当地では2つのバンガローに泊まることになった。福田は伊藤と谷川と一緒だった。これは彼が望んだのではなく、真壁に二人を監視するよう命令されたからだ。

「谷川が1人きりになったらすぐにこっちのバンガローに知らせに来い」

 真壁から言われた言葉だ。歯向かったら何をされるのか…。怖くて従うしかなかった。

 2日目の夜、その時が来た。伊藤はバンガローの外だ。福田はすぐに隣のバンガローに向かった。

「真壁なら、散歩に出かけたよ」

 大嶋がそう答えた。自分に監視していろと言ったはずなのになぜ? 福田はもう一度外に出て真壁を探した。

 寒い冬の夜。自分以外には誰もいないのではないかと感じさせる夜道で、

「これぐらいなら、いいだろう」

 真壁の声が聞こえた。福田は声の方向に走ると、雪をかき分けて穴を掘っていた真壁を見つけた。

「これは、何?」

「お前には関係ない。伊藤をここに連れて来い」

 と言うのだ。しかしこんなところでスコップを片手に、人が1人入れそうな穴を掘っていることが、何ともないはずがない。

「言わないから、教えてよ」

「無理。いいから速くしろ!」

 真壁の大声に驚いた福田は、自分のバンガローに戻った。そこには谷川と亀井が話をしていた。伊藤はもう片方の、大嶋のいるバンガローにいた。

「い、伊藤…。真壁が呼んでるよ。もしかしてそろそろ見れるんじゃないかな…?」

 事前に誘い文句は、真壁に教えられていた。伊藤は何も疑わずに立ち上がった。

「なら、僕たちも見に行こう」

「そうね」

 ところが、今の台詞に大嶋と角野も反応する。

「外、結構寒いんだよな。大嶋、上着が余ってるなら貸してくれない?」

「いいよ。ところで、谷川さんと亀井さんはどうする?」

「オーロラが確認出来たら呼べばいいわよ。そうじゃないと寒いのに出るだけ無駄じゃん?」

(二人がついてきて、いいのか? そもそもどういう予定なんだ…?)

 何も教えられていない福田には、その時にはわからなかった。


 真壁がいた場所に、彼らを案内する。

「真壁? 真壁?」

 だが肝心の真壁がいない。さっきは確かに、ここにいたはずなのに…。

 空を見上げながら、大嶋が大きな声で、

「真壁ー。全然オーロラ、見えないじゃないか? どうなってる?」

 伊藤と角野も、キョロキョロして真壁を探している。福田は何が起きるのか、どうすればよいのかがわからず、寒さもあって凍りついていた。

 突然、足音が近づいてきた。真壁だ。真壁がスコップを掲げ、勢いよくこちらに近づいてきた。そしてそれを、振り下ろす。

「うぐっ!」

 声を上げて倒れたのは、大嶋…。ことは一瞬だったが、福田は真壁が伊藤を殺すつもりであったことを知った。そして間違えて大嶋を手にかけたのだ。

「お、おい、真壁?」

「動くな!」

 真壁はすぐにスコップを持ち直し、伊藤目掛けて振った。鈍い音を立てながら伊藤は崩れ落ちた。

「ったく、手間かけさせやがって」

 一度に2人も殺めておきながら、真壁はそう発言した。

「大嶋君? 大丈夫? ちょっと、返事して!」

 角野が大嶋の体をさすりながら言った。

 福田は何もしゃべることができなかった。そのまま後ろに下がろうとしたが、真壁が睨んできたので足も止まる。

 次は自分なのか…。体の震えが止まらない。

「あんた! 何てことするのよ! こんなの計画になかったじゃない!」

 角野が真壁の胸ぐらを掴んで叫んだ。どうやら予定外のことが起きているらしい。

「ああ? 邪魔する方が悪いんだよ」

「何ですって?」

 それ以上を福田は見ていることができず、目を背けた。直後に悲鳴と何かが倒れる音が聞こえた。

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