第44話
もうどれぐらい戦っただろう。空に浮かぶ黒い液体は見えない球体の器に半分近く溜まっている。
あの後サックリ蛙を倒して、MPが回復するまで休憩してから山を登り始めた私達は、同じ轍は踏むまいと心に誓った。
ネズミの時は、魔法を使えるイシャル→ラティファの順で静寂を打ってみようという事になった。
イシャルの術は20秒しかもたないらしいから、ラティファか被せて、切れるまでに倒せるのかだよね。今までみたいに時間かけてたらまず無理だ。
でも、ムスターファが大弓を出したし、ラティファが大きいのを撃って、イシャルがアタッカーしたら行けるはず!って事で戦ってみたらゴリ押しだけど、サクサク行けた。
大きいのぶちかますから全力でタゲ固定するラドのMPが危ないのと、戦闘後ラティファが回復する時間が掛かるから効率は良くないけど、安全第一だからね。
これがゲームのレベル上げなら間違いなく最初のリンク戦法の方が美味しいんだろうけどさ。賭けるのが生き返れるのか分からないパーティと、自分の命だとそうは言ってられないからね。
「主様、今までとは比べれぬ程に大きな気配を感じまする。敵は近いかと」
「辺りに雑魚が居るなら全部片付けてからボスに行こうか。イシャルとムスターファはTP貯めといてね」
最早完全ゲームの気持ちで指示する私。
サクッと強化して、後はほぼ見てるだけー状態だからね。皆の戦い方も分かってきた。攻撃魔法も一応考えてみたんだけど、強化の比じゃない恥ずかしさに唱えどころを失ってしまったのですよ。
ラティファが削りきれなかったりした時は打とうと思ってたんだけど、順調だったし。
「釣って参ります」
「お願いね」
相変わらずお祈りポーズのラティファに土俵作りをお願いする。
「ラティファ、土俵は今までの二·三倍の大きさでお願い」
「土俵って……」
ミステリーサークルよりは伝わりやすいかと思って。
あっという間に土俵を作ってくれたラティファに疑問をぶつける。
「ねぇ、ボスってどんなのだと思う?」
「今で散々戦った黒い奴のでっかいやつじゃないの」
「そりゃー、そうかもしれないけどさ。何型かとか、特殊能力とか、嫌な感じがするけど怨念的なパワーは? っとか気になる事は沢山あるじゃん」
「それね、元々そういう恐ろしさを感じて入るのが嫌だったんだけど、ネズミとか色んな黒いのと戦う内に、恐怖が薄れてきたんだよね」
ルーティンワークの弊害ですね。分かります。
悪意の気配に怯えていた私もだいぶ慣れたもんね。今なら「なんだオラ!」って気持ちで戦えそう。
「あ、イシャルが、見つかったみたいですね。何匹来るかな」
嬉しそうだなオイ。
精神の癒しを掛け終えた時、イシャルが戻ってきた。
「2体、ネズミでござる」
そのままイシャルも入れて障壁を範囲で掛けてみる。これゲームなら私が殴られるやつだけどどうなんだろうね。
「主様、私の後ろへどうぞ」
不安げに眉根を寄せたラドが私を招いた。あ、やっぱりタゲくるんだね。今こそリアル庇うを体験する時!
「皆に加速の加護を、
どうせ庇ってもらえるなら掛けておくね。
「主よ……」
そんな目で見られても困るんです。貴方と私は生きる世界が違うの。
「2体とも持つ」
「右イシャル左ラティファで静寂! 右18秒でラティファ重ねて。イシャルとムスターファ全力で左殴って、切れる前に倒そう」
「「了解」」
「分かった」
静寂のリキャスト15秒だったから、打てるようになって3秒で唱えれば良いからわかり易い筈。
「来た、
盾を打ち鳴らして叫ぶラド、私は真後ろに隠れる。
この前目が合ってから叫ばれた気がしたからさ。
イシャルとラティファが同時に詠唱する。入ったね。
「オウ·ステクッドゥ.ジィウ!」
カッキーンって感じに庇うが発動したのを感じた。もう下がっていいよね。
「射抜け! アイスアロー」
下級魔法を打つラティファが羨ましい。ラティファの魔法ってわかりやすくていいよね。
左のネズミのHPがガリガリ減っていく。
「風は
無事に静寂を重ねがけしたラティファが空かさず詠唱した。
「気高き白に染まれ、フリーズ」
雪の結晶が舞ったと思ったら、一瞬でネズミが凍りついた。ラドの盾で、呆気なく砕け散る。
「イシャル、何時切れるか分からないけど、遁術は発動早いから叫びモーション見てから入れてみて」
「心得た」
あーあ、帰ったら辞書引こう。ラティファみたいに魔法使いたい。
これ倒したら休憩して、ネズミ以外でTP貯めてボスかな。
「夕菜、 ラティファ! 走れ!」
珍しくムスターファが焦った様子で叫んだ。
影が落ちる、反射的に振り向くと巨大な漆黒の犬が草むらから出てくるところだった。
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