「だから言っただろう? 一番怖いのは人間だ。私は真壁と同じ、自分のためなら他人なんてどうなってもいいと考えている、自分勝手な奴だ。ある意味、一番人間らしいのだがな」

 福田はそう言った。氷威は、

「でもその話が本当なら、俺が警察に通報したらあなたは、逮捕されるのでは?」

 脅そうと思ったわけではない。氷威としては、仮に本当なら色々とやばい気がするのだ。

「証拠がないよ。私が2人に嘘の道を教えたと、何で証明するんだい?」

 福田の言葉に、氷威は黙り込んだ。録音もしてないんじゃ、彼の言う通り証拠にすらなりえない。

 福田へのインタビューはそれで終わった。


「…………」

 ところでこの話、なぜ没にしなかったというと、ちゃんと理由がある。それはさっき届いたメールだ。


 メールの送り主は、福田佑希子ふくだゆきこ。福田の奥さんだろうか? だとすると、かつて苗字が亀井だった人だ。


 主人から話を聞きました。

 私と主人だけの秘密です。

 疑わせません。だって本当のことなんですから。


 メールの内容は要約するとそんな感じだ。福田が奥さんに、氷威に話したことを教えたところ、氷威が信じてなさそうだったから、奥さんがメールを出したと思われる。


「待てよ?」

 亀井は例のホテル火災の前に、福田と一緒にホテルを探索してたはずだ。

 亀井が真壁たちを見かけたのは、福田に違う道を教えられた後。

「見かけたときに、間違いを指摘しなかった?」

 あの時、真壁たちは亀井の存在に気がつかなかったらしい。でもそれは、福田が実際に目にしたことではない。福田が、亀井から聞いただけだ。

 友人とすれ違っても無視したのか? 緊急事態でも? 真壁はそれに対処できるはずなのに?

「もしかして、亀井はホテル火災で真壁たちとすれ違った時に、少し話をしたんじゃないか? 福田を探しに行くとか」

 加えて、逃げ道は間違っていないと、言ったんではないだろうか。

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