第6話

「いやぁ、仕方ない。仕方ないと思うよ今回は、うん」

「はぁー、はぁー、ぜーーーはーーー。おぇっ!げほっげほっ、はぁーーはぁーーー」

「確かに、殴られても仕方ない、僕はそれだけのことをしたよ」

 モンスターの住み着いていた洞窟を出て、洞窟の入り口近くの池で体を清めた直後に始まった、イジッテちゃんによる僕への激しい制裁はしばらく続いたが、僕を殴り疲れたあまりに、四つん這いになり肩を激しく上下させて息を整えているイジッテちゃんに、僕は地面に倒れたまま声をかけた。

「でもさ、そんな呼吸困難で吐き気が出るくらいまで殴るのはさすがにやりすぎだと思うよ?」」

「お前にやりすぎとか言う資格があると思うのかー!!げほげほっ」

「ああ、無い。無いですねぇ。ごめんなさい」

 さすがに幼女の腹に嘔吐したのは、殺されても文句は言えまい。

「私が世界一のムキムキマッチョメンでなく可愛い幼女だったことに感謝するんだな、ムキムキマッチョメンだった日には、お前はもうとっくに死んでー」

「ゴクゴクゴクゴク」

「何だ今の音、なんか飲んだな!?」

「えっ、はい、ポーションを。殴られた傷もすっかり回復!」

「回復すんなぁぁぁぁぁーーー!!!ちっくしょう便利アイテム!研究者たちの頑張りの結果!!傷がすぐに治りやがる!!私の心の傷は治せないのにな!!」

「ごめんて」

「謝罪が軽い!!!私の分のお菓子を食べてしまった、くらいの罪でもその謝り方だったら許さないぞ!!」

 だいぶ怒ってるな……まあ当たり前だけど。

「あーーーもう!パンツがびしょ濡れで気持ち悪い!」

 幸いなことに(?)、着ていたワンピースはめくれあがっていたので、服は汚れずに済んだが、パンツはそうもいかず、体と一緒に洗ったので、濡れてしまっているようだ。

「ごめん、替えのパンツ持ってなくて」

「……私が履けるようなパンツをお前が持っていたとしたら、それはそれでヤバいのでパンツは持ってなくていい」

 許された……のか?

「はぁ……もう街へ戻るとしよう。形はどうあれ依頼は達成したんだろ?じゃあもうさっさと帰るぞ」

「そうだね、そうしますか。じゃあさっそく帰還の羽で―――って、あれ…?」

 ポーチに手を入れた僕は、違和感に気付く……帰還の羽が……ない?

「あっ!そうか!さっき街に帰った時のが最後の一枚だったんだ!補充するの忘れてたー!」

「なんだとー!?おま、お前……マジなのか!?」

「えーと……ごめんちゃい♪」

「可愛く言ってもダメだ!そもそも可愛く無いし!」

「いや違うんだよ。アンネさんのところで買おうと思ってたんだけど、色々あって忘れてたんだよ」

「何も違わないだろ。ただお前の買い忘れじゃろうが!」

「――――――――――本当だ!!」

「このタイミングでそういうノリは本当に疲れるからやめてくれ」

 しかしどうしようか、まあここから街までは歩いてもそれほど遠い距離じゃないから、帰るだけなら時間をかければ問題ないけど、濡れたパンツのまま長距離を歩かせるのは忍びない。

「うーーーん……あっ、そうだ」

「なんだ?まだほかにも忘れ物か?」

「違う違うナイスアイディアだよ。洞窟の中に、なんか着替えになりそうなものあるんじゃないかと思って」

「はっ?なんでモンスターの洞窟に着替えがあるのさ」

「だって、近所の畑を荒らしてたんだよ?畑を荒らしてるってことは、旅人も襲ってるかもしれないし、どこか近くの村とかも荒らされてるかもしれない。その戦利品として、いろいろ持ち帰ってる中に何か着るものくらいあるかもしれないよ」

「えー……しかしなぁ、仮にあったとしてもどこの誰のかもわからないパンツを履くのは……」

「まあ、パンツだったらそうだけど、ゆったりしたズボンくらいはあるかもしれないし、そこにベルトでもあれば、まあパンツ脱いでも歩くのに向いた格好になると思うよ」

「んんんんんんんんーーーー」

 色々と葛藤があるのか、頭を抱えてしばらく考え込んでいたが――――

「まあ、とりあえず見てみるか。何かあったら儲けもんだ」

 びしょ濡れパンツのまま長時間歩く事への嫌悪が勝ったのか、覚悟を決めたようだ。

「よし、じゃあ行きますか。僕としても、お宝でもあったらいろいろ助かるし」

「そっちが本音か……」

「やだなぁ、パンツとお宝、どっちも本気だよ?パンツはお宝だよ!」

「別の意味に聞こえるんだが……」

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