第47話
みうの尻尾を避けて、後ろへ下がる。
みうはどうやって来たんだろう? 影から出て来たようにみえたけど。
「みう、気を付けて」
ウチらよりは大きいとは言え、マロよりはだいぶ小さいから心配だ。
スタっと、イシャルが黒犬から飛び降りて来た。え、イシャル居たの?
「主様、良くぞご無事で」
「イシャルもね」
「皆主様を心配して居る事でしょう」
そーだねー。バックリいかれたから、まさかこんなにピンピンしてるとは思ってないだろう。何か申し訳ない。
「失礼!」
突然、イシャルが私に飛び付いて来て地面に伏せた。
サッと影が差し、黒犬に黒い液体が張り付いていく。黒い塊はいろんな方向から飛んできた。
黒犬は嫌がるかのように吠え、体を振り液体を振り払おうとしている。アレってあの液体だよね、黒い動物倒して集めてたやつ。
って事は、あの一際大きな塊が飛んできた方向が、みんなの居る方向よね。
「あれを追って皆も向かって来ているかと」
「うん」
みうを置いて向かうのもアレだし、行き違いにもなりたくないから大きな目印のあるここにいる方が良いよね。
「そう言えば、此処はあんまり草が生えてないね」
今までと違って、木も細く立ち枯れたようなヒョロい木しかないし、下草も
まさか、お腹の中にいる間に山の山頂付近まで連れて来られちゃった? なんか寒いし。
「イシャル、ウチら凄い移動した? 景色が全然違うけど」
「時間的には大したことはないとは思うのですが、黒犬の脚で駆け登ったので……」
「なるほど、マロ速そうだもんね」
イシャルが震える両手を持ち上げて答えた。
「主様が呑まれた瞬間、首に刀を差しそのまま此処まで来たのですが、激しい揺れと風で掴まるのに必死で、止まった時には指が動か無い有様でした。体感では半刻にも思える時間でしたが、実際はそう経っていないかと……」
取手のみ、シートベルトは勿論、座席無しのジェットコースターに乗ってきた様なもんだね。それじゃー、時間なんて当てにならないかもね。
車位の速さだとしても、10分で歩いて1時間はかかる。援軍はないと思った方が良さそうだね。
それに、マロは戦うどころじゃなさそうだ。
方々から飛んできた黒い液体に纒わり付かれて、巨大なスライムみたいになっている。
体積もどんどん増えて今や元の3倍位ありそうだ。
このサイズで犬に成ったらお手上げだよね。
「ねぇ、イシャル。ここに来た時に、名前をつけたら心が通じるとか言ってなかったった?」
「目の前で繰り広げられているコレが答えでございます。名の元に成っていく」
全身黒液だらけになったマロはくぐもった声を上げながら暴れている。
なんだか思ってたのと違う。もっとこう、融合するって感じなのかと思ってたのに、喰いあってるみたい……。
「そうなの? まぁ、何にしろこっちに向かってこないならありがたいよ。皆ちゃんと来れるかな?」
「黒い敵が居なくなったので、問題なく辿り着けるかと」
普通の敵はあんなに纏まって襲ってこなかったもんね。なら、安心して見物してればいいのかな?
ちょっと可哀想になって来たんだけど、別にマロが食べられてる訳では無いんだよね。
落ち着きを取り戻した尻尾をやり過ごして、みうの後ろ足に手を掛ける。
「みう、来てくれてありがとう」
「みゃー」
腰を下ろしたみうの、真ん丸太股に全身を埋める。全身で感じる圧倒的もふもふ感!
甘い花の香りのような、いい匂いもする。
目を瞑って深呼吸をした。うーん何だろうこの匂い、落ち着く。
目の前には流動する黒い塊がある。ウニの様にトゲトゲしたり、マグマのように弾けたりする。もうどこを見ても、元の形なんてわからない。
「マロ……」
ドクンっと黒いスライムに棘が生え、消え、大きく波打った。
「マロ、あの時はごめん。怖かったよね、痛かったよね」
謝った途端涙が溢れてきた。やっと謝ることが出来た。
突き出したりボコボコ膨らんだりと忙しかった黒い塊が、滑らかに渦巻き始める。イシャルが慰めるように優しく肩を叩いた。
「見て下さい、成ります」
巨大な塊が、独楽のように回り始めた。
段々と軸が安定して静かに、早くなって行くのをただ見詰める。
「主様、向こうでの黒犬の死に責任を感じで居る様でござるが「え、死んでないよ」……そうなのですか?」
「私が知る限り」
「……」
あの日、泣きじゃくりながらより君家の庭に突撃して箒を奪い合っていると、近所のおじさんが止めに来てくれたのだ。止めなさいと言って近付いて来るおじさんを見て、より君は逃げ出した。
おじさんは怯えるマロを病院に連れて行ってくれた。肋骨が折れていたけど、命に関わるような怪我ではなかったらしい。
レントゲンを撮っただけで、一切治療もしていないのに7000円取られたのが衝撃的だった。
おじさんがより君の親に話しをして、マロを引き取ってくれた。
次の日お母さんと一緒におじさんにお礼を言い、良いよというおじさんにお母さんがせめて病院代だけでもと7000円を手渡した。おじさんは何時でも逢いに来ていいよと言ってくれたけど、怖くてマロの顔が見れなかった。
早く止めてあげられなかった事。不安に思いながらも、より君に渡してしまった事。
恨まれても当然だと思うと、合わせる顔も無い。マロに逢うのが怖くて、それっきり逢いに行くことも出来なかった。
怖い、嫌な気持ちに蓋をして忘れてしまったのだ。
回想に浸っていると、回っていた黒い塊の表面が空気に溶け始め中から大きな美しい犬が現れた。その足下にはこっちを睨みつける小さな犬が居る。
「えーっと、1匹になるんじゃなかったの?」
「その筈ですが……」
名の元に成る!っとか言ってたじゃんね。
大きなマロが小さなマロをペロペロ舐めるのを、小さなマロが抗議するように吠えている。
「これ、どうすればいいの?」
「……」
「にゃー」
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