6 皇女の実力(1)
家族との会食が終わった。
シエルは、最善の結果ではなかったが、とりあえず一つイベントをクリア出来たので良しとした。そして同じ道筋を
「タタロナは私がどの部屋に住んでいたか分かる?」
「いえ、私はつい最近姫殿下様の
ん、やっぱりかとタタロナの返答を聞いたシエルは思った。もうちょっと年かさの侍女じゃないとシエルの幼年期なんてわからないだろう。年齢的に。とりあえず椅子に座って、シエルは先ほど会った家族について、考えてみることにした。
ムルニッタ父上。
ゲームでは勇者と
イゼルネ母上。
ゲームではムルニッタ父上の参謀役といった役割だった。勇者に対する計略とか
ジャリカ兄上。
シャカル兄上。
ゲームでは主に内政を担当した。そんなわけで、ほとんど勇者と接点がなかった。武力的には大したことがなく、戦場で出会っても
ブルセボ兄。
ゲームではボーナスシナリオで出てくるのみ。それも城主としてだけで、その城が落ちると行方不明になり、以後ゲームには登場しない。謎人物。ただひとつ、今日会って分かったことは、調子に乗らせるとどこまでも調子に乗るタイプだってこと。叩いて
時刻はそろそろ第五刻半(午前十一時)になるかとシエルには思われた。時計など支給しては貰えまいかと、つい左腕を
扉が開いてタタロナとイェーナが姿を現した。電話帳くらいの見るからに分厚い本を四、五冊持って入ってきたのだが、それをシエルが座っている前の机の上にどさどさと置いた。シエルがこれは何? と聞くとタタロナは、
「これは『貴族年鑑』と言って、姫殿下様の帝国の、全貴族の情報が記されている名簿です」
と無表情で答えた。シエルの口元が思わずひくりと
「これ、全部覚えるの?」とシエルが半信半疑でタタロナに
「さようで御座います」と
「……全部?」とシエルが念を押すと、
「さようで御座います」と声色も変えずにタタロナが答える。
「
「そのような嘘は申し上げません」と声色も変えずにタタロナが答える。
がっくりと
「ぐぬぬではありません。さっさと覚えて下さい」
手の届かない距離で口笛を吹いているイェーナを横目に(後でしばく)と決意したシエルは渋々と貴族名簿を開いて眺め始めた。
「全てを覚えるには時間が足りませんので、その貴族様の御当主名、配偶者名、御子様名、現在の
うへえとしかめつつ
ぺら、ぺら、と頁をめくってみると、やたらと本が分厚いのは紙自体が厚いからだと分かった。この世界の製紙技術はまだまだ未熟だと思われた。それで思ったより頁はないようなので、これならばいけるかと記されている文字を追っていると、シエルはあれ? とふと思った。年鑑の頁を眺めていると、やけにすんなりとその内容が頭の中に入ってくるのだ。しかもそれは脳みそに焼き付けられたかのように、シエルの頭の中にくっきりと残っている。
(あ、れ? 私ってこんなに記憶力良かったっけ?)
シエルは
ぱたんと閉じた年鑑の裏表紙をしばしぼーっと眺めつつ、はっとしたシエルはそれを脇に
しばらくののち。
両手をだらんと下げ、椅子の背もたれに寄りかかって放心しているシエルを部屋に戻ってきたタタロナが発見した。タタロナはふうと息をついて言った。
「姫殿下様、早く覚えていただかないと困ります」
それに対して全然反応しないシエルに、タタロナがもう一度声をかけようとした時、シエルの口が開いた。
「覚えた」「は⁉」
――わずかな
「今、何と?」
「だから、覚えた――全部……」
再びの静寂。一瞬固まっていたタタロナだったが、積み重なっている分厚い年鑑の中ほどから一冊抜き出すと、ぱらららと頁をめくって止め、そこに記されている文字を声を出して読み出した。シエルに向かって。
「ゲラン
それを聞いたシエルは気だるげだったが、タタロナの読んだ後を引き
「リジャーノ・ゲラン男爵、
タタロナはその年鑑を机の上に置き、別な年鑑を手に取ってめくりつつ言った。
「ニアイス伯」
「セアド=バルピ・リョザ・グル・ニアイス伯爵。
タタロナはまたその年鑑を置いて、別な三冊目を拾い上げる。ぺらりとめくり、声を出す。
「アレストレア公。略歴まで」
「グニェル・エイツ・ラ・ファファー公爵。魔人族。セラリュート・ライラ・ファファー公爵夫人との間に三男二女を儲ける。四一一年スタプルコフ生まれ。四三〇年帝都大学入学。四三八年財務局入局。四四八年一等助監査。四五四年二等主監査。四六〇年一等主監査。四六四年二等主計事官。四六八年一等主計事官。四七二年財務一区長官。四八〇年財務総監。四八六年財務大臣。四九二年宰相就任。四七〇年帝室顧問会議委員。四七六年帝室顧問会議理事。四八四年帝室顧問会議議長就任。四八六年帝室顧問会議議長退任――」
「あ、もう結構です」
タタロナはぱたんと年鑑を閉じると、一度目を伏せ、
「信じられませんが、どうやら本当のようですね。合格です」
そう言うと年鑑を
「あだあっ! 何すんのさっ!」
とイェーナは頭をさすって跳ね起きた。そして見下ろしているのがタタロナだと知ると、急にもじもじして、えへへと笑い、長椅子の座り
「お疲れさまでした。しばらく休憩にして、第六刻(午前十二時)にお茶にしましょう」
タタロナは年鑑を片付けてきますと部屋を出て行った。シエルは寝台に横になった。イェーナが、姫様って頭良いんだねと言うので、シエルが頭を強く打てば良くなるよと返したら、ボクはいつもタタロナに
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