第48話

 

 小マロと大マロを見比べる。

 見た目の違いはサイズだけだよね、なんで分かれちゃったんだろう。


 大マロに向かって吠えていた小マロがハッとしたようにこちらを見た。

   いや、私達はずっと此処に居ましたよ。


 唸り声を上げにじり寄って来る子マロの前に、みうが尻尾を叩きつけた。子マロは私達よりちょっと大きいぐらいしか無いから、みうとの体格差も凄い。

 みうは怖いけど、私の元には来たいらしくじりじりと回り込む子マロ。みうが見逃すはずもなく、あっさりと尻尾で転がされて情けない声を上げている。


 ありがたい事に大マロは大人しく、襲ってくる気配も無い。この違いが融合出来なかった所以ゆえんだろうか? 大マロが私を見る目にも落ち着きと優しさが滲み出ている気がする。

 尻尾に延々特攻して来る子マロとは大違いだ。


 止めるイシャルを制して、子マロを見守る大マロに呼びかけてみる。近付くと本当に大きい。


「マロ、どうしてこんな所にいたの?」


 マロは私の伸ばした手に鼻先を近づけ、横に押すように顔を動かすと、さぁ? ってな感じで首を傾げる。

 そうよねー、意味分かんないよねー。私も分からない。

 あっれー、名前付けたら通じ合うとか言ってたのにね。思い出しただけで付けてないけどさ。

   大マロはデカすぎて下舐めの顎と鼻しか見えない。それなのにさぁ? 感を感じたという事が既にエスパーと言うことですか?


「主様、ご無事で」

「やっと追いついた。もう、夕菜ったら!」

「おや、また面白い事になっていますね」


 大マロと首を傾げあっていると、皆がやって来た。


「お疲れ様。イシャルとみうが来てくれたから大丈夫だったよ」


 ラティファが「大きくなったわね……これ大丈夫なの?」っと言いながら近寄ってきて「なにさっくり喰われちゃってるのよ! 自分で言い出したくせにノーガードで食べられるとかありえないでしょ」っと私を揺すった。それねー、本当に驚いたよね。


「ごめんごめん、我ながら間抜けだったよ」


「主様、ご自分を囮にするなどおやめ下さい」


「あまりにもあっさりと食べられたので笑ってしまいましたよ」


 はははっ、ですよねー。


「所で黒いのは全部集まったわけだけど、コレで帰れるのかな?」


「勿論帰れます。あの小さい方の黒犬をどうするかですが……」


「別にあれ1匹位なら襲われても負けないし、放置でもいいんじゃない? 尻尾にコロコロされてるの見ちゃったら怖がってたのが馬鹿馬鹿しくなっちゃった」


「そうですね。後は夕菜がたまに来て黒犬を宥めれば、そのうち収まると思いますよ。あのサイズなら即死はしないだろうし、いっその事殴り合いで解決するという手もあるかと」


「いや、無いわ!」


 か弱い乙女になんて事を言うんだ。

 でも良かった、これで帰れるんだね。小マロには悪いけど帰らせてもらおう。

 カイくんとフィナちゃんとセグさんにも心配かけてるだろうし、大捜索とかされちゃう前に戻りたい。


「みう、ありがとう。もう戻ろう」


 みうの至福の丸太股にスリスリしてから告げる。


「にゃー」


 返事をしたみうが、走りこんで来た小マロをフワフワ尻尾でいっそ遠くまで振り飛ばす。みうはここでも相変わらずにゃーだね。

 さぁ、ラティファに頼んで戻ろうかと振り返ったら、みうのふわふわ尻尾が押し付けられた。


「掴まって言ってるよ」


「尻尾に?」


「乗せて行ってくれるって」


 意外と身の詰まってない尻尾に掴まると、プラーンと持ち上げられる。怖っ!

 立ち上がったみうの肩の辺りに降ろされたので、恐る恐る手を離して肩の毛に掴まった。


 下の方から怒った小マロの吠えるのが聞こえる。

 

「マロ、ごめん。また会いに来るからね」


 わたしがそう告げると、ラティファがおかしな事を言い出した。


「みう様が小さいマロも連れて行けば良いって」


「え、あんなに敵対心剥き出しなのに?」


「夕菜は大きくなるんだし、問題ないだろうって。夕菜が居れば私達には向かって来ないしね」


 えー、そうなの? まぁ、皆が良いならいいけどさ。


「皆が良いならいいよ。結局通じ合うとか無理だったし、マロのサイズ的に皆に面倒見てもらう事になるかと思うんだけど、いいの?」


「私は良いわよ、何か可哀想になって来たし」

「私も良いですよ、楽しそうですし」

「お心のままに」

「了解です。では主様、失礼します」


 ラドが私の肩の上から脇の下に腕を回してしっかりとみうの毛を掴んだ。

 近い! 密着度やばいよ。コレ体がパールじゃ無かったらホーリンラブもんだね。


「えーっと、じゃ皆マロが迷惑かけるかもだけど宜しくね」


「了解」っと軽い感じで返事をしたラティファがGOを出す。


「みう様、OKです。夕菜はちゃんと掴まっててよ」


「了解」


 グッと後ろ足に力を貯めて、みうが飛び上がった。体が下に引っ張られる。

 3回ほど、何も無い空中を蹴りながら駆け上がったみうは黒い影に飛び込んだ。


 背中に押し付けられていた体がフワッと浮き上がる。ひぃぃ、この感じ無理。背中に感じるラドの心強さに励まされて、目を開けると着地する瞬間だった。各部位、衝撃に備えよ!

 体を引き寄せて衝撃に備えたけど、ストンっと軽やかに着地したみうの膝の賜物なのか、フワフワのアンダーコートに押し付けられただけでみんな無事だった。


 あー、良かった。無事に戻れたね。此処は元いた道場だよね。顔を上げてると、腰を浮かせた体制で此方を凝視するカイ君と目が合った気がした。


 うわー、カイくんでっかーい。


「ユウナ?!」


 空気の振動を感じるほど大きな声が、すぐ後ろから聞こえた。振り返って見上げると、フィナちゃんとセグさんが呆然とした顔で私を覗き込んでいる。


「ただいま」


 みうがまた尻尾を差し出してくれたので、皆で尻尾に掴まって下ろしてもらった。


『皆ありがとうね』


 お礼を言ってパールパーティから離れる。


『よし、ラティファ戻してくれる?』


『……分かった。あるべき姿へ』


 ラティファが杖を向けて呟くと、ガラスが割れるような音が響いて瞬時に元に戻った。


 みうがペっと吐き出したマロが、足元に掛けてきて吠え立てる中、大きくなった私は改めて挨拶した。


「ただいま!」


「おか······えり?」


 フィナちゃん、何で疑問系なの?



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