陸
二カ月も経っていなかった頃だ。急に公美来の転校が決まった。クラス中が大騒ぎだったのは、学校一の美少女が教室を去ってしまうからではなく、その原因にあった。
公美来を除く霊園家の人が全員、交通事故で死んだらしい………。
保護者の間でも噂になっていたほどだ。何でも車で移動中、高い橋から車ごと転落したとのこと。新聞やテレビでも取り上げられた、大きな事故だった。
しかも聞いた話だと、遺体は人間の形をしていなかったらしい。どれが誰の何の臓器なのかすらわからないぐらい現場は悲惨だったようだ。
公美来は幸い、その車に乗っていなかった。一人だけ家に取り残されていたのだ。
クラスメイトはみんな、公美来の無事を喜んだ。中には慰める人もいたし、担任は事故について公美来に聞かないようにと注意を換気したぐらいだ。
でも僕とまつりには、それがただの事故でないことをわかっていた。ここまでくると、呪いじゃないと考える方が難しかった。だから僕とまつりは、「公美来が家族を呪い殺した」という認識を持っていた。でも呪いで人が本当に死ぬかと言われれば、縦に首を振れない。だからいつも通り公美来と接した。もしかしたら僕たちは無意識のうちに、自分も呪い殺されたくないから、公美来を刺激しない方がいいと思っていたのかもしれない。
霊園家の親類は、県内にはいなかった。公美来は孤児院には戻らず、その親類に引き取られた。だから転校したのだ。
遊ぶことができる最後の日に公美来は僕とまつりを誘った。遊園地に三人で行った。僕もまつりも内心ではビクビクしていたが、何とか頑張って表には出さなかった。でもお化け屋敷は避けた。
ジェットコースターに乗ったり、射的で遊んだりと、恐怖を忘れるために楽しんだ。
そして最後に観覧車に乗り込んだ。
半周する頃には、雑談は途切れてしまっていた。するとこのタイミングを待っていたのか公美来が突然、「二人とも、もう知っていると思うわ。でもしばらくは黙っててちょうだいね。約束よ。あなたたちなら、心の底から信じられるわ。だからどんなことがあっても、呪わないであげる」と言って笑った。
その時に見せた笑顔は、前にボウリングで見せたのと同じ表情ではあったけど、何かが違った。
あの笑顔は、完全にマイナスに染まっていた。言わば、負の笑顔。純粋な幸せさえも察してやれないその顔を、未だに僕は忘れられない。だってそれが最後に見た笑顔だったから…。
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