伊藤とは常に一緒にいたわけではなかったらしい。だから福田は、一部の人が話している噂話を耳にしたことがあった。

「伊藤は女たらしらしい」

 出だしだけで真っ赤なウソとわかる話。他にも色々と、根も葉もない話を耳にした。なんでもこれは、伊藤と彼の彼女を別れさせるために意図的に流されていたんだとか。

「それは…」

「うるせえ。文句があるのか?」

 その噂を率先して流していたのが真壁まかべ。伊藤の彼女である、谷川たにかわを入学当初から狙っていた。

 福田は噂を止めようとしたが、真壁に直接脅されて怖くなり、できなかったそうだ。

 しかし真壁の思惑とは裏腹に、二人の関係にヒビが入ることはなかった。だから更なる噂を流すことになる。福田が後輩に、伊藤について尋ねた時に帰って来た返事は酷い…というよりも別人の話を聞いているようだった。


 業を煮やした真壁は、あることを提案する。

「キャンプに行こう?」

 真壁の話によれば、海を越えて北海道に行けばオーロラを見ることができる。もちろん確定ではなく条件と運次第だが…。

 伊藤と谷川はこれに乗った。それもそのはずで、噂の発信源が真壁であることは口止めされていたから、伊藤は真壁を疑うことができなかったのだ。

 でも念には念を。真壁の本来の目的と予め決めていた計画がどのようなものであるかは、はっきりとはわからない。でも福田は、自分がメンバーに選ばれていたことから、伊藤に警戒されることを心配していたことだけはわかっていた。

 冬休みの空港に集まったのは福田、伊藤、谷川、真壁、大嶋おおしま亀井かめい角野かくの。大嶋が男で、亀井と角野が女。三人とも真壁が用意したメンツ。そして男が一人余るように組んである。亀井の話を聞くに、その一人は必ず伊藤になるようにされていた。

 集まった七人は飛行機に乗り、目的地に飛んだ。


「引き返せるなら、私はあの時の飛行機には絶対に乗らない」

 福田は今、そう語っている。

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