ある時、家族が騒いでいた。ライバル会社が可愛がっていた、柊造船所という企業の豪華客船、ガンガリディア号が沈んだのだ。宵家は柊造船所に出資はしていない。だからダメージは受けずなおかつ、ライバル会社は倒産に追い込まれた。これでまた、利益を得たのだ。

 洋館で夕食を食べていると、『何者か』は隣で囁くのだ。

「ドウダ? タニンノフコウハイイアジダロウ? オマエハワカッテイルトオモウガ、エイコウハダイショウガアッテコソ。ダレヲイタダコウカナ…?」

「妹だけは勘弁してくれ…」

 俺はそう言った。言い換えれば妹以外の家族は誰でも死んで構わないという言葉。

「ンン、ソウカ。オマエモカゾクデイチバンシタシイイモウトハオシイカ。ダガソウイワレルト、エラビタクナルノガサガッテモノダ」

「……」

 絶望が俺を包んだ瞬間だった。

「マ、イイダロウ。ココハヒトツ、オマエノキボウヲキイテヤル」

「ふ、ふう」

「ナニヲアンシンシテイルンダ? サア、シメイシロ。ダレナラサシダセル? イッテミロ」

『何者か』は、俺に希望を与える気などなかった。俺がその存在を知ってしまったからなのか、執拗に精神にダメージを与えることをしてくる。

「従兄の親なら…」

「ダヨナア、エラブトオモッタゾ。ダッテオマエトチガツナガッテナイ、アレハヨメニキタダケノアカノタニンダモノナア? ヨロシイ、タノシミニマッテイロ」

 ほどなくして、従兄の母は通り魔に遭い、刺されて死亡した。

 差し出してしまったことを俺は後悔したが、同時に、『何者か』に睨まれているのだから、この洋館にいる誰かが死ぬだけだった、妹は守れたと自分に言い聞かせた。

 だが宵家は余計なことに、柊造船所に融資を申し出て、自分の子会社にしようとしたのだ。

「ダレダ? イッテミロヨ」

 俺は、差し出さないという選択肢を選んだ。すると、

「ダイショウナクシテエイコウナシ。カシコイセンタクダトオモワナイコトダナ」

 誰も死ななかったが、子会社の話も流れた。

 誰かが死ななければ、宵家は進歩できないことがわかった。

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