異変は一ヶ月後ぐらいに起こり始めた。まつりも誘って公美来と遊ぼうとしたのだけれど、断られた。塾か習い事でも始めたから、忙しくなったのかと思いきや、そうではないらしい。

 では、どうして遊べないのか聞いてみたが、公美来は答えてはくれなかった。そんなことが続くにつれ、公美来の顔が疲れきった様子に変わっていく。

 僕はまつりに相談すると、まつりも公美来のことを心配していた。もしかして、新しい親と上手くいってないんじゃないのか? そんな疑問を抱いたけれど、それを公美来に聞くのはさすがに躊躇った。だから僕とまつりは説教を覚悟で学校をサボったり仮病を使ったりして、素人探偵みたく様子を観察することにした。

「そこで驚いたんだけど…。里親には実の息子が二人いた。普通に考えれば、子供がいても養子はもらえるから、何も怪しいことじゃない。でも当時僕はてっきり、里親は子供が欲しいのだけれど産めない体質だから公美来を引き取ったと思っていた。でも違ったんだ」

 実の子供は二人とも男。なら女の子が欲しかったんだと僕は考えた。でもまつりからあることを聞いたら、その考えも捨てた。

 プールの時間の話だ。公美来は名字が変わってから、見学ばかりしていた。それを変だと睨んだまつりは着替えの際に公美来の服を少し脱がせた。そしたら、体にいくつかのアザがあったらしい。

「まさかって思ったね。児童虐待……。アザを見られた公美来はまつりにだけ特別に、家で何が起きているのかを教えた。僕は内容を聞いてないけど、まつりによれば到底許されることじゃないって」

 僕は、何とかしなければいけないと思った。子供に何ができるか、できることなんてないんじゃないのかって思うけど、僕が行おうとしたのはいたってシンプルで、里親に直談判だった。

 何を言われてもいい覚悟だった。大切な幼馴染が傷つくことが僕はどうしても許せなかった。

 でも直前になって、どこから聞いたのか公美来が、それはやめてくれと僕に泣きついてきた。

「後でわかったことなのだけれど、公美来が里親に引き取られる前の孤児院は完全に火の車で、次の日の経営すら怪しいレベルだった。そこで霊園の親は、無償の融資を申し出た。でもその条件が、院で一番綺麗な子を差し出せと…。公美来はそのことを、僕の直談判前に知ったんだ。孤児院の子供たちに辛い思いをさせたくない。公美来はそう思っていた」

「そんなに酷いことが? 俺も孤児院の出だけど、それは許せない…」

「そうなのか。でもね、僕はその時に諦めると同時に捨て台詞を吐いた」

 公美来をこんな目に合わせる奴らなんて、不幸になってしまえばいいのに、と。

 それを聞いた公美来は目の輝きを一瞬で取り戻して、「それはいい考えだわ!」って言った。何で瞳に灯がついたのかは、次の日にはわかった。

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