香織からメールが来た。前に科学館の三階を見れなかったから、案内して欲しいとのことだった。

「森下、また閉館後に…」

「任せておけ。簡単に誤魔化せるぜ。だが今度はぶっ倒れても知らねえぞ」

 話が早いと助かる。香織には閉館してから来てもらうことになった。

「そんな心配はいらないよ」

 でも、なぜあの時倒れていたのかは、未だわからない。


 日が沈んだ頃に香織はやって来た。

「遅れてごめん! テストの採点がなかなか終わらなくて」

「ちょっと暗いけど、全然大丈夫だよ」

 今日も森下に頼んで、学校の先生が勉強のために見学に来ていることにしてもらった。

 電気は必要最低限しかついてないので、館内は薄暗い。

「昼間は子供達が集まって、騒いでいるんだ。遊びながら化学を学べるいいところだよ」

 説明しながら二人きりで三階を回る。一応展示が動くための電気は供給されているので、一つ一つ解説しながら香織に体験させた。

「面白いわね、大人になっても」

「と言うと?」

「私は仙台出身だから、子供の頃ここに来たことがあるの。その時もみんなで遊んだわ。あの時はもう来ることはないと思ってたけど、未来はどうなるかわからないね」 

 香織がいい終わったその時だ。

「許せない…」

 と、声がした。

「何今の?」

 俺も香織も周りを確認するが、誰もいない。じゃあ誰の声だと思ったら、急に俺の意識が遠のいた。

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