、丁寧に宝箱をどかしていくと――――そこには、鉄格子があった。
「なんだこれ…?」
鉄格子、とは言っても本格的なモノではなく、洞窟の床と天井に一本ずつ槍を刺し、その柄の部分を紐で結んでいるだけの簡素なものだ。
こんな洞窟の中に誰かがわざわざ作ったとは考えづらいので、おそらくモンスターたちが人間の真似をして作った遊びの一つだろうとは思う。
けれど、もし何か意図をもって作ったのだとしたら?
何かや誰かを閉じ込める為に鉄格子つくり、牢屋として使っていたとしたら…?
「こりゃあ……ひょっとしたら何か見つけたかもしれませんよ?」
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