2人は新婚旅行に向かった。お互いに贅沢する気がなかったので、旅行は二泊三日と短く、しかも温泉に浸かるだけと簡単なものだった。

エオスというホテルに泊まった。このホテルは値段の割には大きい。初日は2人で、ホテルの中を隅から隅まで探索したほどだ。どこにどの温泉があるのか、階段はどこに繋がっているか、売店では何が何時まで売っているか、一番安いレストランはどの階にあるのか…。馬鹿馬鹿しいことを2人で探り、楽しんでいた。


 だがそれも長くは続かない。二日目の夜、真壁と谷川がエオスにやってきたのである。

「偶然だな。俺たち、今着いたところだぜ」

「2人とは、3年ぶりだね。幸せ分けてもらいたいぐらい!」

 嘘だ。真壁は福田と亀井が幸せになるのを心地よく思っていないはず。だから、邪魔しに来たのだ。幸いにも亀井があの日のことを知っていることは、真壁はわかっていない。だから亀井が何かされる心配はなかった。むしろ福田は、自分が何かされるのではなかいと疑っていた。

 だからできるだけ真壁たちとは一緒にいたくなく、四人で食べることになった夕食も早々に切り上げた。


 福田は、どうすれば亀井が不愉快に思わず、かつ真壁たちから逃げられるかを考えていた。ホテルの廊下や階段を行ったり来たり。自室に戻ることもできたが、いざという時に逃げ道がなくなるのでそれはしなかった。

 しかし、何も思い浮かばない。相手が犯罪者だから? 違う。

 計画が多少粗くても、それを補うことができることが、真壁の一番恐ろしい点だ。実際にあの夜、間違えて大嶋を殺した時も、すぐに本来の対象である伊藤を殺し、騒ぎ出した角野の口も封じた。本当なら自分も、殺したかったに違いない。

 でもしなかった。真壁と同じことを言ってくれる人がいなくなるからだ。現に殺すと脅された福田は、他の人に真壁と同じ内容を話したのだから。福田なら自分と口を揃えてくれる、真壁にはその確信があったのかもしれない。だから自分が誘われたのかも…。

 だとすると、何もかもが計画の内? ずさんと感じたのは間違いなのか。

 自分は真壁の手のひらで生かされているにすぎない。抗うことは許されない。それをしようものなら、死が待っているだけだ。


 そんなことを考えながら福田が歩いていると、火災警報器が鳴った。

「なんだ?」

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