第39話
首元に刀を突き刺していたイシャルが飛び退くと、兎がゆっくりと倒れた。
倒した······のかな?
何でこんなに突っかかってきたんだろう。肉食獣でも反撃されたら結構逃げるのに、全身傷だらけになっても向かってくるなんて……。
倒れた兎が淡い光を放ち消えていき、蛍の群れのような光の玉が、揺らめきながら私に向かって来た。
えっ、なにこれ。
思わず腕で防御し目を閉じる。
恐る恐る目を開けると、光の玉は消えていた。
「何してるの?」
いや、何か死体が消えて、光の玉の群れがやってきたから怖かったんですけど。
「びっくりした。死体は消えるし、光の玉が向かってくるし」
ラティファが呆れ果てたと言った様子で説明してくれた。
「もう、夕菜は何も覚えてないっていう体で話した方が早そうね」
だから最初から皆が熊と戦ってるのしか覚えしかないと言うとろうが! 熊と戦った事なんて無いと言われたから、その夢も間違いなんだろうしさ。
ラドが盾を撫でながら戻ってきた。
「ラティファ、忘れられていたのが悲しいのだろうが、そう主を攻めるものではない。」
髪を逆立てて怒ったラティファがラドに言い返す。
「そんなんじゃないし!夕菜が不甲斐ないから怒ってるだけだし!」
あ、はい。分かったからそんな怒らないで、色々教えてくれたら助かるな。
「私は本当に何も分からないから。何も分かってないと思って教えてくれるとありがたいな」
ラドをポカポカ殴っていたラティファは、満足したのか、大きく息を吐くと話し出した。
「夕菜はその光を集めてたのよ。その為に戦ってた」
まじっすか、そんな使命があったの? なんの為に?
「こいつらは夕菜の罪悪感に囚われた霊魂の欠片と記憶みたいなもんなんだって、だから解放して、輪に戻すって言ってたよ」
誰その謎人物は。
そんなスピリチャルな事を私が言ったダト?
「謎だ、あの光は何処に行ったの?」
輪に戻ったのかな。
「夕菜の中に吸い込まれて行ったよ。何時もそう」
まじっすか。
思考の海に溺れそうになっていると、ムスターファに助けられて足に矢を生やしたイシャルがやって来た。
ちょ、矢が刺さっとるやん!
「不覚にも避け損ねてしまいました」
「射てしまいました」
ムスターファが大して気にしてない
「大丈夫なの? 回復するにしても、抜かないといけないよね。返しとか付いてるんじゃないの?」
「私が抜くので回復して頂けるとイシャルが助かるかと」
―――私は別にそのままでも良いんですけどね。っと言う声が聞こえた気がした。
「分かった。気を付けて抜いてね」
座りやすそうな岩にイシャルを腰掛けさせて、矢を鋏で切る。振動がいかないようにラドが根元を抑えてたけど、それでも痛そうだった。
腰の袋からペンチ? を取り出すムスターファ。あ、これやっとこだね。ペンチの切れないやつ。
これで真っ直ぐ摘むためにわざわざ折ったんだね。
って、まさかこれて鏃を引っこ抜くだけ?
ラドが細い竹をイシャルの口に加えさせ、竹筒(水筒)から足に水? を振りかけた。
こ、心の準備が。イシャルの傷を癒し給えで良いんだよね。
「行くぞ?」
イシャルの顔を見つめながらムスターファが尋ねる。大きく頷くイシャル。
「1……」
イシャルが呻く声で我に返る。
「い、イシャルの傷を癒し給え!」
よくその微笑みから力が入れれますね。ビックリして噛んじゃったよ。
1って言うからせめて3で抜くのかと思うじゃんね!
血は止まって(血も白銀だったよ!)大分良さそうだけど、まだ治りきっていない。もう一度呪文? を唱えると傷は綺麗に消えた。
「……ふぅ、主様。ありがとうございます」
イシャルの口から竹を外す手が震えている。
やっぱり痛かったんだろうね。
「もう痛まないかな? 良くなった?」
「主様のおかげで良くなったでござる」
良かった。
回復魔法って凄いね。
魔法がなかったら、傷が開いたままで歩き回らせなきゃ行けないところだったよ。上でも使えたら良いのになー。使えるのかな?
そう言えば回復魔法? については聞いたことがないな。
まぁ、まだ簡単な所みたいだしこれから出てくるのかもね。楽しみにしておこう。
でも、どういう事なんだろう。
夢のスピリチャル夕菜が謎すぎる。光を集めて吸収して……。
もしかして私が霊魂? みたいなモヤモヤ実体化できるのって、それと関係あるのかな?
でも、輪に返すって何。
普通に考えると、輪廻の輪とかだよね。だけど、吸収しちゃてるじゃんね。
あー、分からない。先ずはここから出よう。出て、ボスとフィナちゃんに相談してみよう。
あれ、そう言えば何かが怖くて入れないって言ってたよね? 今のうさちゃん?
「ねぇ、今のうさぎが怖かった何か?」
「そんなはず無いじゃん! あんなの雑魚だよ。もっといやーな感じのが拡散してるの。集まったらどんなのになるかと思うと、怖いよ」
またラティファに呆れられてしまった。
てか、あれ雑魚なんだ。私は結構ドキドキだったけどね。
それにイシャルだって怪我したじゃん。2回も!
「主様、これをどうぞ」
ラドが水筒を渡してくれたので、遠慮なくいただく。なんだか喉乾いたんだよね。
"固唾を飲んで見守る"状態だったから、口の中カラカラ。
「ありがとう」
驚いたことに中に入っていたのは仄かに甘い水だった。塩も少し入ってるね。
えっ、さっき傷にかけてたやつだよね。不思議。
「では
「もう良いの? イシャルはもう少し休んだ方が良いんじゃない?」
イシャル頑張りすぎだろう。
こういう時はフレンドリーファイアしたムスターファが偵察を買って出るもんじゃないの?
思わずムスターファを見ると、ニッコリされた。
「良いんですよ夕菜。イシャルは働き者なんです」
ムスターファは本当にいい性格してるな。いっそ清々しいです。
「イシャルに
ハタキで指し示して唱えると、美しい六角形の光がイシャルを包み消えた。
「ありがとうございます主様。では、行って参ります」
元気いっぱい飛び出していくイシャル。元気あり過ぎてなんか忍者っぽくないんだよね。さっきも見つかって連れてきてたしさ。
でもなんか
良し! さっくり嫌な感じの奴とやらを倒して上に帰る。次はもう少し役に立てるはずだ。
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