伍
ある時、家族が騒いでいた。ライバル会社が可愛がっていた、柊造船所という企業の豪華客船、ガンガリディア号が沈んだのだ。宵家は柊造船所に出資はしていない。だからダメージは受けずなおかつ、ライバル会社は倒産に追い込まれた。これでまた、利益を得たのだ。
洋館で夕食を食べていると、『何者か』は隣で囁くのだ。
「ドウダ? タニンノフコウハイイアジダロウ? オマエハワカッテイルトオモウガ、エイコウハダイショウガアッテコソ。ダレヲイタダコウカナ…?」
「妹だけは勘弁してくれ…」
俺はそう言った。言い換えれば妹以外の家族は誰でも死んで構わないという言葉。
「ンン、ソウカ。オマエモカゾクデイチバンシタシイイモウトハオシイカ。ダガソウイワレルト、エラビタクナルノガサガッテモノダ」
「……」
絶望が俺を包んだ瞬間だった。
「マ、イイダロウ。ココハヒトツ、オマエノキボウヲキイテヤル」
「ふ、ふう」
「ナニヲアンシンシテイルンダ? サア、シメイシロ。ダレナラサシダセル? イッテミロ」
『何者か』は、俺に希望を与える気などなかった。俺がその存在を知ってしまったからなのか、執拗に精神にダメージを与えることをしてくる。
「従兄の親なら…」
「ダヨナア、エラブトオモッタゾ。ダッテオマエトチガツナガッテナイ、アレハヨメニキタダケノアカノタニンダモノナア? ヨロシイ、タノシミニマッテイロ」
ほどなくして、従兄の母は通り魔に遭い、刺されて死亡した。
差し出してしまったことを俺は後悔したが、同時に、『何者か』に睨まれているのだから、この洋館にいる誰かが死ぬだけだった、妹は守れたと自分に言い聞かせた。
だが宵家は余計なことに、柊造船所に融資を申し出て、自分の子会社にしようとしたのだ。
「ダレダ? イッテミロヨ」
俺は、差し出さないという選択肢を選んだ。すると、
「ダイショウナクシテエイコウナシ。カシコイセンタクダトオモワナイコトダナ」
誰も死ななかったが、子会社の話も流れた。
誰かが死ななければ、宵家は進歩できないことがわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます