漆
「一つ疑問に思ったんだけど、その子は本当に生きているの?」
俺は入飛に聞いた。人を呪わば穴二つとよく言うからだ。
「生きているよ、確実にね」
彼は自信満々に返事した。その根拠は、毎年送られてくるという葉書であるらしい。
「年賀状は律儀に書くのか…。何か、変わって…」
「年賀状? 違うよ」
「はい? だってじゃあ何を毎年送りつけるって?」
入飛はカバンからそれらを取り出した。
「喪中だよ。公美来は転校してからというもの、毎年身近な誰かが亡くなっているんだ。例外なく毎年ね。そのおかげで今年も、年賀状が送れないってまつりは嘆いている」
俺はその内の一枚を手に取った。それには、典型文以外に手書きの文章が書かれていて、マガタマヲトコの内容と、
「……鉄と銅を使った新しい呪術を編み出したわ。とても簡単だけど効果はてきめんよ…」
と書かれていた。
「氷威さん。僕が疑ってならないことが一つある。それは、あの時公美来が行った呪いは、本当に二つだけだったんだろうか? 両方とも他人に見られている。でも呪いは公美来を襲っていないんだ」
「それは違うと思う。聞くだけだと彼女は、誰かを呪うことで呪われた人生に他人を巻き込んでを楽しんでる…。少なくとも俺には、そう聞こえる…………」
こんなことを言うのは可哀想だが、霊園公美来は呪われている。呪いは返ってこないんじゃない、最初から既に手遅れなのだ…。
「でも、入飛の言うように俺も呪いが二つだけだったとは思わないな。きっと他にもあったに違いなくて、誰にも探せなかったんだと思う。もしかしたら丑の刻参りと生け贄の呪いは、初めから誰かに見せるためのダミーだったのかも…」
入飛は唾をゴクリと飲んだ。
人間は文明を発展させてきた。だが同時に感情も持っているために、複雑な心理も生まれてしまう。それが呪いなのだ。科学が進歩し続けるように呪いもまた、進化し続けるのだ。そして公美来からの喪中葉書は、その経過報告でしかない……。
霊園公美来。血塗られた運命に抗うのではなく、自らも血を浴びて人生を歩み続けるのだろう。もし彼女に俺が会えたとしても、その暗黒の道から彼女を救ってやれることはできそうにない。
「入飛、彼女の幸せは願っているかい?」
彼は一応、頷いた。
「なら…それがいつの日か、救いになるかもしれない。俺の代わりに願い続けるんだ」
俺は入飛に、それしか言えなかった。
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