捌
俺は急いで洋館に戻った。だが、玄関はくぐらない。
(終わりにしてやる! 例え不名誉を被ってもな…)
手には、灯油の入ったペットボトルとライター。
放火犯になって逮捕されてもいい。勝手に妹を持っていった報いを受けさせてやる。
俺には、迷いや躊躇いはなかった。
灯油を洋館にばら撒くと、ライターで点火した。こんな森の中じゃ、消防車は間に合わないだろう。
勢いよく、炎は燃える。焦げる匂いを嗅ぎ、熱さを感じるとと俺は後ろに下がった。でもまだ逃げない。『何者か』がこれを、一人殺せばボヤで済ませるかもしれないから。
数十分経っても消防は現れなかった。洋館の半分以上が焼け落ちるのを確かにこの目で見た。
(ざまあみろ、『何者か』…。お前のせいで宵家はもう、俺を含めても三人しか残ってない)
栄華を極めた宵家も、もう終わりだ。俺は『何者か』に殺される前に、手を打った。
洋館には、家族が残っているかもしれなかった。だが、もういい。俺と、どうせすぐに代償にされるであろう若い女、ここに住むと決めた一族のリーダーしか残っていない。たったの三人じゃ、『何者か』の前では一カ月も持たないだろう。
森から出ると、何とか言いくるめて雲雀の家に泊めてもらうことになった。
だが、様子がおかしい。テレビをつけていても、新聞を読んでいても、洋館の火事がどこにも報道されていないのだ。
(あれだけ派手に燃えたのに、どうして? 誰も気づいてない? いや、ありえない。いくら森の中に佇んでると言っても、人目につかないわけじゃない。第一、火事が人の目に入らないわけがない!)
俺は確かに、洋館が焼けるのを見た。そもそも火を放ったのは俺だ。
だが気づくと、森に向かっていた。あの洋館がどうなったのかを確かめなければいけない気がしたのだ。
(見る必要なんてない! 俺が放火した張本人だ。あの洋館はもう、存在すらしてないはずだ……)
だが俺の目に飛び込んで来たもの。それはあの、洋館だった。
静まり返った森の中に、ひっそりと建っている洋館。まるで何事もなかったかのようだ。本当に何もなかったのかもしれない。火事が起きる前の状態で、そこに存在している。
しかも、空き家になっていたのか、新しい住民が見学に来ているのだ。
(宵家は? あと二人いたはずだが、どうなったんだ?)
俺の思考回路は停止した。その住民たちが洋館に入っていく時、屋根の上に『何者か』がいて、手招きしていたのだ。
表しようのない恐怖を覚えた俺は、逃げるように本土を去った。
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