続・その三 都合の悪い未来

「失礼。藤井ふじい海百合みゆりというのは君かい?」

 メガネに三つ編みのお下げで、いかにも地味で、でもどこか可愛げのある女子大生は頷いた。

「遅かったね。永遠に来ないのかと思った」

「おいおい、俺がそんな冷たい人に見えますか?」

「見える」

 海百合はなんと即答。この子の方が冷たく感じるんだが…? それこそ氷河期が来た感じだ。

「そういえばここ、長崎も原爆で有名だよね。広島に行った時は原爆ドームがあったけど、ここにはそういうのはないの?」

「原爆ね…」

 ひょっとして俺は、踏み込んではいけない何かを見事に踏み抜いた? だとすれば、謝らなくては…。

「ちょうどそれに関する話がある。アタシの祖母の話」

「そうか。身内に被爆者がいたんだね、それは失礼なことを聞いた…」

 しかし海百合は首を振るのだ。

「祖母は世紀が変わる前に死んだけど、被爆者じゃない。とある理由で原爆を避けることができた」

「とある、理由?」

 海百合は懐から、一通の封筒を取り出した。

「これは祖母が書き残した手紙。これには不思議な体験が綴られてる。キミに特別に聞かせてあげる。七十年前に一体、何があったのかを」

 封筒から便箋とを取り出した。海百合のその行為は、俺を戦時中にタイムスリップさせた。

「私、藤井貴子は、誰かに言っても理解されないだろうから、私の体験をこの手紙に書き残します……」

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