第45話
大口を開けて飛び出して来た顔に呑み込まれる前に、私はラティファが放った衝撃波で横にぶっ飛んだ。
小さく成ったからか、地面に叩きつけられたというのに思った程痛くはなかった。ゴロンと起き上がって水溜まりから離れる。
杖を振っただけなのに、衝撃波とか出せるんだね。
「ありがとう」
ラティファにはもう2回も命を救われてしまった。
「さっきから狙われてるし、水溜まりは勿論、水柱にも気を付けて」
「あんなでっかい顔が出てくるなんてびっくりだよ」
顔は直ぐに戻ったけど、早く削らないと、唾を吐かれまくったらト◎マーズ状態になってしまう。
黒犬が顔を突っ込んだ隙に、首に刀を突き刺し犬の上に登ったイシャルが、2本の刀を交互に突き刺す。
黒犬にとっては爪楊枝サイズの刀でも流石に首だと効いたのか、唸り声をあげると体を震わせる。抑えてるとはいえ、今までミリ単位でしか減らなかったHPが目に見えて減った。
犬の体を覆う黒い液体が波打ちながらイシャルに向い、弾き飛ばした。
クルクル回ってベチョっと着地したイシャルに、空かさずウォーターが直撃する。
ラティファ有能だなー。
「かたじけない」
「イシャル、今ので結構減ったよ。また宜しく」
「御意に」
イシャルはあっさり戦線復帰して行ったけど、ラティファがギロりとこっちを睨む。
「まさかワザとあれに近付く気? 辞めてよ」
「条件は分からないけど、何も無いところにも水柱は出せるみたいだし、そっちの方が怖いよ。出てくるって分かってるなら大丈夫」
納得したのか、ラティファは渋い顔を正面に戻しながら「せめて障壁を金剛に変えておきなさいよ」っと忠告してくれた。確かに私なんて減殺しても余裕大ダメージ受けそうだしその方がいいね。
「貼り直すから、水柱来そうだったら杖で飛ばして」
「了解」
ラドに掛からないように下がってから唱えた。これで即死はしないはず。どれ位もつのかも検証しとかないと不安だね。
最初に居た位置に戻ると、黒犬がまた赤い瞳でこっちを見た。イシャルとムスターファが攻撃してるのに、私を見ている。
あの黒犬、殴られてるのに余所見するのもおかしいけど、そもそも積極的に攻撃して来てなくない?
しばらく観察してみたけど、やっぱりおかしい。
黒犬に空間系以外のなんの技もないと仮定する。それでも体格差と言っていいのかと思うほどのスケールの差で、うちらなんて蹴散らせるよね。
私を狙ってるのは置いといて、ラドに前足掛けたのだって邪魔だっただけっぽいし、イシャルのは完全自衛だし。
「ラティファ、あの黒犬戦う気あるのかな? 反撃してるだけって感じだし」
「はぁ? あんた2回も思いっきり攻撃されてたじゃない」
「私は恨まれてそうだけど、黒犬が本気なら皆はもうとっくに殺られてると思うんだよね。だって、考えたらあんなに殴られてるのに全然反撃してない」
ラティファが「確かにそうね。でかいし黒いしで見た目が禍々しいだけで、よく考えたら夕菜以外何もされてなかったかも」っと呟いた。
「そうでしょ? 私のだって殺意があったのかは分からないし」
何か嫌な感じはしてるんだけど、自己嫌悪と言うか、胸がゴチャゴチャのドロドロになる。あの黒犬がどうとかじゃなくて、見てると何か嫌なことを……。
「主様!」
ラドが叫んだ瞬間、目の前から犬の顔が出てきた。目の前で杖を振りかざすラティファがスローに見える。
ああ、水溜まりの前に居たんだった。おとり計画の事すっかり忘れてたな。
世界が暗転した。
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