第7話

 中に入ると、大量のモンスターが倒れている。

 まあ、さっき倒したのだから当たり前だけど。

 いっそ、倒したらモンスターが蒸発するみたいに消えてくれたら便利なのにな、と思ったが、それはそれでクエストを完了した証明が出来ない。

 クエストは、完了の報告をすると調査員が内容を調べて、問題が無ければ報酬が渡される。どうやって調べるのかは不正防止の為に詳しく知らされていないが、一説ではどんな遠方の場所でも見る事が出来る魔法を使っているのだとか。

 だとしたら、死体があった方が判断しやすいのだろう、たぶん。

 まあ、あくまで噂だからそんな魔法が本当にあるのかどうか知らないが、あるのだとしたらそれ使える人、覗きし放題だろうな。いや、僕はしないけどね?仮に使えたとしてもしないけどね?ほんとだよ?ホントにほんとだよ?

「何を1人でぶつぶつ言っとるんだお前は…?」

「へ?何か声に出てました?」

「自覚無いとしたら気を付けろよ、ただでさえ変態なのに不審者の要素もあるぞ」

「……二つの違いがイマイチ判らないというか、変態は基本不審なのでは?」

「バカだなぁお前は。良いか、本当の変態は、普段は真面目なんだよ」

「……勉強になります」

 そんなもんだろうか、まあ、僕より人生経験の長いロリババアの言う事だし、きっとそうなのだろう。

 ガイン!と音がしました。殴られたからね。

「なんで?」

「ロリババア呼ばわりされた気配を感じた」

 今は確実に声出して無いのに…恐ろしやロリババア。


 ガイン!


 洞窟の奥まで辿り着くと、明らかに今までと雰囲気の違う空間に出た。

 数を数えながら端から端まで全速力で走ったら15カウントくらいはかかるだろうという広さの中に、どこからか奪ってきたのか、ソファや机や椅子が雑然と置かれている。

 壁の一面はその前に藁が敷き詰められており、おそらくモンスターたちの寝床になっていたのだろう。一つだけボロボロのベッドが置いてあるのもどこかから持ってきたに違いない。

 モンスターはだいたい、個体差にもよるが人間でいうと5歳児から12歳までくらいの知能を持っていると言われているので、いわゆる「人間の生活」というヤツを真似することも多いのだという。

 普段の食事はわざわざ机と椅子で食べることはないだろうが、あくまでも遊びとして真似する為に置いているんだろう。実際机も椅子もボロボロで、普段使っているというよりも叩いたり蹴ったり上に乗ったりしているのだろうと思える壊れ方だし。

 そんな空間の一角に、一つだけ扉が存在した。

 洞窟の中に扉、と言うことは当然後から付けたものだろう。自然に扉が出来ることないだろうし。

 しかも、鍵……というか扉の前には かんぬき が通してあり、簡単には開かないようになっている。いやまあ開けようと思えばもちろん開けられるだろうが、鈴も付いているし、誰にも気づかれずにこっそり開けるのは難しいだろう。

「あそこ、怪しいですね」

「うむ、よし開けろ」

「僕がですが?」

「私に出来るとでも?」

 ……出来そうだけどな……という言葉は飲み込んだ。まあ見た目は幼女だし、パンツも濡れてるし、そのくらいは代わりにやってあげるのも良いだろう。

 かんぬきは、横にしか引っ張れないタイプだ。上が開いてるタイプだったら持ち上げるだけで済むが、この場合長く引っ張らないとならないから実に面倒だ。

 ……って、結構重いな……!見た目よりだいぶ重い、なるほどこれだとイジッテちゃんには無理な気もする。……見ただけで重さが解ってたのかな……いや、たぶん面倒くさかっただけだろう、パンツも濡れてるんだし。

 チャリチャリは鳴る鈴のうるささに耐えつつも、なんとか引き抜いた。くそう、先に鈴だけでも切り落としておけばよかった。

 ともかく、これでドアが開くハズだ。

 ドアを開けようとした僕は、ふと嫌な気配を感じたが、それを隠して、軽い感じで声をかける。

「イジッテちゃんちょっと来てください」

「なんじゃ、どうした?」

「少し失礼しますね」

 僕は先ほどの戦闘中の事を思い出しながら、イジッテちゃんの背中のチャックを開けて、手を差し入れる。

「ひぁっ!?な、なにをする突然!?ふやぁ!」

「すいません、ちょっと」

「ちょっと、じゃなくて、説明を――――」

 僕はイジッテちゃんの陰に隠れるように身を屈めて、イジッテちゃんを持ってない方の手だけ前に伸ばして、一気に扉を開ける。

「ぎゃっ!!いだだだだだ!!!なになにが起きた!?」

 ドアを開けた途端にトラップが発動し、ドアの向こうから弓矢が何本か飛んできていたが、無事にイジッテちゃんに当たって下に落ちた。

「ああ、やっぱりか。なんか嫌な予感したんですよね」

「だったら言えよそれを!!!」

「だって、盾をかまえる時に盾に対して「この先に罠があるかもしれないから構えておくね」って言います?」

「普通の盾なら言わないだろうねそりゃあ!!けどさ!今まで散々会話してきたじゃん!「あそこ、怪しいですね」とか言ってたじゃん!「ちょっと来てください」って呼んでたじゃん!普通の盾にそれする!?」

「ははは、するわけないじゃないですか。そんなことしてたら変な人ですよ」

「だったら罠の事も言えよ!!今まで人扱いしてくれてたのに急に盾扱いするなよ!確かに盾だけど、でも人みたいなもんだから!」

「以後気を付けまーす」

「ホントだぞ!ホントに気を付けろよ!!」

 会話をしつつも、イジッテちゃんを構えたまま中に入る。

 何が有るかわからないのだから、警戒するに越したことはない。

「暗いな……アンドン」

 光の魔法で辺りを照らす。

「おっ、これはこれは、来ましたね!」

 辺りにはお手本のような宝箱がいくつも詰んである。宝物庫だ!

「これだけあれば、何か着るものもあるかもしれませんね」

「まあ、そうだな。良いものがあるといいけど……」

 まだ他人の服を着るのに抵抗があるのか気は進まないようだけど、それでも二人で宝箱を開けて中を確認していく。

 宝箱とは言ってもカギはかかってなかったので、開けるのは簡単だが……量が多くて一つ一つがそれなりに重いうえに雑多に積んであるので、全部確認するのは骨が折れそうだ……。

「でもまあ、やるか!お宝の為!そしてパンツの為に!」

「間違っては無いけど誤解を招く言い方だな!」

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