その後もしつこく何か起きるたびに『何者か』は俺に代償を要求してくる。もちろん鬱陶しいことこの上ないが、家族に犠牲が出ているのにさらなる富を得ようとする宵家にうんざりもしていた。

「高校に進学すると同時に、一人暮らしがしたい…」

 俺は無意識のうちにそう呟くほど、呆れていたのだ。

「カンガエテヤロウ」

 それを『何者か』が聞き逃すはずがなかった。

「誰か、差し出せと?」

「チガウ。イツモオナジジャツマラナイダロウ? オマエハシュウマツニハカナラズカエッテクルンダ。カエッテコナカッタラ、ヒトリイタダク。カエッテクルナラ、イママデドオリダ」

『何者か』は、休みのたびに洋館に戻ってくるよう俺に言った。従わなければ多分、宵家は社会的には躍進するのだろうが、家族に不幸が訪れる。

 何て奴の存在を、俺は察知してしまったんだ。

 俺の一人暮らしには、家族は誰も反対しなかった。反対するような人は、既に洋館にはいない。そして一人暮らしは始まるのだが、休みは必ず洋館に行く。だから自立しているのかそうでないのか、あやふやだった。


「イイシャシンダナ?」

 俺は写真部に入り、活動していた。『何者か』はそれにすら首を突っ込んでくるのだ。

「ゼンコクテキニユウメイニナリタクハナイカ? オマエニソノキガアレバ、カメラヒトツデクッテイケルヨウニナレル。ドウダ?」

『何者か』の思惑には気づいていた。どうしても俺の口から、妹を差し出させたいんだ。それを待っているんだ。

「興味がない」

 俺は断った。妹を死なせたくないし、有名人になりたいとも思わない。それが『何者か』には気に食わなかったのだろう。宵家が出資していた会社が、より儲かる方法を編み出した。同時に俺の父親は、薬物中毒で他界した。


 俺の高校生活は、至って普通だ。

 一つ変なところがあるとするなら、三年間で身内が大勢死んだところか。忌引きを何度使う羽目になるのか、俺にすらわからない。

「あの洋館にいさせるわけにはいかない」

 俺は妹に無理を言って、同じ高校に入らせた。そして一人暮らしも始めさせた。妹は何も知らない。だから『何者か』も、何もしないはずだった。

 だった、と言うのも、妹は俺が高校を卒業すると同時に自殺してしまうからだ。

 理由は不明だった。いじめられていたわけでもなければ、失恋したわけでもない。学校は何度も調査したし、俺は妹の日記にも目を通した。生活や勉強、人間関係で困っている様子は一切なかった。

 だが俺は、なぜ妹が死んだのかを理解していた。断っておくが自殺を選ばせた原因をわかっているのではない。

 同じ時期、宵家の若い女に大企業の跡取りが交際を申し込んでいた。

 妹は、栄光のための代償にさせられたのだ。

「あのヤロウ…。妹にだけは手を出すなって言ったはずなのに…」

 俺は、致命的な勘違いをしていた。『何者か』のことをコントロールしているつもりで実は、手の平で踊らされていただけだったのだ。『何者か』は、不幸の味を知っている。俺の悲しむ顔を、見たい。それだけだ。アイツにとって人の命など、気まぐれでどうとでもなる。そんな危険な存在を、勝手に牽制できていると思っていた。

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