陸
そんな雲雀が交通事故に遭ってしまう。信号無視の車に跳ねられたのだ。当然俺は嘆いた。雲雀に対し、何もしてやれない己の無力さに腹が立ったほどだ。
だが『何者か』は、心を揺さぶるのが恐ろしいくらいに上手だった。
「タスケタイノカ、オマエノキモチハイタイホドワカル。ダカラコンカイダケトクベツニミトメテヤロウ。タスケテヤルヨ」
「ということは、やはり…?」
「ハナシガハヤクテタスカルナア。サアサア、ダレヲダスンダ? ソウダヒトツ、テイアンダ」
『何者か』は、意識不明の雲雀を助けることを約束した。だがそれには重すぎる条件が付いていた。
「ヒヒヒ。ヨイケノナカデ、オマエニチガチカケレバチカイヤツヲダスナラ、ジコマエノケンコウテキナジョウタイニモドシテヤロウ。チガトオイヤツヲダスナラ、ケガハナオッテモイッショウショクブツジョウタイダロウナ」
雲雀を助けるなら、恐らく相当の代償を払わなければいけない。俺は『何者か』は、妹を差し出すことを期待していると直感した。
「…………………母親は、どうだ?」
苦渋の選択を迫られ、とうとう俺は親を片方、出してしまった。
「………フム。マアイイダロウ。シカシカワイソウダナ? ソンザイイギガユウジンニマケルハハオヤトハ。ソウハオモワナイカ?」
「うるさい! 早く雲雀の怪我を治せ!」
「アセルナヨ。アシタ、シュジュツデスベテウマクイク。ダガオマエノハハオヤハ、ゲンカンヲデタガサイゴ、ニドトイエニカエッテハコナイ。イイナ?」
俺は黙って頷いた。平然と親を売る自分が、悪魔に思えた。
一週間も経てば、雲雀は奇跡以上に回復し、まるで事故が嘘であったかのように元気になった。
だが俺の父は、母の捜索願を出すことになった。そして『何者か』の言った通り、帰ってこなかった。
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